7-1.えっ、みんな仲良く追放なんですか??
長い長い帰り道はあっという間に過ぎて、ようやく街中に戻ってきた。結構魔人討伐っていう大金星のお陰でハイになっていたわけだけど、改めて街中、そしてギルドに戻ってくると、これから始まる大説明会が嫌になってくる。
だって私たちみんな汗や土埃、焼け焦げた煙に燻されて大層酷い姿だ。やっぱり今からでも身繕いさせてくれないかなぁ。多分ギルド側は首を長くして待ってただろうから、そんな時間はくれないだろうけど。
だって、街まで戻る馬車でも御者の人がかなりびくびくとしてた。昨日は街の方でも大事件が起きていたらしい。何だろうと思って聞いてみれば、夜中に森の方で太陽のような光が発生したらしい。その影響か大風が街を襲い、森側の建物のいくつかに被害があったらしい。ほぉ〜、なんだか聞いたような話ですね? それ私の火球じゃない? そりゃギルドも火急で説明を求めるよねって。うまいこといってる場合か!
「はい?」
ところ変わってギルドの応接室。私たちが依頼の説明を受けたのと同じ部屋だ。思わずといった風に声を出したのはギルド長。さすがに昨日の事件と私たちの依頼が関係していると考えたんだろう。初手で一番偉い人が出てきてくれるのは何度も説明する手間が省けていいね。
しかし、私たちの報告は思わず聞き返したくなるのも分かるくらい盛りだくさんで重い内容だよね。塔からは魔獣がいくらでも出てくるようになっていたし、魔術師どころか魔人が居ました。しかもそいつから逃げるために塔を全力で走って、仕方ないからって塔をぶっ壊して、禁術の力も利用して超火力でぶっ飛ばしました。その余波で森は焼け野原だし街にも影響があったみたいです! って。……自分で言ってても引くね、これは。
でもこれについてはどれもこれも仕方ないことだったとご理解いただきたい。うむうむ。リーダーの言う通り。
だって全部仕方なかったもんね。調査してれば塔の主に会うことなんて分かり切ってたし。そこからの戦闘だって私たちが生き残るために必要だったもの。もちろん死んでたらこの報告だってできなかったわけだから、調査を依頼したギルドに責任がないとは言えない。
むしろ依頼がなかったら私たちが塔に入ることはなかったんだし、むしろ一連の流れで責任を問われるべきはギルドなのではないかな?? いや、それは言いすぎたわ。言ってないけど。さすがにそんなこと言ったらギルドから総スカン喰らいそう。まあそこまでではなくともリーダーは暗にそれを言ってるんだよね。
ギルド長への説明に、これから裏どりのために調査に向かう調査員達への状況説明、元々の塔の調査自体についての報告と盛りだくさん。禁術関係はかなり根掘り葉掘り、同じことを何度も何度も説明する羽目になった。
だから予想していた通り、私たちが宿に戻れたのは、完全に火が落ちた真夜中のことであった。さすがの私たちも宿までの帰り道は一切口を開く元気はなく、別れ際に明日のお昼に一回話しようかという提案がリーダーからされたくらい。
みんな黙って頷いて、多分部屋のベッドに倒れるようにして眠ったんだろうな。なぜ分かるか、そりゃ私がそうだったからだとも! もう全く記憶ないよね。多分宿の女将さんからあとで苦情が来ると思う。汚れた服のまま寝ちゃって、寝具に汚れと煙の臭いが付いただろうから。
***
一晩経ってようやく起きられたのはお昼も大分過ぎた時間である。うわ、完全に寝過ごしている…!
