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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き


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6-4.えっ、”静かなる”なんて本気で言ってるんですか??

 私の魔術が発動した瞬間、全部の感覚が馬鹿になったかと思った。


 真っ暗な夜だというのに、穴の外から目が痛くなるほどの過激な光が飛び込んできた。隣にいる師匠の顔さえはっきり見えるほどに。光と共に伝わるのは熱。空気が熱を帯びて一瞬にして焚きすぎたお風呂みたいに、息をするのが苦しくなる。最後に衝撃と爆音。

 空の上から凶悪極まりない風が降りてくる。穴の中どころか、世界が揺らされるように激しい振動が私たちを震わせる。もうね、全然何が何やらわかんないの。世界が揺れてるんだか、自分が怖くて震えているのかも分かんない。

 あんまりにも規模が大きすぎる光と音って、こんなに人の全部をかき乱すんだね。知らなかったよ。知りたくもなかったけど! 


 私が作った火の玉だけど、多分出現していたのは1秒にも満たない短い間だけ。だというのに、私の人生で一番近くに死を感じた。もしもあと僅かでも火球が長く存在していたら、私たちは全滅してると思う。たとえ瞬き位の時間であってもね。


 穴の外ではまだ大気が荒れ狂っているようだけど、穴の外は暑い以外は落ち着いてきたように思う。まあ火の玉はもう消えているからね。ここは静かな穴の中。モグラの楽園だから。こんな楽園があってたまるか! ともあれ落ち着いているとはいえ、まだまだ暑い。暑すぎる。呼吸するたびに胸が焼けるみたい。

 これ体の中がやけどしても癒しの魔術で何とかなるのかな? 喉が焼けたら私の鈴を転がすようなかわいらしい声も、先輩の少し掠れた色気のある声も、師匠の少し低い落ち着く声も変わっちゃうのかな? うーん、それは嫌だなぁ。最優先で二人には癒しの魔術を使ってもらわねば。師匠にはきっちり治療を頑張ってもらわねば。リーダーと旦那はまあ、うん。二人の魅力は声じゃないからね。うん。


 じっと穴の底で上を見上げている。穴の縁では、一瞬で蒸発した水分が沸騰して煙になっている。もっと言えば、地表近くは完全に真っ黒で、炭化しているみたい。相変わらず暑くて閉口するけど、こればかりはどうにもならない。いや、さっき一瞬涼しくなった気がするな? もしかして師匠何かやった?


「熱を追い出してはみたが、焼け石に水だったな。もう空っけつだ。温度が下がるまで待つしかない」


 もっと熱を追い出して欲しいぃいぃぃ~! けど肝心の魔力がない。師匠が最後に使ってた雷の魔術も相当だったもんな。私に余裕があればいくらでも魔力タンクとして働くんだけど、この暑さの原因を作るために全部使い切っちゃったからな。うーん、自分で熱くしといて冷ませとは、ちょっとわがままが過ぎるな?

 

「外が落ち着くまでどのくらいかかると思う?」

「どうだろうな、熱がどのくらいで冷めるか次第だ。しばらくは外に出られんのは間違いない」

「そう。なら、もう寝ちゃって良くない? 出来ることないのに眠いの我慢するのなんて馬鹿らしいでしょ」


 みんなして顔を見合わせる。確かに今できることは何もない。この穴の中で待つしかないのだ。なら、寝ててもよさそう。なにせ夜だしね。明るくなるまではうかつに外に出るのも危ない。師匠の結界だって別にもう必要はないだろうし。


「さすがに魔人も生きてるわきゃないだろうしなぁ」

「あれで生きているなら我々に勝ち目はないね。うん、寝ても問題なさそうだね」


 当然である。こんな馬鹿げた火力が向けられて、それでも生きていられる生き物なんていない。例え魔人であってもね。魔石だろうが心臓だろうが、全部まとめて蒸発しちゃうだろうし。むしろ生きていたらそれこそもうこの世の生物ではないよね。うん、寝よう!


