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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き
2章 王都編

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7.えっ、私の新しい友達なんですか??


 私が王都ですべきこと。それは本の虫になること! ぐえぇ……。つまりは師匠の付き添いである。

 

 それって私いりますか? 師匠がひたすら本を読んでいる隣で、何とか私にも分かる範囲の本を読む。ちなみにその本の選定は師匠である。師匠は中身を理解していて、私が頭を捻らなければ読めない本であることを分かっていて押し付けてくる。それってただの課題図書なのでは? 冒険者は大人しく依頼でも受けていろという向きもあるだろうが、私たちは王都ギルドの所属と言うわけではない。駄目なわけではないけど、あまり自由に依頼を受けるのも考え物である。


 そのため、ここぞとばかりに師匠は王都で羽を伸ばすことに決めたらしく、みんなの前で図書院にずっといるつもりだと宣言していた。この人の羽根はきっとペラペラの紙でできているに違いない。さぞ本の住処と相性がいいだろうね!

 巻き込まれた私はたまったものではない。だって王都最新の流行を摂取しにきたはずなのだ。なのに、かび臭い(図書院はとても清潔な場所なので比喩的表現である。念のため)本に囲まれて、たまに本に向かってにんまり笑うこの黒ずくめのお供。話が違う!


 まあ一応擁護しておくと、なぜ森の街にあった塔が王都にもあるのか。そもそも塔は何のためにあるのか。魔人の目論見はなにか。そんなことを調査するためと言うお題目がある。半分以上は師匠の趣味だとは思うけど。


 本の内容が難しくてうぐぐとつい唸ってしまってお叱りを受ける。さすがに毎日書士さんと議論をというわけにもいかないし、古い資料は出すのにも時間がかかるらしい。だから当面は読書時間なのだ。


 げんこつで出来たたんこぶをさすりつつ、ひたすら文字を追う。ちなみにこんなにも私が真剣に本を読んでいるのにも理由がある。というのも、先輩は毎日好きに出歩いているし、リーダーは大いに遊びまわっている(身に着けている変なアクセサリが増えていた)。師匠だって好きで図書院に来ている。旦那はまあ、出張中だから別としても、私だけが何にも楽しめていないのだ。それが許せるだろうか? いや許せない(反語表現)。


 師匠が図書院にこもってから7日目に、現状と不平と不満を私はぶちまけた。周りの人に迷惑をかけないように、すごく小さい声で文句を言い続けたのだ。目の前に座る師匠にも聞こえないほどの小さな声だ。それをひたすらに。ひたすらひたすら一息で人はどこまで愚痴をこぼせるのかに挑戦し続けていたら、やっと師匠が折れた。


 この本を読んで理解したなら遊びに行っていいと言ったのだ。何なら小遣いもくれるらしい。目の前にニンジンをぶら下げられて奮起しない私ではない! ん? 奮起する私である?? まあどちらでもいいか。とにかく頑張っているのである。


 ***

 

 結局丸一日かかったけれど、本の内容についての口頭試問も無事突破した私だ。つまり、自由だ!!


 ようやく得たお休み。残念ながら先輩は研ぎに出していた槍の引き取りがあるらしく、午前中は私の一人行動。いいのか、私を一人にして? いいのだ!

 王都の街を歩く。明るい陽射し、陽気な人々、軽やかな呼び声。さあさ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。そんな掛け声にまんまと引っ掛けられ小さな木彫りの鳥を買う。おさるの芸を見てきゃっきゃと笑い、おひねりを投げる。そこのかわいいお嬢ちゃんと呼ばれて、気をよくして赤い果実を買う(サービスだと1個小さいのもくれた)。しゃなりしゃなりと歩く様はもうすっかり都会になじんでいると言わざるを得ない。


 と、どこからか私に向けた視線を感じる。冒険者としては一応それなりに森をうろついていた経験上、視線には敏感なのだ。その場でくるりと一回転する。ローブがふわりと舞い上がっていい感じだ。そして視線の元を見つける。なぜかびっくりした顔をしているその人に、ちょっと見覚えがある。


 とととと近づいて顔を確認する。金の短髪で、背は高い。鍛えた筋肉が服の上からでもわかるその人は、多分騎士だ。私の知り合いに騎士はいないが、関わり合いにはなっているので、その時のことを思い出す。そう、ギルドの個室で色々とこまごまとしたお手伝いをしていた人だ。新入り、と呼ばれていたのを思い出した。


 新入り。つまり私と同じだ。もちろん魔力タンクとして冒険者のパーティに入った新入りと、厳しい修行の末に騎士団に入った新入りでは色々と格差がある。あるけれど、でも同じ下っ端である。仲良くできる気がしてきた。

 思わずニコーっとしてしまう。仲間だ、仲間!


