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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き
1章 森の街編

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2-2.えっ、弟子なのに甘やかしてくれないんですか??

 私のために魔術講座が開かれるようになったとはいえ、生活するためには先立つものが必要だ。お金を得るためには働かないといけない。それは木っ葉魔術師の私であっても、上位魔術師の師匠であっても同じこと。貯金という体力に大きな差はあるとしてもだ。


 今日の冒険はこの街の南にある村からの依頼だ。農地に害獣が現れたので退治して欲しいとのこと。

 依頼を受ける時の対応は基本リーダーと先輩が行うので、私や師匠、ぽっちゃり戦士はリーダーから説明を聞くことになる。初めのころは先輩の代わりに師匠だったらしいのだが、やつれた見た目のリーダーと全身黒ずくめの師匠相手では依頼人も不安で仕方なくなるだろうなと思う。よって、赤毛で快活な先輩が代わりに受けるようになったとのことらしい。

 先輩曰く、


「あの二人は金銭感覚ってのがズレてるのよね。しかもお人よしだから平気で赤字仕事持ってくるのよ。依頼人なんて泣き落とし一つで費用が安くなるならいくらでもないて見せるもんなんだから。あんたはそういうパフォーマンスを見抜けるようになりなさいよ」


 とのこと。


 まあ私が依頼の場に行くことはないだろうけど。立場的にはまだパーティに所属しているというわけではなく、師匠のおまけであるからだ。

 どうもみんなその辺りをなあなあに捉えている気がしないでもないのだけど。そしてもう一つ、いろいろ師匠について顔を広げているところではあるが、ギルドにはなるべく顔を出したくないという理由もある。ギルド相手にやらかしたわけではないが、前のパーティでは私は相当なお荷物で役立たずだったから。


 クビにしたものとされたものがこんにちはなんて、誰も幸せにならない。実際のところ、魔術師の立ち回りというものを師匠に叩き込まれ始めてようやく自分の害悪っぷりを自覚したということもあって、会わせる顔がないのだ。


 まあそれはいい。あまり考えているとお腹が痛くなりそうな話題だから。

 それよりも今日の依頼についてだ。害獣退治。字面で言えば農家の皆さんでも対処できそうな依頼である。私の村でも時々狼が出たので、男衆が物々しい格好で山狩りしたりしていた。だが、冒険者、それも上位パーティが受けるような依頼はただの獣相手ということはない。無論魔獣相手である。ちなみに言っておくと、獣と魔獣の違いは人に対しての脅威度で決まる。


 魔獣は積極的に人を狙ってくる。獣なら理由がない限りは人を襲わない。まあ子供連れのクマあたりは獣扱いだけど、それは例外かも。脅威としても魔獣ハダシだし。ともあれ、魔獣は危険だから冒険者にやっつけてもらうというのが大体のパターンだ。

 そして今回出た魔獣はハーベストデビルというらしい。曰く、収穫時期になると現れて、作物を荒らすことで農民を森へと誘き寄せて襲うらしい。兎や大ネズミの仕業に見せかけるから、小さい害獣と思って狩りに入った人間を逆に狩る厄介な魔獣だ。


 説明してくれた太っちょ戦士──恰幅の良さから旦那と呼ばれている──に聞いてみる。


「どんな見た目してるんですか? 私の住んでた村だと聞いたことない魔獣です」

「そうだなぁ、ガキが粘土で人の形を作って、さらに尻尾とツノをつけたら完成って感じだな」

「ゴブリンとかみたいな感じってことですか?」

「もう少しでかいな。背の高さはお前さんの倍はあるな。腕は地面につくくらい長い。でかい割に動きは静かでなぁ、森の中だと後ろから忍び寄ってくる。嬢ちゃんも気をつけろよ」

 

 気をつけろと言われても困る。田舎育ちだから多少の森歩きは経験があるけど、あくまで村で管理していた範囲までだから危険なんてなかったし。というか私の倍もあるような魔獣だったら真正面からだって困る。


