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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き
2章 王都編

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9.えっ、お外に行っていいんですか??

 外に出かけるなら気晴らしになる。なんて甘いことを考えていたアホはどこにいる。ここにいる!


 見渡す限りに荒野がある! 岩と砂だけがある。何もないがここにあるのよ! そんな馬鹿を言いたくなる程おんなじ景色がひたすら続く。街道すら、踏み固められたわだちの跡としてしか残っていない。私だまされてない? だまされてるかも……。そんな考えがぽこぽこと浮かんでは消えない! だってただただ歩くしかないんだもの。余計な考えくらいしかすることないよ!


「なんだ、もう歩くのに飽きたか」

「こんなに何にもないところを歩くなんて知っていれば……」

「ついてこんかったろ?」


 そりゃそうだと言えば旦那はワハハと笑う。この人、さてはあまりの暇さに耐え兼ねて道連れを作りに戻ってきたな?


「これから旦那にぶつける文句を考えますから、ちょっと黙っててください。首を洗ってなぁ!」

「まあまあ、道連れが欲しくなる気持ちも今なら分かるだろう? じゃ、分かってもらったところでなんか暇つぶしの話をしてくれや」

「もー。別にいいですけど。じゃあ最近仲良くなった騎士君の話でもしましょう」


 二人で並んで歩く。結構荷物が必要らしく、今回はロバを借りてきている。そのロバを引きつつ、私は最近の王都の様子をのんびりと話す。旦那はこう見えて聞き上手だから私の言葉も弾む。

 

「そういえば、遺跡群は観光地化してるって言ってませんでした? こんなに何もない所に王都の人は足を運ぶんですか。すごい忍耐力ですね」

「いや、そっちの方はもう終わってる。そこそこ観光で栄えてて割と良い所だったぞ?」


 えー、私もそっちが良かったなぁ。


「まあほとんど分かってることの再確認だったな。むしろ本命はこれから行く300年以上前の遺跡だ」


 300年前か。このさびれた荒野によく残ってるものだ。生き残ったという意味ではご利益がありそうだけど、ちょっと古すぎる。書士さんにもその時代について師匠が聞いていたし、こだわるのは何の理由があるんだろうね。でもこの人たちときたら、確証がないとかそれっぽいことを言って私の疑問に答えてくれないのだ。


 まあ詳しく聞かされても結構理解できるか怪しいところがあるから、はっきりした時点でとても分かりやすい説明に翻訳してもらえると助かるのだけど。


「この先の遺跡はな、荒野のど真ん中にぽつりと存在してるらしい」

「旦那が行ってたところと違って遺跡群ってわけじゃないんですね。他の遺跡とは仲が悪いのかな?」

「おっ鋭い意見だな。もちろん理由はある。そもそも何のための遺跡かってことであり、王朝自体が変わったということでもある。その他にも理由はあるが、分けるだけの必要性があったというわけだ」

「ふぅん、なかなか難しいんですね」


 にしても外を歩きながらでもお勉強感覚だな。仲がいいだけあって師匠と同じインテリなんだよなぁ。見た目はただのふとっちょなのにね。


 ***


 ロバに水を上げながら周囲をぼんやり眺めていた。と、何やら街道の先にちょっとした小山が見えてきたような気がする。もしかして:目的地? やったぜ! 喜び勇んで旦那に報告する。簡易的な天幕を立てて粥を作っていた旦那もようやくかとホッとした様子。いや、長かったもんなぁ。


 しかし微妙な場所に天幕を張ってしまったということでもある。やれやれ、本当にやれやれ! 二人して黙ったまま天幕を片して、歩き出す。後もう少しと分かっているから耐えられる時間だね。

 そうして歩くことしばし。いや、見えているだけに逆に長く感じて正直辛かったわぁ……。でもようやく長らくの到着だ! 韻を踏んでみればロバに首を振られる。何をぉ!