慌てて部屋を出ようと思ったら、隣のベッドではまだ先輩が眠りこけている。あれ、私だけじゃないな? 入ったばかりのころ盛大に遅刻して大目玉喰らったものだが、その大目玉が寝ているなら安心だ。いや、駄目なんだけど、仲間がいるっていいよね……。
ともあれ誰も起こしに来ていない時点で隣の部屋も同じような状況っぽいな? うーん、とりあえず隣を覗いてみよう。先輩を起こすのはそれからでもいい。
ノックを一つ二つ。返ってくる答えはない。合鍵で開けてみる。女子は男子の部屋に入る鍵を持っているのだ…! 逆は当然ない。それは別にいいか。そんなことより、部屋の中に頭を突っ込めば、3つの寝台に、身動き一つない体が3つ。
完全に寝てますな。
いつもなら人の気配にすぐ反応するのに、こうして私がそばによっても一切起きる気配がない。まあ疲れてるよね。とりあえず師匠のほっぺたを引っ張っても目を開けるどころか反応一つ返ってこない。ただほっぺが伸びるだけである。
まあ無理もないよね。だって、塔でも周囲の警戒し続けていたし、調査に頭を使ったり、魔人と正面切って時間を稼いだり。私だって頑張っていたけど、かなり庇われていた自覚はある。先輩も含めてちょっと寝過ごすくらい大目に見るべきそうするべき。
とりあえず今日はゆっくりしていい日なんじゃないかな。机にメモを残して部屋に戻ることにする。先輩にもメモを書いておいて、食堂でご飯を食べることにした。みんなよりマシとはいえ、私だってヘロヘロだから、外で食べる元気はない。それに私のメモにも気づかず慌てて降りてくる粗忽ものを迎えてあげないといけないしね。
誰がそんなに慌てて降りてきたかは、彼女の名誉のために秘密にしておこう。
***
食堂に集まって昨日のギルドでの報告というか尋問というか、ギルド職員相手に話をした内容を共有している。あったかいお茶がお腹に染みるなぁ。軽くつまめるものを用意してもらって、後は貸切らせてもらっている。内容はあまり聞かれたいものではないしね。今食堂にいるのは私たちだけだから気楽だ。
塔自体の調査結果については師匠と旦那が主に話をしたようだけど、やはり私が使った火の魔術が問題になったらしい。私への質疑でも大分魔術の話をさせられたけど、やっぱり師匠の方は相当細かく聞かれたみたいだ。ただでさえ師匠が一番疑わしい立場ではあるものね。
かなり遠い街にまで影響が出るような火の魔術。私の質疑をしてたギルドの人もかなり怪しんでたからね。
「あれはな……。ギルドからも禁術を使ったんじゃないかって相当詰められたな」
「私の方もすごい早口で質問されまくって大変でしたよ、ほんと……」
「お前さんらに容疑がかかるのも無理はないよなぁ。魔術について知らんくても魔術師の仕業ってのは分かるしよぅ」
「魔術について知っていれば、魔術で可能な範囲越えてないかって疑問もわくし、禁術使えそうな人間は限られるからね」
実際不可抗力とはいえども禁術の力を使っているから、ある意味では禁術とも言えるのかな? まあ狙ってそれをやらせた師匠はかなりギリギリの立ち位置ではあるけど、そのものズバリ禁術を使ったかといえばそんなことないし。ギルドの人は多分途中で私にその手の知識はないって気づいていたんだろうね、師匠より早く解放されたのはそのためだろう。
だけど師匠からの説明を聞いて、ギルド長は胸をなでおろしただろうね。
だって、ただでさえ禁術満載の塔が街の近くにあったのが判明して、調査に向かわせたわけでしょ? なのに突然街にまで影響があるような魔術が使われたわけじゃない? 普通に考えたら塔の持ち主が何かやったと考えてもおかしくはないよね。塔から一方的に攻撃できるんだぞって威嚇とかさ。脅迫の手紙とか来たらどうしようとか考えていたに違いない。ん? なんか引っかかっていた謎が解けそうな、そんな気がする。何が引っかかってたんだっけ?
「あっ! もしかして塔の上で話してた、窓から街が見えてるぞって言ってたの、そういう意味ですか?」
「なんだ、今気づいたのか。間違いなく監視と、いざという時に街へ攻撃するための塔だったと思うぞ」
うわぁ、もし私たちが負けてたら、街に直接攻撃されていたというわけか。……えっ、そんな大変な状況で私たち戦ってたの?!
「まあ依頼自体は完遂したわけだし、ありえた脅威を排除したのは評価してもらった」
「いいじゃない。じゃあ追加報酬アリってことね! 新しく天幕とか買わなきゃならないし助かるわ。面倒な調査依頼だったけど、なんだかんだ上手く着地できたんじゃない?」
うんうん。できれば早いうちに買いに行きたいよね。次はもっと軽いのを選びたいね。
「ああ。おかげで王都行きが決まったぞ」
「は? なんて?」
「塔が見つかってから依頼が発行されるまで、いやに早かったと思わないか? 確かに禁術が疑われる塔ってのは問題だ。国への報告も、国からの命令を受けての行動も当然ありうる話だが、それでもいきなり”何とかしろ”ってのは乱暴な話だな?」
「うーわぁ。その先聞きたくないんだけど、聞かないとダメ?」
「駄目だろうなぁ……」
「直接ギルド長に言われた時の私の気持ちをぜひ、体験してほしい」
え? え? 何の話になってるの? 天幕を何処で買うのかって話じゃないの??