「あんたは私の前に立ってなさい。そしたら後ろは私が警戒するから安心でしょ」

「そうだね、今回君はみんなの作る輪の中から出ないこと。君の師匠も付けるから安心していい」


 それは助かる! というか、私を魔力タンクとして使いたい師匠からすれば必然的にそばにいることになるのか。先輩だけでなく師匠まで近くにいるならそれ以上の安心はあるまい。


 ***

 

 村に着くと早速リーダーと先輩が村長の元へ向かう。状況確認と、私たち冒険者が村を利用する注意を広めてもらうためだ。知らない顔が村を歩き回るのはトラブルを生むから、あらかじめ話してもらった方がいいのだ。私や先輩みたいに可憐な女の子はともかく、コワモテの旦那や黒ずくめの師匠は明らかにやばい雰囲気しかない。リーダーも痩せてはいても背は高いから圧はあるし。

 

「なんかよぉ、お前の弟子、酷いこと考えてないか?」

「おおかた俺たちの人相の悪さでも考えてるんだろう。腹は立つが事実だからな」

「そりゃ違いないな! おい、嬢ちゃん、こっち来な。俺たちの荒くれっぷりを中和してくれや!」

 

 なぜか考えていることを当てられているが、コワモテ二人が立ってるよりその方がいいだろう。私のようなたおやかで優しい少女がついていれば、どこぞの令嬢の護衛みたいに見えるかもしれないし。


 そんなこんなで時間を潰しているとリーダーと先輩が戻ってきた。ハーベストデビルが出たのはやはりというか、村の奥にある畑らしい。森のそばだ。

 何年かに一度は現れているらしく、幸いにも騙されて被害に合う村人はいなかったらしい。ただ、作物をズタズタにされているため、村人としては頭が痛い問題だ。あまり舐められすぎると普通に村に入り込んできかねない。よって、即時討伐が今回の追加での要望らしい。


「打ち合わせ通り、前衛が外、後衛二人はその中だ。一匹だけとも限らないから、警戒は怠らないこと。多分普通に森の中歩いていれば襲ってくることになるから、いつでも動けるように武器は抜いておいてくれ。いいね?」


 リーダーの指示に従い陣形を組む。リーダーが先頭で、後ろに先輩。進行方向左手側に旦那だ。私と師匠はその真ん中。とはいえ師匠は私よりちょっと右側によっているから、ちょっと歪な四角形だ。

 ハーベストデビルはそこまで森の奥で待ち構えているわけではなく、いわゆる里山的にある程度間引きされた森の中に現れるだろうというのがみんなの意見だ。

 確かに気軽に入り込むには森の奥は怖いところだ。間引きされてはいても森は森だから、綺麗な陣形を作るのは難しい。


 ある程度歩いたところでみんなの雰囲気がピリついてきた。師匠が口元に指を立てて静かにしろとジェスチャをしている。そのしぐさに警戒してみると、ようやく私も不自然な状況に気がついた。

 鳥の声がしなくなっている。魔獣は人を襲うが、人以外も当然狙う。身軽な魔物であれば、小さな小鳥だって容易く捕らえてしまう。ゆえに、魔物が現れた場所では生き物の気配が一気に少なくなるのだ。森の中で退屈凌ぎに語られたそれが、今まさに現実として起きている。


「誰が狙われるかねぇ。大体一番うまそうなやつって相場は決まってるよな」

「じゃああんたね。一番肉があって食べやすそうだもの」

「なら私は最後になるかな。よくガリガリだと言われるし」


 旦那と先輩、リーダーがたわいない話をしている。狙われているというのにずいぶんのんきだ。でも考えてみると私も結構美味しそうに見えるのではなかろうか。ほら、乙女の柔肌っていうし!

