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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き
2章 王都編

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19.えっ、それが魔人が隠したいことなんですか??

 再び生成されたゴーレムどもを押し返しつつ、上から降ってくる魔術を避けたり避けたり躱したり。正面と上からの同時攻撃に手一杯だ!

 宙を滑るように飛び回る魔人は、赤子の声でキンキンと癇に障る笑い声を響かせる。明らかに私たちを馬鹿にしてる!こいつ、むかつく~!!


「師匠! あんなのやっちゃって下さい!」

「そうだそうだ! あんな気味悪い羽なんぞ叩き折ってやれい!」


 舌打ちと共に雷が放たれる。師匠お得意の雷の術式が、塔の広い部屋に轟く。耳がキーンとするのは音が反響するせい。耳が痛いんですけど! そもそもなんで舌打ちしたのか。絶対私たちの発言にいらだってたよね。旦那と二人して怒ったかな? とこそこそ話をする。


「サボってないで働きなさい!」

「ん、そうはいっても攻撃がとどかんのよ」

「全員に強化の魔術をかける! 気休めだが届きそうなら斬れ!」


 師匠からは全員に向けて魔術による強化が振りまかれる。前に出ない私と師匠にはあんまり必要なさそうだけど。

 私たち以外はみんな前衛だから、ゴーレムを片っ端からずんばらり。ゴーレムの断面からは粉っぽいのが散るせいか、辺りはもう霞でもかかったように少し白けている。


 みんなそんなことを一切気にせず次々とゴーレムを叩き斬る。まるでかぼちゃを切るが如し力技で旦那がゴーレムを両断する。そして周囲の安全を確保したとみるやいなや、私が手渡した礫を投げつけてる。猛烈な勢いで飛んで行きはするが、礫程度と嘲るようにつかみ取り、私たちにそれを見せつけてくる。


「地を這うゴミ虫が悪あがきだね。こんなものが効くわけ──」


 言い終わる前に強烈な光が魔人の目に直撃する。あの礫は私が明かりを維持するために使ってた礫の残りだ。ちょちょいのちょいで光らせることくらいお手の物。薄暗い塔にこもっているコウモリもどきとしては、さぞいい目潰しになっただろう。


「アホねぇ……。明らかに仕込んである飛び道具を掴むとか、頭足りてないんじゃない?」

「いやいや、余計に一つ付いてる位だ、十分だよ。どちらも空っぽな中身だったのがいけない。余裕を見せようと張り切ったんだろうさ。全く、浅はかでかわいいじゃないか」


 攻撃の届かない前衛組は魔人を怒らせるべく口撃を続けている。魔術は冷静さが大事。当然戦いのときもね。隙を作るのだって立派な戦術というわけである。ついでとばかりに放たれる稲妻が魔人に直撃する。目が見えなければ避けられるわけもないよね。


 ただ、伊達に魔人を名乗っていない。地元にあった塔(ギレイの塔と呼ぶべき?)にいた魔人に匹敵するくらいの堅さがある。あっちはドラゴンゴーレムと一体化していたことを考えると、この魔人の方がもしかしたら頑丈かも知れない。塔の立地や大きさといい、より上位の魔人でもおかしくはない。

 師匠の雷(私の魔力を存分に使った派手な奴)を受けてもまだまだ余裕がありそうだもの。まあそれでも固いのは体だけ。心は随分繊細だったようで、顔を真っ赤にして赤子が叫ぶ。


「……忌々しい虫けらがッ!! 黙って死んで──」


 魔人の高さまで飛び上がった騎士隊長の一撃が魔人の片腕をへし折る。そのまま地面に着地して、わざわざ兜の面を上げてから言う。


「何か言ってたか?」


 とぼけたことを言うなぁ! 絶妙な間の取り方に私は思わずクスリとする。でもそんな戯けを許さない心の狭い魔人が一人。折れた腕があっという間にまっすぐに戻る。怒りのあまりか全身を震わせている。二つの声が交互に言う。


「……もういい。たかが街一つ消えようが今更だ。大した差はないや。これより貴様らの全てを……一切合切吹き飛ばしてあげるよ」


 大きく広がる魔力がビリビリと空気を震わせている。えっ、これ本当になんとかできるんです? 正直私はびびった。が、それでも全力で歯を食いしばって前を向く。

 だってそうじゃなきゃおかしい。どんなに怯えたって、怖くたって、私はここにいることを選んだのだ。一緒になって魔人に一矢報いる、ならば最後まで狼の矜持で牙を立ててやる。それが私の意地だ。