「塔は一つではない。この国の各地で見つかっているそうだ。どれも魔獣を呼び出す塔でな、いくら倒しても魔獣が減らない地域になっている。当然国としてもそんな危険なものを放っておくわけがない。いつまでたっても国土の拡大が進まないのは魔獣の多さがかなりの割合であるからな。で、国は騎士団や現地の冒険者を使って確認されている塔の調査を進めていたらしい」
「当然ゴーレムをはじめとする魔法生物や禁術で調査を阻まれてきたようだよ。だから今まで塔の攻略に成功した例はないとのことだ。で、この街にも新しく塔が見つかったことが伝わって、さっさと調査しろという命令が下ったのが今回の依頼の背景ってわけだね。この街も長いこと魔獣が出続けて開拓が進んでなかったからね。恐らく国からの監視の目は元々あったんだと思う。だからこそこれほど早く、そしてあいまいな調査依頼が発行されたんだろうね」
他じゃ塔は立ったままなんだ……。確かにあれを何とかするのは大変だよね。姿を隠すゴーレムに、禁術使いの魔術師がいるわけでしょ? おまけに魔術師は魔人の可能性まであるんだから、なかなか攻略が進まない理由もよくわかる。むしろ私たちよく何とかしたよねって思うもん。
「で、その厄介な塔を攻略したパーティが出てきたと……」
「しかも塔ごと禁術を完全に破壊して、溢れた禁術の力も全部魔術の火に変えてやったと。後腐れのない解決策というわけだ。しかも鎮魂にもなる。そうそう、火送りってのが俺の地元にあってだな」
「それは後にしてくれ」
即話を止められてて笑っちゃうね。話す気満々だったのに止められて固まっちゃってるじゃん。いやぁ、どう考えても今話す必要ないでしょって。たまに師匠はおかしな判断するよねぇ。
「……もう一つ理由がある」
そうそう。ちゃんとその理由を話してくれればいいのよ。なんてニヤニヤしていたらにらまれてしまった。いやぁ、私のことなんて気にせず、先を続けてください、ささ!
「ちっ。……さすがにあれほどの規模で森を焼いたわけだ。禁術の力と付近の浮遊魔力をたっぷり吸った魔術でな。するとどうなったか」
「浮遊魔力が薄くなって、魔獣が出てきにくくなるってことですね? ただでさえ焼け野原には魔獣だって寄り付かなそうなのに、魔力が薄くて居心地が悪いなら一層近寄らないですよね……」
「街からすれば良いことじゃない?」
「そうだ。ここが冒険者の街じゃなきゃな。まだまだ森は深いし、半年もすれば逃げた魔獣も戻ってくる。塔から出てくる魔獣だけがあの森にいるわけでもないだろうからな。自然発生した魔獣は一時的に逃げただけで消えたわけじゃない。だがそれでも、それまで他の連中の食い扶持をぶっ飛ばしたことに変わりない」
「この王都行きはね、国からの直接指名での召喚であり、ある意味じゃ厄介払いで、私たちの保護でもある。なにせこの街の冒険者、特に中位の連中は魔獣を相手にするのを生業にしているわけだからね。その収入源をつぶしたんだ。なんのお咎めもなしには腹に据えかねるって連中が出てもおかしくはない。だからやらかした私たちにはペナルティとして王都に弁明に行かせるわけ。一応国からの召喚だけど、貴族を相手にああだこうだ説明なんて誰もしたくはないから、十分罰になっているって判断したんだね。くそったれめ」
さすがのリーダーも言葉が荒っぽくなるね。主に報告して矢面に立つのはリーダーなんだから仕方ないけど。ええと、でも本当に怒られるわけではなくて、この件の報告を直接ってだけですよね?
「結局貴族どもの前に立つのは変わらないからね。はあ、早くも気が重いよ……」
「ま、一年くらいは戻ってこれんだろうなぁ」
「それって実際のところ……」
「言わないで」
あー、聞きたくないぃぃ……。
「いや、言わせて貰うよ。こんなこと言う機会なんてないからね。ずばり、我々はこの街から”追放”される!」
うぎゃー! 先輩が頭を抱えて突っ伏する。旦那は腹を抱えて笑う。リーダーは言ってやったとうれしげで、師匠はいつも通りどんよりしている。
どうなってんだ私の人生! 一度ならまだしも、心を入れ替えてちゃんと魔術師として教育を受けている途中で二度目の追放って! ええい、責任者はすぐに腹を切れぃ…! この場合の責任者って誰になるんだろうね?
せめて周りを煽って溜飲でも下げるか。ほら、先輩、私経験者なので。なんでも聞いてくれていいよ?
調子に乗りすぎた私が先輩にはたかれるまで、あと3秒であった。