 そんなことを考えていると、突如として頭が押さえつけられて地面にキスをする羽目になった。


「ぐえぇ…」


 直後に、私の真上を黒い影が通り抜けていったのが分かった。乙女の出さないであろう声など気にしている場合ではない。押さえられなければ酷い目にあってたことなんて考えるまでもないことだ。私とともに地面に伏せた師匠はすでに立ち上がって剣を向けて臨戦態勢だ。慌てて立ち上がり、みんなの見ている方向をみる。

 ──いた。二本足に尻尾、両腕がだらりと地面に転がるその姿は、聞いていた通り歪な人形にも見える。いや、見えねぇなこれ。腕が長すぎるし、尻尾があるせいで前傾姿勢担っている。聞いた限りの話だけど、リザードマンの方がシルエット的に近いんじゃないかな。


「さぁ油断は無しだ。さっさと済ませよう」

 

 リーダーの声にみんなが頷く。このパーティは静かなる狼と名乗るだけあって、みんな戦闘中に大声を出したりしない。私の前にいたパーティとか、たまにすれ違ったパーティとかは結構気合を入れるために大声出していたのだけれど。方針の差なのか、実力が上がると静かになるのか。よくわからない。

 静かに構える私たちに対してハーベストデビルは不意打ちを躱されたことにご立腹のようだ。キシャアなどと威嚇の声をあげ、腕を地面に叩きつけている。が、そんなものに怯む我々(私を除く)ではない。

 

 いつの間にやら旦那はハーベストデビルのすぐそばまで近づいているし、師匠は私の魔力を引っ張り出している。

 そのしなやかな指が魔術を行使する。

 ハーベストデビルの直近に雷が生じた。師匠得意の雷の魔術である。雷が齎す光と音がハーベストデビルの体を一瞬竦ませる。そして熟練の戦士からすれば、その隙は首を差し出されたようなものだ。

 下から振り上げられた分厚い刃がハーベストデビルの首と胴体を両断する。

 戦闘開始からかかった時間はせいぜい20秒。被害は土に塗れることになった私の顔面だけ。上位パーティなだけあって鮮やかな手際である。

 だがまだみんなは警戒を解いていない。私だっていつだって伏せれるようにちょっと腰を落としている。

 

 リーダーが聞いた村の被害では、一晩で農作物がかなりの範囲でダメにされていたということだ。ハーベストデビルは小さめの害獣を装うので、あまり広範囲の被害が一晩で起きることは考えにくい。つまり、一匹だけではないということ。事前にその可能性を聞いていたから、私も警戒を解かずにいられたわけだ。

 

 魔物は仲間意識というものがほとんどないので、一匹目が倒された後の隙を狙ってくる。目標を達成した後っていうのはどうしても気が緩むから、その瞬間を狙われると大変だ。無論、私たちはそんな隙を晒していないから、ハーベストデビルとしては一匹目と同じ戦法しか取れない。ただ、一匹目と違ったのは、二匹同時に襲いかかってきたこと。


 先輩とリーダーそれぞれを黒い影が強襲した。一匹目を瞬殺した魔術師と戦士をさけ、単独の人間を狙ったわけだ。その選択が良かったかどうかはすぐに結果が出た。リーダーを狙ったハーベストデビルは、目にも止まらぬ抜き打ちにより首を落とされて地面に叩きつけられている。先輩はといえば、ハーベストデビルの突撃をヒョイと交わして、その後頭部に槍を突き刺している。飛びかかりを避けながら、ハーベストデビルが着地するまでのわずかな間に後頭部を突き刺すのだからとんでもない早業だ。

 なお、私には抜き打ちも突き刺しもまるで見えていなかった。師匠の解説を聞いて分かったことである。


 さすがに3匹以上はいなかったようで、もう大丈夫だととのことで警戒を解く。残る作業は後始末だ。

 

 ハーベストデビルの両耳を切り落とし討伐証明とする。それ以外は火葬である。

 師匠に促され、最近教わったばかりの火の術式を行使する。なんとか構成自体を丸暗記することに成功したはいいが、その複雑さゆえに構成を組むのにはすごい時間がかかってしまう。さっき師匠が放った雷の術式は、この火の術式の軽く10倍くらいは複雑だ。それでも1秒かからず組み上げているのだ、この黒ずくめは。師と弟子であっても差がありすぎる!


