4.えっ、報告は真面目になんですか??
突然私たちのおしゃべりに割り込み、思い切り机を叩いてきたのは、やたらと髪の長い男だった。多分リーダーと同じくらいの年齢かな。やたらと体格もいい。がっしりしているところを見ると前衛職っぽい感じもする。
その人が、すごい早口でまくし立ててくる。多分その中身は文句だと思うんだけど、どうにも早すぎて聞き取り切れない。ともあれ文句を付けられるほどの因縁なんて私には思いつかない。つまり、その相手はリーダーと師匠だろう。
聞き取れた範囲だと、死にぞこないとか、分不相応なとか、なんとも腹の立つことを言っている。センス(服装)が虫けら以下だとか、センス(独特過ぎる)が終わってるとかくらいなら私だって頷いちゃうけど、でも身内だから許される範囲のじゃれ合いに限る。こんな知らない人にああだこうだ言われる謂れはない。
さすがの私もトサカにきたから腕まくりして前に出る。が、それよりも先に先輩が水をぶっかけていた。しんなりとする長い髪。
「呼んでもないのにぺちゃくちゃうるさいわね。黙ってなさい」
唖然としている。仕方ないね。美人でスタイルも抜群で頼れる美人のお姉さんにいきなり怒られることほどびっくりすることはない!
「か、関係が……」
「あろうとなかろうと、あんたの声が耳障りなのが分からない? まだ酔っているなら二杯目をあげましょうか?」
既に私は先輩の脇に控えていつでもコップを渡せる準備をしている。中身は水だけど、店内の注目を浴びた上で水をもう一杯浴びるのは恥ずかしいぞぉ~。
「……失礼した。迷惑をかけたことは謝罪する」
さすがにこの状況で暴れるのはみっともないが過ぎる。のでさっさと撤退を決めたらしい。帰り際師匠達をにらみつけつつ、それでも大人しく店から出て行った。まったく、とんだチンピラがいるものですね。ねえ師匠?
「……そうだな」
妙に歯切れの悪い師匠に首をかしげる。そして見事な啖呵を切った先輩は周囲の酔っ払いから次々お酒をおごられていたのだった。やめて、その人連れ帰るのは私なんだから!
***
次の日は朝からギルドにて報告会だ。一応おさらいをしておくと、私たちは森の街で塔の攻略をした。地元のギルドから出た調査依頼を受けて、塔を守るゴーレムをやっつけたり(火で焼いた)、塔のすべての階層をくまなく歩きまわって精密な地図を作ったり。さらには最上階に座していた魔人との対決もした。そして塔を破壊し、魔人を木っ端みじんにやっつけた(火で焼いた。火は大体の面倒ごとを解決するのだ)。
こうして考えてみるとすごい冒険譚に思える。私が詩人だったら相当かっこいい詩を作っちゃうね。もしかしたら森の街に帰ったら私たちの物語が出来ていたりして!
とはいえ実態としてはかなり苦労していたり、計算違いどころか突飛すぎる展開に翻弄されていた部分も大きいんだけど。今回の依頼はそういう省略されがちな細かい部分を知りたいってコトだから、ちゃんと思い出しておかないといけない。私自身は新人なのであまりどこを気を付けたかと聞かれても困ってしまうんだけど、師匠とリーダーが基本的には回答してくれるということなので心配はしていない。むしろ王都の冒険者や騎士団の人たちに会うということの方がドキドキだ。結構私ってば人見知りだから!
ギルドではサクサクと昨日の打ち合わせ室、ではなくもっと大きい会議室に案内された。入ってみるとすでに他の人も来ている。時間通りだと思うけど、それでもちょっと気後れしちゃう。遠慮とかそういう繊細な感情をどこかに落としてきたらしい先輩たちはどっかりと椅子に座る。いい椅子ねなんて余裕も見せている。私はね、小さくなって静かぁに座る。お、確かにいい椅子ですね。
大きな机を挟んで対面にはギルドの人たちに冒険者が何人か。それと騎士の方々。なぜか立ったままの騎士もいる。椅子は空いてるんだから座ればいいのにね。
ちょっとして自然と静かになる。それを合図に話が始まる。とはいえまずは自己紹介からね。騎士団の何たらかんたら部隊の隊長だとあちらが言えば、こちらはリーダーが静かなる狼だという。なぜか端っこの方にこそっと座っている冒険者も所属を一言。それで終了。非常に話が早い。しかし騎士の人たちはなんともすごい。私たちも含めて、冒険者はちょっとだらっとした雰囲気があるんだけど、騎士さんたちは座ってる人も立ってる人も、びしっとしてる。背筋が伸びているし、微動だにしない。私も密かに真似て背筋を伸ばしてみたけどあっという間にふらふらしてしまう。師匠は自分たちよりも強いって言ってたけど、少なくとも私よりは断然だろうことがこれで分かった。ふふ、あいつらにはかなわないぜ。
内心の冗談なんてまるで関係なく話が静々と進む。リーダーがざっくりと私たちの動向をまとめて話して、師匠が補足する形。私たちが書いた報告書はみんなに共有されているみたいで、わりと突っ込んだ内容の質問が多い。ただあくまで塔の攻略に向けた視点ばかり。禁術の類とか塔の構造とか、結構面白いと思うんだけど完全スルー。やはり罠だとか発生する魔獣の数、頻度とかね、そういう実際的な話が多い。
正直聞いていて面白い話ではない。ので向かいに座っている騎士さんたちを密かに観察していたところ、嫌なことに気が付いてしまった。騎士のうち、立っている人の中に知った顔がいる。長い髪を後ろに撫でつけて結んでいるのは、昨日の嫌な人だ。
うえぇ、騎士なのにあんな因縁つけてきたりするのかよぅ……。ちょっと幻滅。隣に座っている先輩をつつくと、先輩もすぐに気付いたみたい。あっちも私たちに気付いているはずなのに顔色はそのまま。ううむ、どういうことなのか。まあそんなに関わることはないと思うし、見なかったことにする。した!