 必死に虚勢を膨らませる私だが、当然怖いものは怖い。恐怖に身体が心から冷えていくのを感じる。

 ふと、背に暖かな熱を感じた。怖いからか寒いからか、それすら分からない私の体を、その熱が温めてくれる。


「アンタも"らしく"なってきたわね。でもまずは落ち着きなさい。まずは深呼吸。ほら、息を全部吐いて」


 先輩の言葉に従い、息を吐く。吐ききって、それから吸う。胸がパンパンに膨れるまで息を吸って、お腹がぺたんこになるくらい息をはききる。


「アンタの師匠は何やら思いつきがあるらしいわよ? ほら、あの悪い顔。そんな風に気を張ってたんじゃ、魔人に吠え面かかせるところを見逃すわよ?」


 それはイヤ。仲間の晴れ舞台を見逃したくなんてない。

 師匠へ目を向ければ、確かに悪そうな顔をしている。


「今更──か。随分と長い間好き勝手してきたものだな。計画を前倒しか? もう俺たちから奪い尽くしたのか? お前一体の判断で決めてしまっていいのか?」


 赤子の顔が真っ青に、老人の顔は真っ赤になる。貴様ァ……と二つの声が重なる。呪詛のごとし声と邪視だ。それだけでも人一人位容易く呪い殺しきれそうである。まあ師匠からすれば二日酔いに麦粥、その反応を待っていたことだろう。


 師匠の口から出る怒濤の問いかけ、その一つ一つが的を射ている証拠だ。図星を突かれて怒るのは人も魔人も変わらないんだってこと。つまり、魔人はこの塔を使って何か企んでいる。そして目の前の蝙蝠モドキはその中の一体。言っちゃ悪いけど、勝手に判断できるほどの立場にいるとは思えない。こんなに短気な魔人じゃね。やっぱり集団の長となれば懐の深い人格者じゃなきゃ。多少趣味が悪い部分も目をつぶれるくらいにはね。


「考えているな? 俺がどこまで知っているか。俺が何を知っているか。俺だけが知っているのか。一般に広く知られているのか。もしそうなら困るものなぁ?」


 にやにやと師匠が笑う。魔人は憤怒の表情だけで百面相が出来るくらい腹を立てている様子。ひたすら怒りに油を注ぎ、せっせと煽る。なかなか出来ることじゃない。


「安心しろ。確証を得たのはお前の反応を見たからだ。お前が教えてくれた範囲しか俺にも分かってない」


 返事はない。それに気をよくしたのか、師匠は語る。身振りを大きく、芝居がかった口調で。言葉は最上階に響きわたり、この場の全員が耳を傾ける。師匠は何だかんだ自分の考えを人に聞いてもらうの好きだからな。こんな絶好の機会を逃すわけもないのだ。


「俺たちがお前達から何を奪われてきたか、お前達が何を恐れてきたか。なあ魔人よ、それが何かを当ててやろうか?」


 師匠が腕を上げて、指で魔人を指す。魔人の左右の頭はどちらも黙ったまま。多分師匠が言ったとおり、どこまでを師匠が知っているかを見極めたいのだ。そのくせ全力で高めた魔力をそのままに、私たちをそのまま見下ろしている。見下しているって言った方が正確かも。そのまま顎をしゃくって言ってみろって感じ。むかつく。


 でも、なんだかみっともなくもある。だって賢ぶって見下してたつもりが、完全に師匠の言葉に黙らされてる。今も言い返したくても言い返す言葉が見つからないだけに見える。そんなのに圧なんてかけられてもちょっとねぇ。それを分かっていて師匠は気を持たせるように間を作る。師匠が何を言い出すか、何を知っているかが気になっていて仕方ないのだ。


「──それは"名"、だろう?」


 "な"?

 それは何ぞやと首をかしげる。だが、魔人の反応は劇的だった。目がまろび出そうなほどに見開いている。おっと、これは核心を突いたみたいだな?


「当たりだろう? いや、答えなくても良いぞ。もうこっちは全て分かってる。なあ、旦那?」

「おお、"名"のことだな。ワシも知っとるぞ。ワシら人を、魔人を、ただ一つ定義するものじゃろう?」

「そうとも、その"名"だ。いやいや、手が込んだ真似をしたな、お前達は。こんな大がかりな塔を建てておいて、やることがたかだか概念一つを封印するなんてな」


 え、どういうこと? 私たちを定義するもの?? な??? 先輩と目が合う。瞬時に私たちはわかり合う。あの二人は何を言ってるんだろうねって。


 それでも話は進む。驚いたようにわなわなと震える魔人に対して、師匠と旦那がペラペラと"名"についてを語る。


「ずっと考えていた。塔は何のために建てられていたのかを。国を見張るためか? たかだか100年やそこらで移り変わるような国をわざわざ? その程度のことのためにゴーレムを配置し、魔人を守人にする? 馬鹿らしい。剣で爪を切るようなものだ。俺は魔人をそこまで愚かな種族だと思わない」

「随分年季の入った塔だが、ちょいと調べてみればいつ建てられたかは予想できる。なにせ王都の歴史は長いからな。王朝すらまたいで存続しているこの街にはその時々の地図がある。この場所がいつから不自然に空白になっていたか調べるのは簡単だったぞ」


 それが三百年前。そういうと師匠は足下に転がる礫を拾う。


「例えば。これはうちの馬鹿弟子が使っていた礫だ。どこにでもあるような石ころを適当な大きさに加工し、投げやすくしたものだな。明かりの魔術を使うために構成の一部が刻み込まれているな」


 師匠が朗々と語っているけれど、一体何が言いたいのかな? 単刀直入な師匠にしては珍しく、全然本題を予想させない回りくどい話し方をしている。その場に礫をポイと捨てて、懐から今度はきれいな緑の石を取り出した。……師匠はなんでそんなものを持ってるの?