 えっちらおっちら、なんとか組み上げて発言した火の魔術だが、師匠からの採点は20点。構成の所々がゆるゆるになっているのが良くないとのこと。あやふやな部分をなんとなく組むのは私の悪癖らしい。そのせいで術式の価値(効率ともいう)が随分下がったとのこと。それでも今まで独学で使っていた魔術に比べれば雲泥の差である。かつての私では焼き尽くすことなんてできず、焚き火程度の火力しか出せなかったからね。


「んー、もっと威力出せるんならこの位時間かかってもありかな。もう少し精進しなさい」

「そうだな。大火力に期待できるのはいいことだし、うまく育って欲しいものだね」

「まあ、初めの頃のしょんぼり火力からすりゃ上達してる方じゃねぇかね」


 三者三様のチェックまで受けてしまったが、まだまだ道は長いなぁ。


 ***


 村に戻りさっさと討伐報告を済ませようということになった。今度はリーダーの代わりに師匠が先輩についていっている。説明は先輩一人でもいいが、時々早すぎると苦情を言われて減額を言い出すのがいるらしい。別に時間を掛ければいいということはないのにね。初めの顔合わせをした時、なんとなくけち臭い村長だったのよね、とは先輩の談。そういう時は何を考えているか読めない師匠や圧の出せる旦那の方が効果があるらしい。まあリーダーはかなり理性的な雰囲気あるもんな。やせぎすなのは気にしているとはいうが、その割に食べる量は控えめなのであまり本気で困ってなさそうだ。むしろ何をすれば痩せるのかの方が詳しい。


 太るほど栄養を摂りまくれる人間ばかりではないが、人によってはいくらでも聞いていた痩せるための方法論を聞いていると、報酬を受け取りに行った二人が戻ってくる。案の定値切ろうとしたところを師匠の目つきで黙らせたらしい。ホクホク顔の先輩と、納得のいっていない顔の師匠が好対照だ。きっと師匠が理屈っぽく意義を唱えようとしたところでビビった村長が払うとでもいったんだろう。理屈なしに撤回するんならはなから言わなければいいのにと愚痴っていた。


 ***

 

 街に戻った時にはまだ夕暮れの少し前。明日は休みの日ということもあり、報酬をもらったらご飯にでも行くことになった。旦那と先輩がなんだかテンションが高いが、私はちょっと憂鬱だ。ご飯ではなく、報酬をもらいに行くところがギルドだからだ。

 混み合う時間とはずれているし、前のパーティに会うことは多分ないけれど、役立たずでパーティをクビになった私の顔はそれなりに知られてしまっている。なのにそんな人間が上位パーティ入りしているのだから、側から見ればなんでとなる。


 よって、なんでお前なんかがと、そう詰められることになるのもおかしな話ではないのだ。


 リーダーと先輩がギルドの受付に報酬報告に行き、旦那は店取ってくるとギルドを出て行った。師匠はちょっと次の依頼を探してくると掲示板へ向かっていった。私はみんなの荷物の預かり番としてギルドの隅に立っている。

 そこに、ツカツカと、髪を短く刈り込んだ青年がやってくる。その目線は訝しげに、そして敵意を持って私を見つめている。


「あんたさ、こないだ"日差しの剣"をクビになってたやつだよな? そんな奴が、なんで"静かなる狼"にいるんだ?!」


 その言葉に芯から冷える感覚がある。確かにその通りで、役立たずとしてクビになったような人間が、上位パーティにいるというのはやはりおかしいのだ。


「もしかして荷物持ちの魔力タンク扱いか? あー、なら納得だわ。あんた、全然まともに魔術使えなかったらしいな。上位に媚び売って、役立たず返上したつもりにでもなってんの? それ、だいぶ惨めだぜ」

「そりゃ俺たちが媚びを買うような下劣なパーティって言ってんのかい?」

 

