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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き
2章 王都編

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18.えっ、魔人との接近遭遇ですか??


 階段を上がっていく。一段一段数を数えて少しでも緊張を誤魔化す。大丈夫、足音は一つではない。

 最後の一段を上がりきれば、そこは大広間。森の塔と同じだ。夜のように暗く、だだっ広くて、なんとも乾いた空気を感じる。そして言葉にしづらい違和感がある。ずっと狭い屋内にいたから、いきなり広がった視界にそう感じている。それはある。けれどそんな些細な理由ではないのはわかりきっている。最上階に足を踏み入れた全員がその場で立ち止まっているんだもの。その原因はただ一つ。


 ──魔人。


 木製の粗末な椅子。いつ崩れてもおかしくないようなそれに腰掛けている。これまた随分と古いボロボロの布を纏っている。上から全身を覆っているせいで魔人がどんな風貌なのかは分からない。薄暗さも相まって、まるで暗闇が形になったような存在にすら思える。

 

 それでも分かる。座ったままに、魔人は私たちを見ている。暗くて重い水を湛える、冬の沼のような薄気味悪い感覚に全身が冷たくなるよう。


「お邪魔するよ。少し時間を貰えるかな?」


 一歩。誰もが魔人の視線に縛られて動けない中、大したことなど何もないようにリーダーが踏み出す。てくてくと中央に向かって歩いて行く。師匠は魔人から一切視線を外さないようにまっすぐに。旦那は大広間をゆっくりと見て回るように。目で三人を追っていた私の背に手が当てられる。


「ほら、私たちも行くわよ」


 温かい手。先輩の足取りは軽やかだ。まだ怖さはある。でも、この人達がいるならとも、思う。いつでも構成を組めるように、少しだけ手をにぎにぎとしながら前へと進む。

 今は私たちが動く番だ。まずは会話から。騎士の人達はその方針を尊重してくれている。きっと私が感じたような圧などあっという間に吹き散らしていただろうに、それを待っていてくれた。それがなんともありがたくもあり、自分が情けなくもあり。なんとか挽回しなくちゃ今日は帰れないぞ!


「──ぞろぞろと、虫けらが集まったものだね」


 キンキンと甲高くて耳障りな音。それが魔人の声であることに気付くまで少しの間があった。

 魔人が片腕を上げる。それだけの動作で複雑極まりない魔術が発動する。


 身構える私たちの前にカシャンと何かが落ちる。カチャカチャと音を鳴らしながら立ち上がるそれは、人の身を模したような人形の群れ。


「ほら、さっさと死んでくれないかな。プチプチッと潰してあげるよ! ほぅら!!」


 頭に嫌に響くキィキィ声が吼えると、一斉に人形、つまりゴーレムが飛びかかってきた。


 ***


 もうこうなれば会話どころじゃない。私でもそう思うのだから、精鋭騎士はなおさらだ。一瞬で私たちの前に飛び出して剣と魔術を駆使してゴーレムへと立ち向かっていく。

 当然私たちも遅れない。いの一番にゴーレムの首を撥ねたのはリーダーの剣で、続いて先輩の槍と旦那の剣が唸る。私と師匠の周囲を囲むようにして、静かなる狼と精鋭騎士が扇の陣形を取る。


「まずはこのゴーレムどもを散らさんと対話の席についてもくれんな」


 びっくりしたぁ……。この人、戦いが始まってるのにまだ話すことを諦めてない!

 なら私も腹をくくらないと。いい加減かわいい松明でいることには飽きてた頃だ。師匠の隣に立ち、深く深呼吸をする。さあさ、魔力タンクはここにいますよ! いつでもどうぞ!


 師匠の右手が背に触れる。左手には見慣れた雷の術式。そこに流れ込むのは私から引き出された魔力の塊。その形をよく見ておく。戦いである。けれど人の術式を見れる機会があればよく観察しろと師匠に言われているからね。周囲の警戒と同時にやるのは大変だけど、いい加減慣れてきている部分もある。


 ばりばりと景気のいい爆音がゴーレムの群れに飛び込んでいく。見た目としてはこのゴーレムは木製! 雷で一気に焼き焦がすのはいい手だと思う。衝撃で吹き飛ぶゴーレムの挙動は予想通り。でも意外と頑丈で焦げてるのは外側だけだ。これは予想外。


「雑魚はぶったたけ! おゴーレム遊びで満足したくないんならなッ!」


 旦那が果敢に大群へ飛び込み4,5体のゴーレムをまとめて吹き飛ばす。敢えて横っ腹をたたきつけてハエ叩きのようにした様子。先輩が華麗な槍さばきでゴーレムの関節を貫いていく。動かなくすればいいんでしょと言わんばかりの流し目にゾクゾクする! リーダーの周りには両断されたゴーレムがわんさかと。もうこの人達は心配するだけ無駄だな!