「私に何か御用ですか?」


 ちょっとだけ外面をよくして話しかけてみる。下っ端同士とはいえ、多少の見栄は私にだってある。


「……君、塔攻略パーティの魔術師だね? こんなところで何をしているんだ?」

「観光を。私王都は初めてなので」


 ああ、そうだったかと新入り騎士は納得したようだ。でも顔は険しいまま。というか、もしかして私しょっ引かれるところだった? そんなに不審な動きはしていないつもりなんだけどなぁ。

 むむむ。なんというか、ちょっととげとげしているね、このお仲間は。新入り同士仲良くしたいんだけど、難しいかな? とりあえず話しかけてはみたけれど、迷惑だったかも。


「観光するのはいいけど、一人は良くない。王都でも治安の悪い場所はあるし、女性一人相手に不埒な考えを起こす人間だっていてもおかしくない。パーティの仲間と行動した方がいい」

「あっ、はい。一応午後からは合流する予定です。ええと、大通りでもあまり良くはないですか?」

「大通りの中央を歩くなら構わないけれど」


 違った。むしろ私のことを心配してくれる優しい人だった。ちょっと嬉しくなった私は彼の言う大通りの中央を見てみる。

 やや! 確かにみんな用事のありそうな雰囲気でせかせか歩いている。確かにこの流れの中にいれば厄介ごとに巻き込まれることは無さそう。


 だがしかし!


 私は大通りや中小の通りにある屋台とかお店を見たいのだ。ただ歩き回りたいわけではない。

 その気持ちが顔に出たみたいで、新入り騎士さんも微妙な顔をしている。いや待てよ? 私がこの人を"多分"騎士だと言ったのは、この人が普通の服を着ていたからだ。シャツとズボン、サスペンダー。体格と姿勢の良さに目をつぶれば、大分ただの一般人である。町人だ。騎士の仕事はリーダー曰く、治安維持のための番犬ということである。騎士らしくみせないと番犬にはなれない。つまり今は仕事中ではない……?


「もしかしたら、お時間ありますか?」

「ん?」


 ものは試しにとパンと手を打つ。胡乱な目で私をみる新入り騎士に提案する。

 

「もしよければ、王都巡りに付き合ってもらえませんか? 軽い交流を兼ねて、ちょっとだけでもいいので」


 とってつけたような理由だったけど、新入り騎士にはそれなりに響いたらしい。ちょっとだけならと頷いてくれた。ふふふ、これでお前は私の王都での友達一号となるのだッ!

 

 ***


 新入りさん……あまり下っ端ぽくいうのは嫌がられるかな? まあ騎士くんとしよう。多分そんなに年も離れていないと思うし。ということで騎士くんと一緒に歩き出す。さっきまでよりも歩きやすいのは、この人がちょっと後ろでにらみを利かせてくれているからだろう。私が興味を持ったものに素早く気づいて、歩きやすいように先導をしてくれさえする。うちの男どもに見習わせたい心遣いだ。


 とはいえせっかく一緒に歩くのだ。前後に並んで会話するのはいかにも間が抜けている。物理的にもね! 街の中なんだし、隣を歩こうぜ! ということであえて一歩下がる。騎士くんはすぐに私の意図に気づいたみたいで、これまた微妙な顔をしている。まだまだ遠い距離感で並んでいるけど、さっきよりは話しやすいぞ。


「騎士くんは普段から街の見回りとかしているんですか? かなりお店に詳しいみたいですし」

「……衛士時代はそういう任務が多かったんだ。騎士に上がってからはやってないけど、大体は頭に入ってるよ」

「騎士が見回ってくれるならお店の人も安心ですね!」

「まあ、そのための見回りだし。そう思ってくれていればいいと思う。子供の頃、そういう騎士になれたらと思っていたから」

「夢を叶えたわけですね! すごい!」


 そうなるかなと、騎士くんははにかんでいる。真面目でいい子だなぁ、騎士くんは。こんな風に話をしていても見回りの目も欠かさないし、私が逸れないよう気を遣ってくれている。うむうむ。私からも何か上げたくなっちゃうな。


 ちょうど良さそうな屋体と座れそうな椅子を発見! これは私の気遣いが火を吹くぜ! ちょっと待っててもらって屋台へと駆け込む。甘い匂いのする丸い焼き菓子を2人分買って騎士くんの元に戻る。私の素早さに驚いている様子の騎士くんはぽかんとしている。真面目な表情が崩れてちょっと間が抜けているぞ?