 びくりと、青年が固まる。ポンと、軽く青年の肩に手が置かれる。太っちょの戦士が、いつの間にやら戻っていたらしい。


「それって、要は喧嘩売ってるってことよね、私たちに。浅はかな媚びを買うつもりなんてないし、売られた記憶もないけど、喧嘩ならいくらでも買うわよ? ね、リーダー?」

「まあ落ち着け。そういうのを私たちがやるのは順番が違う」

「んー? ああ、そうね。もっと適任がいたわね」


 納得した風な先輩の横からぬっと出てきたのは黒いローブの全身真っ黒男。師匠だ。


「俺の弟子に文句があるなら、俺が聞こう。さあ、どんな迷惑をうちの弟子がかけたんだ? いくらでも頭を下げるぞ、お前が本当にうちのに迷惑を掛けられたと言うのならな」


 微塵もそう思っていない、慇懃無礼な態度丸出しの師匠が青年に圧を掛けている。その黒い目が、より黒くなって青年を捉える。

 高位の魔術師であれば、視線一つで人を駄目にすることだってできる。第一あんな黒い目ににらまれたくないだろう。私だったら絶対に嫌だ。


「い、いえ、喧嘩なんて、売るつもりはなくって……。し、失礼しました!!」


 流石に上位パーティに囲まれて凄まれれば、どんな人間だって生きた心地はしないだろう。

 あえて開けられていた包囲網から這々の体で飛び出した青年は、いろんな人にぶつかりながらもギルドから一目散に出ていくのであった。


 ***


 ところ変わってここは"静かなる狼"御用達の酒場だ。

 依頼をスマートに解決して美味しいご飯と洒落込もうとしたその直前にケチをつけられたわけで、今一つみんなの機嫌が良くない。

 その原因は私にあるんだから、謝りたくて仕方ない。私のように場違いなところに居座るどうしようもない人間というのはいるものだ。


 みんなが優しく教えてくれていて、私も甘えてしまっていたのだけれど、やっぱり図々しかったのだ。それでも、それでも私は未練がましく縋ってしまう。だって、ここは暖かくて居心地がいいのだ。指導は厳しいけど、陰でこそこそ言われることはないし、私の未熟と物知らずを笑ったりはしない。もしかしたら、私もちゃんとした魔術師になれるかもって、そう夢見てしまうのだ。

 

 だから、溢れた言葉も、弁えることのない図々しいものだ。


「……あの、私、ここにいても、いいですか?」


 師匠が眉を顰める。やっぱりこんなこと聞くべきじゃなかったかも。でも言葉に出してしまった。それをなかったことには、できない。


「なんだ、嫌に殊勝な態度だな。前に言ったはずだぞ、俺の隣に立てるような魔術師になるまで鍛え上げてやるってな。それとも、辞めたいのか?」


 それでも師匠はこんな私を見捨てるつもりがないという。辞めたいか?なんて、辞めさせるつもりが全くないその言葉が申し訳なくも、嬉しい。


「辞めないです!」


 勢い込んで言った後、それでも勢いが萎んでしまう。


「だって、でも……全然役に立ててないのに、みんなについて言って本当にいいのかって、時々思うんです。おんぶにだっこで、前のパーティをクビにされた時から成長していないんじゃないかって」


 ボソボソと、自分の自信のなさを、その理由を告げる。ただの役立たずがって、その目が怖くて俯いてしまう。

 下を向いた私に向けて、自信に溢れた先輩の声が届く。


「確かに初めの頃のあんた、ほんと酷かったもんねぇ。後ろでずっとオロオロしてばっかで。あれじゃ他の余裕ないパーティがクビを選ぶのも仕方なかったかもね。でも、今はずいぶん良くなったわよ? そりゃまだまだ足りないところもあるけど、成長してないなんてことはないから安心しなさい」

「んだなぁ。ま、誰からも教わらずに冒険者になっちまったならあんなもんだと思うぜ。嬢ちゃんも良くなかったんだろうがね、それを補うのもパーティでやるべきことだからな」

「違いないな。基本的な動きすらできてなかったってことは、誰からも注意をされなかったってことだ。パーティ全体の成長を考えればそのまま放置するなんてあり得ない。成長を促すこともしないでクビというのも、乱暴な話だ」

