表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き
2章 王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/46

8.えっ、師匠にも悩みなんてあるんですか??

 さてはて。はてさて? 全力で王都を謳歌する私たちであったが、一応情報共有のための打ち合わせはしっかりやってる。冒険者の基本は情報収集にある! ということを叩き込まれているわけで。魔獣討伐一つとっても何体いるかで全然話が変わってくるからね。そういう情報は普段から耳をそばだてることで手に入るのだ。いや、リーダーや旦那は普通に聞いてるらしいけど。


 それ以外にも街中で交わされる噂話を小耳に挟んでみたりね。これは先輩が得意だ。地味に人見知りな私としても同じような役割である。

 ということで集まる情報をまとめると、騎士団の攻略はなかなか進んでいないようだ。なんか塔の途中で真っ暗で前も見えないような罠があるらしい。普通の松明や魔術ではろくに効果がないってんで手探りでの調査中という。それってすごい大変なのでは? 話を聞いているだけでもそう思うんだから、現場ではそれはもう大変だろうな。


 なんて気軽に言ってるけど、私たちからしても他人事じゃない。何せ王都。その膝下どころか鼻先に見つかった塔なのだ。なんとしてでも何とかしろと言われるのは間違いなく。塔を攻略したことがあるのは私たちだけ。いつ引っ張り出されてもおかしくない立場だ。まだ声がかかってないのは王都の冒険者ではないことと、騎士団主導での攻略を目指しているから。どちらかが折れればすぐにでも呼び出しがかかるだろう。と、リーダーは言ってた。


 幸い、森にあったのとは違って中から魔獣が出てくることはないから、今すぐに呼ばれるってことはなさそうだけど。


 まあすぐ行けと言われても、まだ旦那が出張中だから難しいんだけどね。なんか近くにある遺跡に行っているんだけど、このタイミングで行かなきゃならない理由はなんなんだろうね? 師匠に聞いたら話していただろうと白い目を向けられて教えてくれなかった。酔っ払いの相手でそれどころではなかったのに、ひどい師匠もいたものだ。まあ実のところ心配するような場所ではないらしいし、旦那を心配するだけ無駄だ。あの人も大概頑丈だから。


 むしろ本と文字に埋もれる私の頭が心配だ。あれもこれも読んでおけと積まれる本が消えないのだ。なのに隣では師匠と書士さんが楽しげに会話しているのだからたまらない。まるで呪文のように複雑な話を絶え間なく交わしているのだ。目からも耳からも難しい話が入り込んでくるものだから、図書院から出る頃にはいつも私は瀕死である。せめてもっと頭の悪い話をしてくれればいいのに。一番可愛いスカートの長さとかさ。


 ***


 しかし私の頭もだけど、師匠も何やらお悩みのようである。


 もはや日常となった図書院からの帰り道。相変わらず文字と本に挟まれた世界から外に出る。

 夕時で傾いた日差しが、師匠の日に日に深くなる眉の皺をより深く見せる。普段から厄介ごととか謎を拾い集めてくるような変な人だけど、それにしたって今回の悩みは根深そうだ。延々と隣で文字を拾っていく生活が続いたせいか、私にも師匠の表情というか気持ちがなんとなく分かってきてしまっている。まあよく見れば普通に分かる位には付き合いも深まっているわけだからね。


 しかし悩みは概ね今調べていることで間違いなかろうだけど、実は恋をしているとかどうだろう? いや、ありえないか。あったら面白いけど。もちもちした人肌よりかさついた紙の質感がいいとか言いそうだもんな。やっぱり本の読み過ぎって頭に良くないんじゃ……。


 悩みについては私にできることは多分少ない。けど、聞くくらいはできる。大体の場合人に聞いてもらうのが一番気が楽になるのだからね。弟子として、まあ師匠の悩みの一つ二つ聞いてあげるか。どれくらい役に立てるかはさておき、多少の気晴らしにはなるでしょう! にこにこーっとしながら師匠へと優しく尋ねる。お悩みのようですが、私が力になりますよ? 私の持てる全てのやさしさをほほえみに変えて、今必殺の笑顔!!

 

 すっごい深いため息をつかれた。こ、こいつぅ~!!


 私のあふれ出す優しさを以てしてもこの凝り固まった暗黒の塊はどうにもならんようだ。話にならん! 私は宿に帰らせてもらう! 足音よ世に轟けとばかりに荒々しい歩き方で師匠を背にする。すると、少しだけ気を抜くような、息をつく音。立ち止まってチラリと背後を見れば、いかつい皺を緩めた師匠の顔。


「おい」

「なんです? もう私のやさしさは売り切れですけど!」

「ちょっと付き合え」


 私の脇を抜けてサッサと師匠は前を歩いていく。全く、こいつは仕方のない師匠だな、全く!!


 黄金に染まった街並みが藍色に染まっていく。家々からはろうそくや魔道具の光が人の生活を映し出す。お月さまは真ん丸で、魔術による街灯と相まって足元までよく見える。師匠はてくてくと前を歩いているが、特に向かう先があるようには思えない。だってこの先を行けば街の端っこに出るだけだ。王都で暮らしてたくせにあんまり道を覚えていないな、さては。


 ふと視界に、いや、記憶によぎる甘い匂い。師匠がそのまま通り過ぎようとするこの広場はいつぞや騎士くんと来た広場ではないか?