「さて、魔術を用いて何かを狙うとき──例えばこの石を狙うことを考えたとき、その構成はどのように形作られる?」


 師匠が私を見る。なんでいきなり?! びっくりしつつも落ち着いて答えを導き出す。なにせ散々教えてもらったところだ。夜うなされるくらいに叩き込まれたのだから、忘れるはずもない。


「その構成に投射の段を組み込んで、視線の先を狙うよう定めます。その石を狙って、打ち抜く様にです」

「そうだ。俺でも同じような構成を組む。ただ、石ではなく、クノウ石と指定するがな。ただの石を狙うか、クノウ石を狙うか。そこに違いはあるか?」


 クノウ石とやらを軽く投げ、瞬時に組み立てた魔術の雷で打ち抜いた。


「もちろん違いがある。小さな差ではあるが、わずかに誘導が強まる。人の視線などぶれが生じて然るものだ。より具体的に対象を定めることで狙いはより正確になる。それは一体なぜか」


 師匠が歩く。魔人は動かない。ゴーレムもカタカタ揺れるばかりで攻撃してくる気配はない。


「魔術とは本来もっと自由であり、極めて厳格なものだ。古き時代の魔術師は今より遙かに巨大で精密な魔術を使いこなしていた。空を舞う小鳥をたやすく射落とし、嵐を起こし、遠い地と地をつなげて見せた」


 もはや魔人の目には私たちなど映っていない。ただただ、師匠だけを見ている。


「それがどうだ? 俺たちはそこにある石を狙う、ただその程度のことすら人力で狙い定めなければならない。空を飛び回る小鳥一羽のために大魔術が必要になる。これほどまでに魔術が劣化したのはなぜか」


 師匠がゆっくりと私たちの方へと振り返る。魔人が攻撃してくることはないと確信しているように、その動きは無防備だ。


「しかし、いちいち狙いを定める時間のないものにも使える便利な魔術がある。そうだな?」

「マーキングでしょ。あんたたちのお得意の魔術ね」

「そうだ。マーキング──印とは、対象を定義するための魔術だ。簡易的にではあるが、他の何物でもなく、ただ一つを指し示す効果を持つ」


 師匠は私に向かって礫を出せと片手を出す。ならさっき捨てなければ良かったのに。でも残り少ない礫を一つ、師匠の手のひらに載せた。


「では、この礫を、これから"イシオ"と呼ぶことにする。いいか、イシオだ。それがこの石に付けられた"名"だ」


 イシオ……。石だから、イシオ? あまりのセンスのなさに絶望すら覚える。隣からはダークストーンとぼそりと呟かれる声が聞こえる。


 そうやって師匠はイシオをみんなに見せてから、自分の背後へと放り投げた。


 イシオはきれいな放物線を描き、そして雷に打ち抜かれた。びっくりして師匠を見返すが、イシオを見るどころか振り向くことすらしていない。


「同じことが印術にできるか?」

「できないです。印は発動時点で起点になるだけで、動いていたら普通に位置がずれますから」


 いよいよ師匠の笑みが濃く、深くなっていく。比例するように魔人の表情も苦みを増していく。


「リーダー」

「なんだい?」

「ダンナ」

「どうした?」

「赤毛」

「なによ?」

「馬鹿弟子」

「馬鹿は余計です」


 師匠が私たちを呼ぶ。


「俺はお前達をそう呼ぶ。お前達はそれを自身と捉えて答える。だがおかしいとは思わないか?」


 それは、確かに私たちを指し示す言葉であり、誰を指し示してもおかしくない言葉だ。もし私の髪が赤ければ、師匠は先輩の呼び方を変えたかも知れない。リーダーの役目がもし旦那に移ったら、今度は旦那のことをリーダーと呼ぶかも知れない。誰がどう呼ぶか、それはあくまで私たちの相対的な関係と役目によって成り立っているに過ぎないのだ。

 

 でも、"名"とはただ一つに定めるものだという。


「──もしかして、イシオがそれなんですか……?」

「そうだ」

「ああ~、そっか、なら確かに便利かも知れません……」

「待て待て、説明を飛ばすんじゃないよ。私たちにも分かるように順を追ってくれないか? きっと魔人もそこが聞きたいんだと思うんだ」


 特に魔人に動きはない。じゃあ大丈夫かなとイシオを拾う。黒焦げになった礫だけど、なんとなく愛着が湧き始めている。なにせ師匠の推理が正しければ、この世界で300年ぶりに付けられた名を持つすごい礫なのだから。


「"名"とは、ある存在を一意に定めるものだ。ギルドで旦那と呼べば、四、五人は振り向くだろう。だから俺は必要に応じて俺たちは呼び方を変えてきた。だが、旦那に、ただ一人を指し表す"名"があればどうだ?」


 ただの礫がイシオになったように。


「その人間を知る周囲が、ただ一つの"名"を認めたときに、その言葉はただ唯一の、指し示す本質となる」


 それこそが魔人が本当に隠したかったこと、なのだろう。



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