 全員で横になれるほどの広さはないけど、丸くなれば何とかいける。小柄な私はこういう時得である。先輩が上着を地面に敷いて、私と二人で横になる。私の薄紅のローブをお腹が冷えないようにかけるのだ。これでよし。穴の底は木の根っこででこぼこしているけど、そこはまあ仕方ない。さすがに地面までは熱しきれていないから、割とひんやりしていて気持ちいい。

 先輩の背中側、穴の反対側にはむくつけき男どもが並んでいる。窮屈そうに体を縮めて、可哀そう。私たちみたいに上着を敷くとかすればいいのに、そのまま寝転がっている。こういうところで雑なんだよなぁ。

 そんなことを思っていたら、あっという間に意識は落ちていくのだった。


***


 目覚めた時にはもう朝だった。体が結構冷えているせいで起きてしまったのだが、丁度いい時間だったみたい。リーダーと旦那はすでに起きていて、丁度穴の外を確認したところのよう。旦那が下になって、リーダーを肩に乗せている。そういえばこの穴から出る方法って考えているのかな?二人を梯子代わりに登る感じかな? で、外はどうだったんです??


「……なかなか見ない景色が見れるね」


 なんだか含みのある言葉だなぁ。自分でもちょっと地上は大変なことになってるんだろうなって予想はしている。でも自分がやったのがすごいことになっているって、あんまり認めたくないじゃない? 気休めでも普通って言ってほしかったかなぁ。


 そんなことを考えていると、先輩は起きたみたい。まだまだ寝足りないって顔をしている。そして起きる気配がないのは師匠。うーん、寝顔でさえも険しい顔。眉の間にしわが出来ちゃいますよ? しわを伸ばすように指でぐりぐりしてみる。師匠は早起きだし、宿では部屋が別だからこういう姿は貴重だ。

 しかし起きないな……。先輩はすでに立ち上がって凝り固まった体を伸ばしている。私に向かって頷いてみせた。これは起こせってことですね。確かにこれから色々とお仕事があるからね、起きてもらわないと。


「ししょー、あさですよー?」


 あまり大きくない声と一緒に軽く揺さぶってみる。ううん、と声未満のうめき声。ふふふ、これは楽しい。頬を引っ張ってみる。まだ起きない。普段お世話になっているからね、このくらい優しく丁寧に起こしても罰は当たるまい。が、私のささやかな復讐は、突如パチッと目を覚ました師匠と目が合ったことで終了する。


「……おはようございます。今日は……いい天気ですね?」

「おあよう」


 そっと引っ張っていたほっぺたから手を放す。どうも師匠はまだはっきりと起きていない。発音の不明瞭な挨拶がその証拠だ(引っ張られたままのほっぺが原因だけど)。


「……あとで話がある」


 駄目だったみたい! もう、なんてことだ!


***


 穴からは割とさっさか出ることが出来た。よく見れば木の根っこがそれなりに露出していて、つかまるところには困らなかったのだ。旦那は足場になり損と言ってたけど、上の方がまだ熱を持っている可能性もあるんだから仕方ないよね。結果的に問題なかっただけだし。


 地上に出て大きく伸びをする。別にそんなことする必要はない。ただ現実を直視したくなかっただけである。地上は未だにブスブスと煙を上げている。周囲には何にもない。いや、本当に何もなくて見通しがいいね! あれ? ここは緑豊かな森だったはずでは? 塔の残骸もないね。不思議!


「うわ……」


 背後では一言漏らして黙る先輩。いや、何か言ってくださいよ……。


「やったな」


 師匠からは端的なお言葉がかかる。うん、やっちゃったぜ。

 もしこの言葉を文字で見ればポジティブな感じを受けるかもしれないけど、発音と師匠の声色から読み取れるのは完全にやらかした人へのそれ。子供がいたずらで何か壊した時、保護者はこんな声を出すんだろうなってそんな声。