 あまり歩き回るだけってのもなんだし、なにかの縁でもあるかもしれない。師匠を呼び止める。そのまま近くにある椅子に座る。隣の席をポンポンと叩けば、師匠はおとなしく隣に腰を下ろす。うむうむ、素直でよろしい。


「ここ、少し前に来たんですよね。明るいうちだと屋台が出てるんです。それでその中にとんでもなくおいしい焼き菓子が売ってるんです!」

「焼き菓子か。太るぞ」

「おいしいものでなら本望ですよ!」


 もうそれはそれはおいしいお菓子なのだ。この情緒の擦り切れた黒ずくめにどれだけ理解できるかは怪しいけど、私なりにおいしさってやつを伝えてみる。身振り手振り、真剣にあの時の感情を再現し、口の中によだれを満たし。参ったな、そんなのどうでもいいくらい食べたくなってきた。しかし私の努力は実ったらしく、珍しく師匠が少しだけ前のめりになっている。


「それは、ここ以外でも買えるのか?」

「うーん、どうでしょう? 私も図書院にカンヅメ状態ですから、あんまり王都のお菓子事情は分からんのです。でも、次に見つけたら師匠の分も買ってきてあげますね! 期待しててください!」

「そうか、なら頼む。で、それは"なんというもの"なんだ?」

「なんて書いてあったかな? たしか包み焼きとかそんなんだったと思いますけど」


 あれは本当においしいからなぁ。そしておいしいものはみんなで食べるのが一番! 独り占めってのもいいけど、笑い合って食べるのがいいよね。きっと師匠のほっぺたもどろどろに落ちてうっかり満面の笑みになるに違いない。見たら夜眠れなくなりそう! あまりにあんまりな想像に私のほっぺが先にほころんでしまうな。


「それにしても、珍しいですよね」

「わざわざ誘ったことか? お前が悩みを聞くと言ったんだろうに」

「言いましたね! じゃあ聞いてあげます。ほら、悩みの丈をぶちまけちゃってください!」


 ほらほらと師匠に向き直って両手を広げる。


「なんだ、お前に気遣われるのはなんとも癪だな」


 何おぉ……! と言おうとしたのだけど、うっかり言いそびれてしまった。なぜなら、師匠が笑ったから。普段のいじわるそうな悪い笑みではなく、目元を緩めた何でもないようにはははと笑ったのだ。あまりに普通に笑うから、私ときたら何にも言うことが出来なくて、むうとしか声にできなかった。不覚!


「例えば、ただ一つ。何かたった一つのために、それだけを指し示すための言葉というものはあると思うか?」

「?」

「思い付きだ。ただのな」

「よくわかんないですけど、師匠。きっとありますよ」

「適当なことをよく言う、馬鹿弟子め」


 全く口の悪い。あいにく機嫌いいことくらい私には分かってるんですからね! ほんとに、手間のかかる師匠だな!


 ぐぐぐ。師匠の悩みは解決できたのか出来てないのか。まあ気は楽になっただろう。


 それはさておくとして。次の日も朝、昼、夕。または晩。図書院に詰める。本を読む。議論を書き留める。これが延々と続く。


 そろそろしんどいのだ! 静かなる狼全体に降りかかろうとする災難はすぐそばにある。だから私も頑張って本を読む。師匠に指定された教本や、今ひとつ理解できないような歴史書を。頑張る。頑張るが、頑張れる範囲というものがどうも人間にはあるらしい。そしてその範囲は割と狭い。あまりに読書漬けで少ししんどいのは確か。まだ頑張れるけど、先輩からはちょっと心配の言葉が出るくらいには弱っているみたい。目が死んでるとか何とか。まだ少しくらいは生きてますけど。


 旦那が戻ってきたのはそんな折である。もう少しかかりそうだということでいったん切り上げてきたらしい。遺跡に行って何か調べているとは聞いていたけど、随分かかるお仕事なのね。


 久しぶりに全員そろったから、みんなでご飯を食べに行く。やっぱりみんなで食べるのは楽しい。わいわいがやがや、気楽にお肉を噛みちぎりつつ、旦那の土産話を聞く。どこに行ってたのか、私と先輩は聞き損ねていたから根掘り葉掘り聞き出す。が、のらりくらりとあやふやな話しか返ってこない。からかわれている!


 その中で私の状況について話が出た。ちょっとこもりっきりで顔色悪いのよっていうね。そうしたら、旦那が突然こんなことを言いだした。


「なら俺の手伝いをしとくれや」

「旦那のですか?」

「いいんじゃない? 最近ちょっと詰め込み過ぎよ。無駄に根性あるせいでこのままじゃ破裂するわよ、この子」


 破裂はしないと思いますけど……。


「まあ、遺跡見学も勉強にはなるか。良いだろう、旦那の手伝いをしてこい」

「そんなに危険はないと思うけど、あまり無理はしないようにね。旦那も引率頼むよ」

「じゃあお供します! お手柔らかにお願いします!」


 そういうことになった。久しぶりに王都を出て、いざや行かん楽しい冒険の始まりだ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