 私がそんな風に暢気にしていられるのは精鋭騎士の尽力によるものだ。普段なら一緒に飛び込んでいく師匠だが、本職たる騎士に任せた方がいいという判断をしているらしい。普通はそうするし、私もその方が安心だ。

 騎士の戦いは何度見ても手品染みた動きで頭が混乱しそうになる。今は2人一組になって剣と魔術を同時に振るっている。彼らの魔術における特色は発動までの短さだ。本当にぱっと手を開くだけの時間で魔術が発動するのだ。多分、あれはかなり特殊な構成の魔術だ。


 騎士は剣士でもあるから、複数で一度に斬りかかれる状況ってのは限られている。だからそれ以外の時間に構成を組んでる。それを騎士同士で共有してる。構成が等しければそれは同じ魔術である。例えどこにあろうとも。だから騎士の一人が構成を組むことで、剣を振るっている最中でも発動するための最終段だけ作れば魔術が発動するのだ。多分。


 ずいずい魔力が引き出されていく。大量に現れたゴーレムだけど、ここにいるのは一名を除けばガチガチの精鋭なのだ。いかな魔人であろうと片手間にあしらえる様な実力はしていない。


 大体のゴーレムが散らされるまで大してかからなかった。お湯が沸く時間ほどもなかっただろう。あとは魔人のそばに残った何体か。しかし魔人はつまらなそうにそっぽを向いた。まるで子供のような幼い反応になんとも嫌な気持ちになる。なんというか自分勝手さが酷い。


「仕方ないね、ここはひとつ明るいのを頼むよ」


 リーダーからのご指名だ。もちろん合点だ! いつでも行けるように私の手元には構成が組みあがっている。

 旦那が表面が少しだけ焦げているゴーレムを持ち上げる。そして勢いよく魔人へと放り投げた! それは初めに師匠が雷を撃ちこんだゴーレムであり、間違えようもなく私と師匠が使うマーカーが撃ち込まれている。


 ぽぉんと宙を飛び、魔人の真ん前に落ちたゴーレム。地面に落ちると同時に私の魔術が発動する。

 火の魔術。有り余る私の魔力をぶち込むように頑丈に作られた構成に魔力が流れ、術式が発動する。


 一気に火球が発生し、炸裂する! マッチや焚火と比べるなかれ、こう見えても石のゴーレムだって焼き尽くしたことのある私の得意技だっ!


 あたり一面を焼き尽くし、薄暗いフロアが一瞬照らされる。いや、転がっているゴーレムにも着火した。これなら松明も必要ないね。

 さあどうだ? 私の魔術を至近距離でぶつけたのだ。ただで済むはずがない!


 ***


 ぱちぱちとゴーレムが焼ける音。めらめら燃える火が影を躍らせる。その中には、魔人が座っている。火にあぶられて消し炭になっていてもおかしくないというのに、まるで変わらずぼろぼろのまま。当然魔人本体にもぜんぜん傷ついた雰囲気がない。その原因というか要因というか、薄い半透明な幕が魔人の周囲を覆っている。


 結界か。時々師匠が使うし、いつぞやの大爆発では私たちの命を(私の魔術から)助けた大変ありがたい魔術。が、心強い魔術も敵に使われればたちまち厄介な魔術になる。

 

 ただ、全部が全部防げたわけじゃないみたい。付近に広がった熱が上昇気流を生んでいた。魔人が深くかぶっていたぼろ布がはためきながら舞い上がっていく。残るのは座ったままの魔人。ぼろ布が地面に落ちる。


 魔人の全身が明らかになっている。枯れ木のように細い身体を折りたたむようにして椅子に腰掛けている。肌は青く、背には蝙蝠のような翼がある。だが、何よりも異なるのは肩から上、その頭だ。何せ二つある。一つは老人の顔。深い皺の寄った老人そのものだ。落ちくぼんだ眼孔や垂れ下がった頬の肉。眉毛は伸び放題。青い肌にもシミができるのかと余計なことまで考えてしまったのは現実逃避だったりする。