「遊んでないでさっさと入るぞ」


 はぁい!ちょっとハイになってしまってたぜ。旦那の隣に立って、目の前に広がる景色を見る。


 なるほど、洞窟ですな。遠目にも分かるくらい盛り上がった小山、その麓に亀裂のように洞窟が口を広げている。人二人並んで歩くはややきつい程度の穴がありますな。日の入る入り口はともかく、なだらかに沈んでいく穴の奥は真っ暗もいいところ。何も見えん。穴には傾斜があって、ずうっと降りて行くことになるらしい。正直ずっと下りというのはよろしくない。足も膝もガクガクになるし、何より帰り道がずっと上り坂になるのが駄目だ。例えば塔みたいに登るって言うなら、帰りは少し楽かなぁって思うのに。そんなことを考えながらも手元にせっせと構成を組む。旦那が私を連れてきたのは単なる賑やかしのためだけではない。


 じゃあああーん! 明かりの魔術だっ!


 私の頭、その真上に光が灯る。ランタンよりもいくらか明るい光源で、周り全部をピカピカに照らす。これも馬車の中で身につけた魔術の一つ。油代が浮くと先輩から好評だった魔術である。私の魔力量なら松明よりお安く使い倒せるからだ。


「よしよし、これなら十分だ。松明要らずで助かるわな」

「でしょう?」


 褒めてもらって私はご満悦。こういう時魔術師で良かったなぁと思うよね。うんうん。どうでもいいけれどさすがにロバ君は外で待機である。いい子で待ってるんだよ? 必要ない荷物を任せて洞窟へと入っていく。


 さあて、冒険の始まりだ! 明かりヨシ、足下ヨシ、魔術ヨシ! 早速浮き石に足を取られてばたつく。……足下、わるし!

 坂道に覚束ないステップを踏む私とは裏腹に、旦那の足運びは揺るぎない。何が違うんだろう……? やっぱりあの低重心かなぁ。もう少し私も肉を付けるべきかも知れないなぁ。


 洞窟の中はひんやりとしていながらも、すこしほこりっぽい。洞窟にありがちな湿っぽさはない代わりに、乾燥しているんだな。荒野のまっただ中だし、雨が降ってもすぐに抜けていっちゃうんだろうね。妙に鼻がむずむずするのはほこりのせい。個人的にはかび臭い匂いは苦手だからこっちの方がいいけども。


 しばらく坂道を下っていく。特に分岐や罠はないみたいですいすい進める。迷う余地がないのはいいことだけど、逆になんか不安。というかなんか長くない? 随分深くまで降りて来ちゃってるみたいなんですけど。


「深い方が大事な物の保管にはいい。朝から晩まで温度は変わらんし、少し雨が降る程度では雨漏りもしない。大事な記録をしまうにはいいことづくめだ」

「代わりに時間も疲労もすごいですけどね。坂道ですし、上手いこと転がっていけませんかね?」

「誰も受け止めちゃくれんぞ?」


 ううむ、私の冗談も受け流されてしまったな。しかしそんなにも大事にしないとならない記録とは一体……?


「他の遺跡とは違う役目があるんですよね、ここには?」

「おう。あっちの遺跡は当時の王朝が建てた、いわば力を顕示するための建物の残骸だ。あれはあれで面白かったがな、俺たちの欲しい情報ってのは全くだったわ」

「いい加減この遺跡に来た目的ってのを教えて貰えません? 三百年ってのが大事なことは分かるんですけど、それ以外は何にも分かってないんですよ」


 旦那や師匠、リーダーが懸念しているのは塔のこと。それは間違いない。どうにも進捗の怪しい塔攻略からすると、私たちも行ってこいと言われる可能性が高いから。そして私たちなら塔の最上階まで行けると思う。実力も実績もあるし、塔自体の攻略だってした。今回は騎士団の人達が先行しているから、森の塔よりもある意味楽かも知れないくらい。するとどうだろう。最上階で魔人とぶつかることになる。本当に王都の塔にもいるかは分からないけど、いない前提でいましたってなるとどうしようもないからね。


 ここまで考えると、急ぎ必要なのは魔人対策だってのは分かるんだ。でも、魔人対策に遺跡に潜る。それが分からない。すごい武器が眠っているとかならいいんだけど、こんな風に通には知られている程度の遺跡にとんでもないつよつよ武器があるとは思えないよねぇ。


「おおよそ三百年前、何があったかを知りたいのよ、俺らは。ま、念のための確認ではあるな。場合によっては何の役も立たない結果になるかもしれん。期待通りの結果が見られたとしても俺たちの満足以外得られない可能性も高い」


 でもな。旦那がそう続ける。


「俺たち静かなる狼の一番の強みは状況判断と対応力だ。それはこういう情報収集に支えられている。今使えなくても、次かその次か、いつかは使える時が来るってもんだ」

「まあ知識の大事さは分かります。師匠達に教わらなかったらこんな風に明るくすることなんてできませんもん」


 つと明かりを指さす。光は揺らぐことなく、ただただ私たちを照らすのであった。

 しかしなんだかはぐらかされた気もするな?