  なかなか親しみやすくて私はいいと思うけど。でもそのままにしておくわけにはいかない。買ったばかりでまだ温かい焼き菓子を彼に一つ差し出す。騎士くんは多少の遠慮をみせるけれど、そんな遠慮など知ったことではない。半ば無理やりに押し込めば、戸惑いながらも受け取ってくれる。


「お礼です。私に付き合ってもらっているので」

「……そういうなら、貰っておく。ありがとう」


 椅子に二人並んで座り、焼きたての菓子を食べる。外はカリッと中はとろりと……! う……まい!

 え、これ美味しい! 舌を火傷しそうだけど、温められたクリームが舌にじわっと染み込むように優しい甘さを届けてくれる! 屋台を改めて凝視する。お店の屋号と場所、店主の顔までをきっちり頭に刻む。これは先輩も連れてきてあげないと。


「初めて食べたけど、おいしいねこれ」

「ですよね! これはいいものですよ!」


 隣でボソリとつぶやかれた感想に私も便乗する。いや、ただ目についただけだったけど、いいもの買えたなぁ。温かいってのがいいよね。

 思い切り舌鼓を打ち鳴らす私と、もう食べ終えている騎士くん。さすが騎士は違うなぁ。感心していると、騎士くんはそっぽを向いてしまった。

 あ、でも見回りだけじゃなくてこういうのにもアンテナを張っておくといいですよと上から目線で助言をしてみたり。調子乗り過ぎかな?

 

「……せっかくだから、質問してもいいかな?」

「どうぞ! 言っていいことと悪いことありますけど、いいことならなんでも話しますよ」

「なら遠慮なく。術士さんたちは塔を攻略したんだよね? その時厄介だと思ったこととか、気が付いたことを教えて欲しい。どちらかと言えば、どう思ったのかっていう感想でいいから」


 まあこないだはパーティ視点での話とか、出てくる魔獣とか塔自体の話が多かったもんね。それに騎士くんも下っ端ってことだし、私の視点でどうだったかを知りたいんだろうな。


「そうですね、私は割と入ったばかりだったのもあって全部が全部大変でしたね。一応魔力タンクとして加入してたのもあってそれなりに役にたててたとは思うんですけど」

「魔力タンク? ええと、それは……」

「あんまりいい言葉じゃないのは知ってますけど、私の役割なんです。これでも結構うまくやっているんですよ?」

「ならいいんだ。ただ、冒険者には、新人をいいように使う人たちもいるっていうから」

「当時の私をいいように使えるならそれはそれで才能です。自分で言うのもアレですが、自己流のへたな魔術しか使えませんでしたから」


 うんうん。今思い出すと鳥肌が立つくらいへたっぴな魔術だったなと。すかすかで効率が悪くて、込めた魔力の半分以上が抜けていくというとんでもない燃費だった。私以外じゃ使えないし、私もろくに使えないという踏んだり蹴ったりな仕様なんだもの。


「私が魔力を出す代わりに魔術を教えてもらう約束で加入したんです。あの人たちに拾われなければ私今ここにいないですよ」


 思い切り変な人たちですけどね! そういって笑って見せれば、騎士くんも頬を緩める。

「いや、失礼なことを言った。ごめん。どうにも冒険者との付き合いが薄いから、どうしても斜に構えて見てしまってたみたいだ。……隊長からも言われてたんだ、頭が固いって」