「それがパーティってもんだよな。別に前のパーティを悪くいうわけじゃないけどよぉ、お前さんたちの相性は良くはなかったんだろうさ。指導って点じゃ、俺も姐さんにゃ散々言われてるし、あって当然なんだから気にしすぎもよくねぇぞ」

「あんたはまず痩せなさい。というか、何度言っても聞きやしないじゃない」

「まあまあ、体重は威力につながるからね。私の威力不足を補ってくれてるんだから」

「魔術師の立ち回りというのは魔術師でなければ分かりにくいところがあるからな。他に魔術師がいないパーティだとどこまで口出しすべきかという問題もある。前衛と後衛には壁があるものだ」


 その言葉に旦那が大声で笑いだす。リーダーは渋い顔で先輩もため息だ。なんだろう、視線は私ではなく師匠に向いている。


「それは普通の魔術師がいうべきセリフで、君の言うことじゃないな」

「それだな! 合同依頼で他の魔術師と組んだ時はみんなびっくりしてたぞ。全然魔術使わないし、ガンガン前に切り込んでいくしで」

「私より前から下がったことないくせに、前衛後衛を言っても説得力ないわよ」

「……俺のことはいいだろ。あくまで一般論を言ったんだ」

 

 そしてゴホンと咳払いを一つうち、肩を縮めてみんなを見上げる私の頭を強引に上げさせる。真正面から、黒く艶やかな瞳と目が合う。いつもは真っ黒なだけのその目が、かすかに紫がかかっていることを初めて知った。


「いいか、お前はまだ新米もいいところだ。前のパーティでのやらかしはともかく、俺たちはお前を新人として受け入れている。新人相手に熟練の対応は求めてない。できないことがあれば教えていくのが先達の役目だからな。要は、これからのお前がどうなるかってのは、お前自身のやる気と、俺たちの教え方次第ということだ」

「空回りがちだけど、あんたのやる気はわかってるんだから、分かんないことがあれば私たちに聞きなさい。何度でも教えてあげる。間違ってたら言ってあげる。それでだんだん良くしていくのよ」

「俺の魔力不足は、今お前によって補われている。魔力タンクだなんて言って誘ったのは正直悪かった。魔術師相手に言う言葉じゃなかった。それでもお前は、俺が魔術を使いやすいように、俺のそばから離れないように気をつけている。おかげで魔術の行使が楽にできるようになった。俺たちはお前のその根性を評価している。俺個人としても、できることを増やしてくれたお前に感謝している」


 そう言うと、師匠は私に頭を下げることすらした。慌てる私を手で制し、さらに言葉を繋ぐ。


「今後もお前に求めるものは増えていく。パーティとして強くなるためにな。だが、もう一度言うぞ? 俺たちはお前の努力を評価している。それは覚えておけ」


 そう言い切ると、ガシガシと私の頭を掻き回す。なすがままに私は目をぱちくりとさせる。だって、まだまだ全然足りなくて、役に立たない足手纏いのままだと思っていた。

 でも、私がいることで役に立っていることがあると師匠は言う。私のこれからに期待をすると、みんなが言ってくれている。これからも頑張ろうって、私をちゃんと見てくれると言っている。それが、なんだかとても──。

 

 どうも言葉にできない気持ちが喉に詰まってしまった。


「ま、これからも君には頑張ってもらう。つまり、君もすでに"静かなる狼"ということだよ。狼はチームワークが大事。さあ、改めて、新たなる仲間の加入に乾杯しよう!」

「賛成だ! 元々今日は嬢ちゃんの歓迎会のつもりだったからな! 変なケチが入っちまったけどよ、そんなことはさっさと忘れて楽しくやろうぜ! 今日は飲むぜ! ほれ、嬢ちゃん、ジョッキをもちな!」

「そういうこと。そこの黒いやつがなかなか時間取れなかったせいで延びてたけど、今日の主役はあんたよ。なんでも好きなもの頼みなさい。潰れるまで飲んたっていいわよ? 私がちゃんと宿まで連れてってあげるから」