 ***


 狭い洞窟の中を二つの足音が響く。その合間に雑談が混じる。誰もいない遺跡では、生まれる音なんてその位。その位のはずなんだけど……。


 どこからか、何かの音が聞こえるんだよな。


「旦那ァ……」

「魔獣が入り込むような場所じゃないはずだが」


 だんだんと近づいてくる。騒々しく、切れ目なくばさばたと音が押し寄せてくる。


「こりゃ羽音だな。ということはオオコウモリだろうよ。この狭さだとちいと面倒かもしれん」

「広くても面倒ですよ!」


 どうするどうするととりあえず両手をばたつかせてオオコウモリを表してみる。この狭さじゃ旦那の分厚い剣を自在にとはいかない。つまり、私か??

 ピタリと動きを止めて考えてみる。ううむ、何とかできるかも知れない。怪訝そうに私を見つめる旦那に提案してみることにする。


「あの、こういうときに便利な魔術を一つ”密かに!”練習してたんです。実は。それをちょぉっと試してみてもいいですか?」

「……嫌な予感しかしないが、まあ仕方あるまい。やってみい」


 許可が出たぜ! 両手をぐにぐにと動かして、秘密特訓中の魔術を構成する。さあさいざ!


 ***


 結果を言えば、オオコウモリは無事に撃退できた。というか洞窟の地面を埋め尽くすように気絶したオオコウモリが転がっている。そして私と旦那も地面に膝を突いている。ふふふ、これはぎりぎり五分ってところか。勝ち負けで言えばね。しかし自分の魔術で瀕死になってるんじゃ世話がないぜ! 同じくふらふらしている旦那に平謝りしつつ、これまた未熟な癒やしの魔術をかける。いやはや、秘密兵器は当分秘密のままにしてた方が良さそうだね……。


「なかなか堪えるな、こりゃ。先にどんな魔術か位は聞いておくべきだった……」

「本当に申し訳ないですっ……!」


 もう地面にこする勢いで頭を下げる。いやいっそ地面を掘り進めた方がいいか? 当然反省の気持ちだ。


「まあいいわ。目的は達したし結果的に危険はなかったしな。むしろちょっと面白いかも分からん。最近じゃこんな風にわあわあ慌てるのも少なくなったし、自分の新人の頃を思い出して面白かったまである」


 そう言ってくれるなら助かるけど、でも当のやらかし新人としては気が気でない。


「今のは、黒いのには内緒にしといちゃる。知られたら大目玉だろうしな。それに、秘密兵器なんだろう?」

「助かります……。一応師匠にも内緒で練習してました!」

「じゃあ見せるときが楽しみだな。ただ、やるときは時と場合を選んだ方がいいな。なんなら俺に確認してくれてもいい」

「本当助かります……。少なくとも洞窟では使わない方がいいってのは身にしみて分かりました」

「それも経験だな。にしても、あの黒いのを驚かせるときが楽しみだな!」

「もし怒られたらちょっとは庇って下さいね?」

「ぬはは! それは約束できんなぁ!」


 無責任に煽るだんなに私も煽られておこう。実際びっくりした師匠の姿は是が非でも見てみたいものだしね。


 ***


 酷いやらかしもまだ何とかなる程度で収まった。結果としては脅威を排除したとも言えるし? ……はい、反省しています。

 で、それを過ぎれば後は歩くだけ。そう長くもかからずに目的の場所へとたどり着いたみたい。


「もう少し明かりを強くしてくれ。んで後ろに立つこと。前にいられたらまぶしくて敵わんからな」


 指示通りにする。構成に魔力を注ぎ入れれば光がより大きく広がる。今まで見えていなかった物まで見えてくる。


 私たちの目の前に、大きな壁が広がっている。大広間と言うべきか、円を半分に斬ったような形の部屋になっている。で、その入り口にいる私たちにはその切断された断面が壁になって見えているというわけ。これで伝わるかな? まあいいか。