 言うだけ言ってさっさとリーダーと共に爆心地(そう言うしかないね)に向かって行く。

 しかし、いくら深めの穴に避難したとはいえよく無事だったものだ。だって本当に何もかもが焼き尽くされているんだもの。


 元々この穴の付近は木々の生えない緩衝地帯だった。一面地面が真っ黒になっていて、根っこやら何やらがすすけている。さて、森はといえば…森か? すでに森だったところというべきか。今は森だったところには何もない。すっからかんだ。木々が全部焼き尽くされて、かつ衝撃で吹き飛んでいったみたい。

 やはり老人が飛んでいた場所の直下辺りが一番酷いようで、中心に向かって傾斜がついているのが目で見て分かる。なにせ私の火球の炸裂っぷりには定評があるからね。上空だから余計に被害が増えたという説もある。もし真上から見たらきれいな円状に何もない地面が広がっているのが分かるんだろうな。


 それでもさすがの森というべきか。爆心地から視線を離していくと、途中で焼き尽くされなかった木々が、吹き飛んでさらに外側の木々に当たって壁のようになっている。その壁の外はなんと、森の姿を保っている。いや、それが普通の姿だからね! 自分でもなにが正しいのかわからなくなりそう。きっと禁術が私にも悪影響を与えているに違いない。そんな悪影響があるなんて聞いたことないけど。


 それにしても、いくら深い穴に避難したとはいえ、無事に生きていられるものだなぁ。この惨状を見るほどに奇跡的な幸運だったなと思う。


「先輩もそう思いません?」

「そうね。実際半分くらいは干物になりかけてたもの。何か一つでも欠けてたら全滅だったんじゃない?」


 そこに師匠たちが戻ってくる。話の内容も聞こえてたみたいで、幸運のいくつかに補足が入る。


「あの老人が張った結界のお陰もあるだろうな。一瞬ではあっても火球の光と熱を防いでくれたおかげで生きていられているわけだ」


 そう言って爆心地の反対側を指さす。


「あちら側は完全に地面の奥深くまで焼き尽くされていた。こちらとは違ってな。あの結界がなかったら俺たちも蒸し焼きだった。


 うわぁ、老人の結界が逆に私たちを助けてくれたわけか。うーん、感謝すべきか悩ましい。


「ん、それって魔人のやつ?」


 リーダーが持っている何かを今度は先輩が指差す。


「ああ。いや、よく残っていたものだよね。表面は溶けまくっているけど、それでも形を残しているんだから驚きだ」


 手には手のひらより少し大きいくらいの魔石。表面は溶けたように、というか溶けてたんだろうな、そんな感じにちょっと垂れている。魔人に身を落とした老人の末路がこれか。そう考えるとなんとも不気味であり、哀れにも思うね。


「心臓はさすがに残ってなかったな。まあ残ってたら戦闘継続だから、残ってなくて助かったわな」

「さすがに生身で持つ生き物はいないだろう。魔石は伊達に魔人のものではない。含有魔力が違うからな。大きさこそこないだのゴーレムの方が大きかったが、質は完全にこちらが上だ。実際ドラゴンゴーレムの方はなにも残っていなかったしな」


 うわ、そっちは溶けちゃってるのかぁ。どれだけの威力だったんだよって感じだね。まあ周り見れば想像はつくけども! 私が言うなって? そんなこと言わないでよね!


「まさか本当に爆弾娘になるとは思わなかったわ」


 爆弾娘!? それはちょっと聞き捨てならない。そんな二つ名なんて付けられた日には、大手を振って街を歩けなくなってしまう。


「これは師匠の邪悪なたくらみのせいです! 普通にこんなこと出来るわけないですってば! こないだのゴーレム戦が私の最大火力で、ここまでになったのは師匠が悪さしたからに決まってるじゃないですか!!」


 必死こいて弁解する。爆弾娘なんてい心外もいいところ。私はもっとおしとやかなあだ名にしてほしい。そうだな、森の淑女とか? なんて言い訳が速攻で脱線したところに、強制的に話を元に戻す復旧の手が入る。比喩ではなく、頭をがっちりと掴まれている。そして私の頭にかかる力はだんだんと強くなっていく。おっとぉ、これは相当にお怒りなのでは?? すでにちょっと痛いですよ、師匠!