「私も騎士の人たちのことは全然知らないのでお相子です。……正直、ちょっと嫌な印象ありましたし」

「もしかしてうちの副長かな……。面倒見のいい人ではあるんだけどね……」


 あの長髪の騎士ね……。うん、全くいい印象はないけど、すごいいい印象の騎士くんがそういうならいい人ではあるんだろう。


「私も師匠の頑固さとか、先輩の酒癖に苦労させられてますよ」

「隊長がおおざっ……いや、おおらかな方だから、大事な話が直前だったりね」


 思わず笑ってしまう。やっぱり下っ端というのは色々と大変だよねぇ。


「お互い身内には苦労してますね」

「みたいだ」


 おっと、話が脱線しすぎた。それに万一聞かれたらことだ。話を元に戻すためにちょっと森の塔について振り返ってみる。

 ……ふぅむ。あの時はとにかく警戒を続けながらひたすら歩き続けるのが辛かったんだよね。でもそれは私の身体能力の問題であって、このガッチリきっちりな騎士くんには当てはまらないだろう。となれば当然一番厄介だったのはあの魔人ということになる。

「えっと、改めて塔の感想を言うとですね、罠とか魔獣も厄介でしたけど、やっぱり一番は魔人でしたね」

「……魔人か」

「正直出会いがしらの衝突って感じでしたよ。いやゴーレムが出てきてた時点でリーダーたちはなんとなく感づいていたかもしれないですけど」

「魔人にゴーレム。それこそ冒険譚だね。戦いの顛末自体は聞いてるけど、すごい経験を積んでいるよね。戦った当人としてはどうだった?」


 それはもう恐ろしかったですよと。一応名目上は調査で向かったんだもの。戦いの覚悟なんてできてなかった。いや、師匠が煽り始めた時点でそうなるとは思ってたけど。

 

「勝てる相手だとは思えませんでした。報告でも撤退を選んだと言いましたが、あれは本当に無理だと思ってのことなんですよ」

「でも倒したんだからすごい。そっちのリーダーはそういう算段があったんだろうね。本当にすごいよ」


 そうかな……。そうかも……? まあいいか。それよりも、騎士団はそういう逃げ出したりとか問題ないのかな?


「戦術的撤退はありだよ。むしろ無理にとどまって全滅したら後に響く問題の方が大きいから。いっちゃあ難だけど、僕たち騎士は育つまでに金がかかるから。無駄死には一番意味がないってのがうちの隊長の考え方」

 

 へぇ、すごいしっかりとした隊長さんに思える。やっぱり騎士道精神で無茶をするなんて、リーダーの嘘っぱちだな!


「まあ隊内には昔ながらの考えの先輩もいるから一概には言えないけどね」

「……私、声に出してました?」

「そんな顔をしてた」


 どんな顔なのそれは!!


 しかし顔と言えば、騎士くんはあまり顔色が良くない。多分騎士として塔の対処に出ずっぱりだったんだろうな。ただでさえ下っ端なわけだし?

 これは良くないのではなかろうか。そしてそんな状況なのに突き合わせてしまっていることに申し訳なさも出てくる。そういえば、私は今新しく癒しの術式を練習しているところだった。傷にも効くが、顔色の悪さにも多分効くと思う。


「よし、ちょっと癒しをかけますね?」

「え……癒し? まて、なんだその術式?!」


 癒しの術式ですが? その証拠にほら、ちょっと体が楽になったでしょう?


「……いろいろと言いたいことがあるんだけど、でもありがとう」

「どういたしまして」

 

 ペコリと一礼する。さて、そろそろいい時間だ。私もみんなに合流しないといけない。騎士くんへ付き合ってもらったことにも改めてお礼を言って、それでさよならをした。

 

 ***

 

「なにあんた、騎士を付き合わせてたわけ? 酷いことするものねぇ、あの人たち滅多に休みはないのよ? なのにお上りさんのお世話とは、大変だったでしょうね」


 先輩と並んで街を歩いている。最近は髪が伸びてきたから、束ねる紐を買いに行くのだ。おしゃれなお店は一人だと緊張するから、先輩がいてくれて心強いというものだ。お店までを歩きながらおしゃべりする。それで午前中に何をしていたかを聞かれて、騎士くんとの楽しい散策を話した。するとこの一言二言。でもちょっと私もそう思っていたからなんとも言えない!

 

「一応お礼しましたから! それに、私の都会への溶け込みはなかなかのものでしたよ? その証拠にほら、たくさんオマケしてもらえましたから」


 鞄の中に詰め込んだ果実やお菓子、こまごまとした土産物を見せる。

 体格のいい騎士くんに付き添われる私はきっとどこぞのご令嬢のお忍びにでも見えたに違いない。なのになぜか先輩は頭を抑えている。


「さしづめ、アホな妹に付き合わされる苦労性の兄ってところね」


 ひどい!


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