 いつの間にか旦那は壁に近づいていて、私を手招きしている。いや、私というよりは私の頭の上にある光を求めてって感じ。ちょっと微妙な気持ちで近づいていくと、私にも壁に書かれたあれやこれが見えてきた。


 それは文字だ。壁面に深くはっきりと文字が刻まれているのだ。軽く見回してみるけど、一切合切全部文字。え、すご。


 読めるかどうかってことについては読めないなという結論がすぐにでた。なにせここは300年前の遺跡なのだから、刻まれた文字だって三百年前のものに決まってる。そんなの読めるわけないよね。ただ数字とかは意外と大きく変わっていないみたいで、左から右に向けて読むというのは分かった。そこは現代と変わってない。歴史上いきなり文字の方向が反転するなんてことも多分ないだろうしね。


 まあなんだ、つまり私の役目はここで立って明かりを付けておくというその一点に尽きる。それって相当暇な気がするなぁ。仕方ないけど、仕方ない。


 全部読むまでにどのくらいかかるかなぁと、ぼんやりしながら待っている。手慰みに構成を作ったりして。旦那が動くたびに追いかけるのも、ずっと立ちっぱなしなのも疲れるから、明かりの魔術をその場に置けるように改良できないか試すのだ。マーカーを上手く付けてやれば離れていても明るさを維持するのができると思うし、なんなら多めに魔力を込めておけば魔力がなくなるまで付けっぱなしにもできそう。


 そんなことを試していれば時間はあっという間である。丸く作った明かりを縦にどれだけ重ねられるかをという遊びをしていると、旦那から何やってるのかと話しかけられた。


「あれ、もういいんですか?」

「うむ。まあ元々確認が一番の目的だったからな。ほれ着いてこい。一応お前さんにも見せておくからな」

「見て分かるものならいいんですが」

「古語も覚えとくといいことがあるぞ」

「こんな機会そうそうなさそうですけど、でも図書院にはこの手の本がごろごろしてるんですよね……」

「王都に戻ったらまだ時間があるだろうし、教えちゃる。でだ。この部分を見てみい」


 壁にはいくつかの文字列が並んでいる。以上。なーんも分からん! 今の文字とは違ってどうにも見慣れないせいか、適当に書いた模様にすら見えてくる。そんな模様を旦那が右の方から指さしながら読み上げる。


「下から読み上げるぞ? まず平原満たす王。緑光を持つ者、王。七紬の王」

「あ、王様のこと書かれてるんですね」

「当たり。それで問題はここだ。ここから上に書いてあるのが何か、分かるか?」

「だから古語は分からないんですって」

「俺にも分からんのだ」


 ん?


「別のもっと古い文字なんですか?」

「いや、文字種は同じだな。一つ一つの文字は分かる。ただ、それが繋がると途端に分からなくなる」

「ええと、"ろ"とか"ば"とか、そういう一つずつは分かって、"ろば"になると分からないってことですか?」

「そうなる。なぜか、ここを境にそうなっている。不思議だな?」

「ふしぎですね……」


 どちらにしても私には読めないから、今ひとつその感覚は分からない。けど、旦那ほどの知恵者が分からないって言うんならそうなんだと思う。ちなみに師匠がここにいたとしても同じ結果になるらしい。


「じゃあ、とりあえずその一文字ずつの読み方だけで読むしかないんじゃないですか?」

「そうなんだが、何の意味もない音の連なりってのはどうにも尻の据わりが悪いんだよなぁ」


 そんなものか。しかし女の子の前で尻とか言うんじゃないよ全く!


 ***


 ともあれ、目標となる事柄がはっきりしたワケで。あとはひたすら書き写して遺跡調査は完了。結局ひたすら文字を書くという点では図書院も遺跡も変わらなかったのではという疑念! でも気晴らしにはなったからヨシとしよう。


 遺跡の坂道をひたすら登っていく。来た道を辿るだけだから特に面白いこともなく。地上に出てロバに再会し、気の滅入る帰り道を二人でぐちぐち文句を言い合いながら歩いて行くのだった。


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