「師匠相手に邪悪だの悪さだの、好き勝って言うじゃないか……」


 実際これは大失言! そりゃ聞こえてないはずないよね、隣にいるんだもん!

 って痛い痛い! 師匠、せっかく魔人を倒したのに、別の理由で死んじゃいそうです! 御慈悲、御慈悲を!

 情けない命乞いでようやく解放される。ああ痛かった。


「でも実際あんたのせいなんでしょ? 本人も言ってるけど、さすがに一人の魔術師が出せる威力じゃないわよ?」


 もっと鋭く追及して! 弟子をいじめるいじわる魔術師に正義の光を当てるのだ!


「それはその通りだろう? そもそも塔の崩壊から説明してほしいところだ。あれだって普通にやって壊せるようなものじゃないだろう?」

「お、塔の破壊に森の大破壊に魔人討伐と、容疑が重なってきたな」


 やっぱり分かる人にはわかるんだよねぇ、本当の邪悪って奴が! いえ、すみません、何でもないのでもう掴まないでください……。


「今回ばかりはちゃんとした説明が欲しい。塔はともかく、ここまで森を破壊したのはまずい。ギルドからどんな文句がつけられることやら。言い訳を考えないといけないからね」

「……それは確かにな。説明はするが、帰りながらにさせてくれ。さっさと宿で寝直したい」

「ギルド相手に討伐報告と言い訳をして、宿に帰れるのはいつになるのやら」


 前回のゴーレムでさえ大概時間かかったもんね……。先に宿に戻りたいくらいだ。そうはいかないのは分かってるけどさ。


 帰るといえば! 塔に上る前に、私たちはみんな荷物を森の緩衝領域に置いていたのだった。探索に必要なものや貴重品を入れた小さめの鞄こそ持ち歩いていたけど、すぐには使わなさそうな着替えとか宿泊用の天幕何かを入れた背嚢はお留守番にさせていた。

 さて、その荷物は今どうなっているでしょう? 答えは灰の中! ……やっちゃったな、これ。


「あ、朝日がまぶしいなぁ……」

「現実から逃げるんじゃないわよ」


 言いつつもちょっとため息の先輩である。結構色々詰めてた荷物が一切合切なくなったのは懐的にもちょっと悲しいものがあるよね。しょんぼりする。


「別に怒りゃしないわよ。状況的にあれが最善だったのは分かってるんだから」

「色々やりすぎとは言ったけどね、それもこれも生きているからこそ言える話だから」

「魔人相手に鞄だけで何とかなるなら割が良いどころの話じゃねぇよなぁ」

「昔の騎士団はほとんど全滅する位の戦闘でようやく一体滅ぼしたって言うしな。どうせこの森なら半年もすれば元に戻る。大して冒険者の出入りもない場所だ。気にすることもないだろう」


 みんなが慰めてくれる。いやでも、大部分の管理は私の仕事だったから、やっぱりへこみはする。確かにどうしようもなかったのは分かっているけどね。それこそ穴の中に放り込んでおくくらいしか手はなかったんだろうな。いや、さすがにそんなこと始めたら預言者だよね。普通はこんなことにならないもの。


「重い荷物背負って帰らずにすんだって考えましょ。魔人討伐報酬をギルドから分捕ってやればいいだけよ」

「んだな。じゃ、さっさと帰ろうや」

「言ったからには交渉には付き合ってもらうからね」

「ええー! まあ仕方ないか。ふんだくってやるわ。期待しなさい!」


 途端に騒がしく、そして明るくなった雰囲気の中で帰路を行く。さっさと行くぞと師匠に背中を押される。

 一度だけ何にもない焼け野原を振り返り、そして前を行くみんなのもとに急ぐ。あーあ、ここからが長いんだよなぁって、笑いながらどうにもならない距離を嘆く。鬱蒼とした森の中に、我らが静かなる狼の明るい声が響く。魔獣や獣もなんのその。周囲の警戒は絶やさずに、それでも声を抑えることはしない。まあ強者の余裕ってやつかな。私もそのおこぼれに預かる。


 それにしても、やっぱり騒がしい狼の方が似合ってるよねぇ。


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