「お前も対して強くないだろうが……。いつも俺とリーダーで運んで行ってるのを忘れたのか?」

「うっさいわね! 先輩面くらいさせなさいよ!」

「そういえば君の加入が一番最後だったね。じゃあ初めての後輩に舞い上がっているというわけか。妙に面倒見がいいなと思ってはいたけど」

「したり顔で解説すんのやめなさいよ! あんたらもその顔やめなさい!」


 そういうと私の腕を取り、無造作に撫で回され乱れた髪を整えてくれる。


「バカな子ほど可愛いっていうけど、ほんとね。妹分がいるってのもまあ悪くはないわ。冒険中は厳しくいくけど、こういう場なら少しくらい甘くしてもいいでしょ」


 どうにも褒められてはいないみたいだけど、それでも、私はここにいていいのだと、みんながそう言ってくれている。パーティの一員として認めてくれた。それが何より嬉しい。みんなの期待に応えたいと思うから、それだけはなんとか伝えたい。


「わ、私、頑張ります。頑張りますから!!」


 ほとんど泣き声になってて、聞きにくいい決意表明だったけれど、みんなは笑うことなく受け入れてくれた。そうだ、私はこのパーティで、胸を張って"静かなる狼"の魔術師だと言えるようになるのだ。


 みんなでジョッキを合わせて、期待を込めて打ち鳴らす。その音をいつまでも、その後もずっと私は覚えている。


 ***


 酔いがだんだん回るなか、盛り上がりを保ったままの歓迎会が続く。


「最近は魔術について教わっているのだろう? 魔術より剣について教えてそうで心配しているところだよ」

「だはは! 魔術使うより剣振る方が早いだろとか平気な顔でいうもんな、お前さんは。しかもめっちゃ厳しく教えてそうだしな。で、どうだ? お師匠殿は厳しいか?」


 師匠の魔術師としての腕をみんな疑うことはない。本人は魔力の少なさを度々嘆いていても、それが師匠の評価に影を落とすことはないのだ。それだけの信用と信頼が確かにあるのだろう。

 ただ、それ以外のちょっと魔術師らしくないことも、厳しく指導しそうってことも、みんなそれはそれで愉快に思っているのだ、きっと。なんだかむくれた表情の師匠に笑い声が上がる。つい、私も笑いが漏れる。

 これは、師匠の教育方針を緩めるチャンス! 気落ちしていた分を取り戻すように勢いを込める。


「そうなんですっ! 師匠ってば、私のこと弟子なのに甘やかしてくれないんです!!」


 勢い込んで言ったはいいが、みんなの反応が悪い。リーダーは苦笑い、太っちょの旦那は大笑いを始めるし、赤毛の先輩はこめかみを抑えている。そして、黒ずくめの師匠は……。

 元々真っ黒い目を、さらに黒に染めている。ほとんど光が反射していなくて、黒すぎる目が座っている。


「なるほど、俺はどうもまだまだ甘かったらしい。ここらで師弟関係というものをきっちり叩き込んでおいた方がよさそうだ」

「の、のーですよ、師匠。ここは、あの、私の歓迎会ってことになったわけでして……。ちょっとくらいの失言は、師匠の深い度量で受け流して頂けると……嬉しいなって?」


 思い切りゲンコツが振り下ろされ、私は反省しますと10回も言わされることになった。師匠からは以後馬鹿弟子と言われるようになってしまったが、正式にパーティ入りということになったのだ。それくらいはよしとしよう。そうして宴は楽しく続くのだった。


 なお、意識をなくした私と先輩を運んでくれたのは師匠とリーダーだったとのこと。パーティ入り確定後に早速の初迷惑で、申し訳なさでいっぱいでした! ……先輩は平然としてたけど(旦那は途中でどっかに行ってしまったらしい)。


 ともかく、ここから私の立派な魔術師としての本当の一歩が始まるのだった。 


続く



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