 なにせ赤子そのものの顔が隣に並んでいるのだから。張りがある肌、細くて柔らかそうな髪の毛。本当に赤ん坊そのもの。老人の顔がなければ赤ん坊そのものに見え……見えないな、うん。青い肌の子供なんていないし、第一老人の頭に目を瞑っても首から下は普通に成人男性と言えなくもない。言えないが。

 あまりに不条理な見た目に思わず固まってしまう。うううぇぇ、何そのヘンテコな生き物……。魔人かよ。魔人だよ。


 だがこんなものかい? とリーダーが鼻で笑う。まあ普段から魔獣相手にしているなら多少の見た目の違いなんてどうでも良くなるか。


「不愉快な虫けらだね。お前達なんてボクが相手にする価値もないんだよ」


 鼻で笑われたのがカンに障ったのか、赤子の方の口からは見た目通りの高い声が響く。が、こちらは口げんかの専門家揃いだ。間を置くことなく即言葉を返していく。


「虫も自分で払えないのが魔人? あらあら、威勢だけはいいのね」

「仕方ない。枯れ木よりもか細い手足じゃろくに歩くこともできないだろうて。そのくせ羽なんか生やして、ふはは、どっちが虫けらかよう分からんな」

「悪口ってのは言われたら嫌なことを言うのが基本らしい」


 思わずあははと笑う。めっちゃ言うなぁ。私も一枚嚙もうかと思ったけど、どうにもいい悪口が出てこない。むしろみんなはよくもそんなにペラペラと罵倒する言葉が出るものだと感心しきりだ。


 どうにもこの魔人は短気らしい。怒りを露わにして再び魔人が、右腕を上げた。明らかにさっきよりも魔力込めていることがここからでも分かる。


 しかしその腕は上がり切ることなく途中で停止した。なぜか。それは魔人の視線を見れば明らか。


「ズァルディカ、フライゼア、ドルヴィオレ──さて、どれがそうだったかな」


 何を見ているって、師匠を見ている。私の隣で意味のなさそうな言葉を指折り数えながらつぶやく師匠を。今の今までずっと目を閉じていた老人の方の顔が目を開いている。赤子の目は閉じていて、まるでゴーレムのように静かになっている。皺だらけの顔が、明らかに師匠の言葉に強い興味を示している。


「ようやくこっちをまともに見たな?」


 師匠がニヤリと笑って見せた。


 ***


「……そうか、お前達がギレイの塔を崩したのか」


 いきなり深くしわがれた声が響く。さっきまでの人を不快にさせる声から、魔人の声は人を萎縮させるような厳しい声に切り替わったのだ。もちろん口を動かしているのは老人の顔だ。


「ギレイの塔、か。なるほど、俺たちが壊した塔はそう呼ばれていたのか」

「この程度の術士に遅れを取るとは、アレもとんだ恥さらしだ」

「そういうな。どうせお前もそうなる」


 魔人が何かをつま弾く。師匠がとっさに張った結界に小石がめり込んでいる。たかだか爪の先くらいの小さな小石。隣で魔力を供給している私だからそれが見えた。リーダー達には多分見えなかっただろう。たかだかその一粒が、師匠の結界に半ば突き刺さっている。その恐ろしさに、背筋が冷たくなる。


「余計な口を利くんじゃないよ。ボクがいいというまでは黙っていなよ」


 キャキャと半ば笑いながら赤子の頭がいう。たかが小石を弾くだけでこれだ。本気で暴れ回られたらとんでもないことになる。けどそんなの今更といえば今更で。


「あいにく安い脅しにひるむほどウブじゃない」


 ということになる。一気に膨れ上がる魔人の殺意。その再び上がった魔人の手に、何かが直撃する。カツーンと弾かれ床に落ちたのは小さなナイフ。振り返ってみれば、いかにも何か投げたあとの姿勢を保つ先輩がいる。悪びれもせず、大分硬そうねと呟く。いきなりの攻撃への仕返しだこれ!


「……ずいぶんと行儀が悪い虫だね。良かろう。いいとも! 短い命、ここで無駄に散らしていけ!」


 老人と赤子が交互に喋る。随分とお怒りのようである。鶏ガラのような痩せた体が宙へと浮かび上がる。……飛ばれるのは困るなぁ。などと言っている場合ではない! 飛び上がるやいなや腕を振る魔人。からんがらんと床に硬い何かが落ちる音がする。もう見るまでもない。ゴーレムがわらわらと大量に現れている。


 これはなかなか……なかなかだな!



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