嫌な人の隣には私と同じくらいの年頃に見える若い騎士。こっちは真剣そのものの態度でリーダー達の話に耳を傾けている。うんうん、どちらかと言えば騎士のイメージならこっちだよね。騎士とはいえども、ピンから騎士(キリとかけた素晴らしい冗句)まであるんだねぇ。
***
報告のクライマックスはやはり魔人と言うことになる。まあ、騎士団としても色々因縁のある相手なんだろう。騎士物語では大体最後に出てくる敵は魔人だからね。自分たちが戦う相手としては不足無しって感じなのかもしれない。冒険者の方からすれば逆に興味はなさげ。危ない相手にかかわるのはよした方がいいのは当然だもんね。こうしてみるとそれぞれのスタンスの違いが見えて面白い。戦う羽目にならなければ私たちも逃げ出してたと思うから(実際逃げ出したのに逃げられなかったのだ)。
それにしても魔人、魔人かぁ。そもそもとしてあの塔で魔人は何をしていたのか。何のために塔があったのか。そのあたりのことってなんにも分かってないんだよね。意味深なこと言ってた気もするけど、ほとんど頭の中に残ってない。師匠たちは色々考えているようで、時々深刻な顔をしている。あ、そうか。今日みたいなことがあるから真面目に考えてたのか! もうすっかり終わった話のつもりでいたから、なんでずっと悩んでるのかと不思議だったけど、そうだよね、普通は関わり合いになるのが続くもんだよね。……やっば、危ない。うっかりそんなこと誰かに言わなくてよかったぁ……。お説教どころじゃなくて、本気で呆れられかねない。自分のやったことはちゃんと覚えておいて、後々困らないように! 今、私は心に刻んだ。
そしてなんとなく話の流れが私に回ってきそうな雰囲気を感じている。どうやって倒したとか、最終的な威力の調整はとか、魔術めいた話になっているのだ。全部師匠が答えられる内容だけど、いつ振られてもおかしくない。
色々な人がああだこうだという中、長髪の騎士が突然詰問するようにネチネチと話し始めた。
「報告には塔の崩壊によって周囲に大量に拡散した禁術起因の浮遊魔力を使ったとあるが、これは事実か? 禁術として変質した魔力が浮遊するような状況自体を想定したのかを聞きたい」
「……再三言っているが、魔人との交戦自体が想定外もいいところだ。塔の調査という題目での依頼だった以上、塔を満たす禁術について確認はしていた。その程度だ。塔を崩すことになったのも魔人に追われてやむを得ずということは言っておく。そんな中で禁術を含めての魔術など組めるものか」
「しかし現実として、禁術により変質した魔力すら火力へと変えた魔術が行使された。想定していなかったとは思い難い」
師匠とリーダーがんなわけないだろと説明してもまるで納得する気配がない。らちの明かない問答。というかこれって私たちが禁術使っただろうと決めつけて問題にしようとしてない?
周りもいきなり言い出した長髪に戸惑いを見せてる。私たちは塔攻略のための情報提供をしに来ただけなんですけど!
「あの、その魔術を使用したのは私なので、お答えします」
話に割り込む私に長髪の視線が突き刺さる。でも別に怖くはない。
「私の使用した魔術は火球を発生させる火の魔術です」
落ち着いて話す私に長髪は何故か鼻白んでいる。師匠は前を見ていて、私の言葉に何の反応もしない。
「ただし、私の大量の魔力全てを受け止められるような、とても頑丈な構成になっています。なので、変質して過剰に増えた魔力をある程度まで受け止める余地がありました」
「だとしても禁術全てを取り込むことはできないはずだ。同じ禁術でもなければ」
「私の魔力に引きずられて浮遊魔力が構成に入り込んできたんです。浮遊魔力は引き寄せられるんです。そうして私の魔力にくっつきます。私の魔力で組まれた構成にも、です」
そうなのだ。本来ならばあの大量の魔力(禁術由来)を注がれて耐えられるわけがない。壊れなかったのは魔力同士が結合したからと師匠が言ってた。小屋の中に重い荷物を積んでいくといつかは小屋が潰れる。なのに荷物が小屋自体を支える柱になった。ざっくりそんな風に理解している。
「つまり、頑丈な魔術の構成だったせいで、破裂することなく構成自体を浮遊魔力が支え始めた。そういうことです。再三ですが、禁術ではないですね」
ついでのように私の思っていたことを付け足す。
「もともと禁術として塔を維持していた浮遊魔力なので、構成を維持しようとしたのかもしれません」
以上ですと口を閉じる。長髪の騎士は口ごもり、それでも何か言おうとした。それを遮るようにギルドの偉い人が咳払い。
「騎士団として禁忌たる禁術使用に目を光らせるのは理解しよう。しかし、彼らが禁術を使用したはずもない。ギルドとして保証する。よってこの話はここまで。次の議題に移らせてもらう」
いえーい、勝利!




