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えっ、私の役目って魔力タンクなんですか??  作者: 朝食付き


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15/18

6-3 えっ、これ全部が火に変わるんですか??


 逃げに逃げて、ようやく見えたは一階出口! もうしつこい老人には飽き飽きだ!


「逃げるのだけは上手いものじゃないか。私を後悔させるのではなかったのかね?」


 久しぶりに老人の声がする。逃げてる時も戦ってる時も全然喋らなかったのはなんでだろう? あれかな、本気で逃げられそうで焦ってるのかな? そうだとするとずいぶん程度の低い煽りだね。


 でもなぜか出口まで後一歩の位置で師匠が立ち止まる。当然私たちも一緒に停止することになる。もしかしてあんな煽りに乗っちゃうんですか??


「あなたには俺たちがただ逃げていたように見えていたのか…。時間というのは残酷だな。いや、あなたの場合はただ膨大な時間を無為に過ごしたというだけか」


 乗っちゃった! いかに師匠でもこの状況で煽り返さないと思ったけど、まさかの舌戦開幕である。聞いているだけでお腹が痛くなるような悪意の応酬だ。ちょっと聞くに堪えないので他所でやってほしいんですけど。


「ずいぶんとその姿に自信があるようですが……、俺から見れば、”下”だ」


 うわぁは、確かに美的感覚は一般とずれているなって姿だけど、きっつい毒を吐くなぁ。ほら、みんなちょっと引いてるよ? そこまで言うかって。でも正直さんざん苦労させられたから、スカッとした気持ちもある! いいぞ、もっとやれ!


「矮小な人間ごときが調子に乗ったものだな……!」

「その人間に逃げられそうで慌てているのはいいのか? つたない挑発に乗ってやっているんだぞ、こちらは」


 老人の顔色はすでに真っ赤ですな。いやぁ、魔術師ってのはそもそも気位が高い人ばっかりだもんね。結構自分に酔ってたっぽいだけに、焦りを見透かされて論破されるのはさぞ腹が立つでしょうなぁ。


 完全に場の空気は師匠優位。というか、リーダーもいい加減師匠を止めたりしないのかな? あと一歩で外に出られるのに、わざわざ煽っているのは……ああ、時間稼ぎか。師匠がこっそりと後ろ手に構成を作っている。ハンドサインは合図と同時に脱出。了解だ。 


「耄碌した頭では気が付かなかったようだが、ただ逃げるならばもっと速く塔を抜け出す手段などいくらでもあった。なのにわざわざ一階一階走って逃げていたのはなぜだと思う?」


 え、そうなの? いや、師匠のことだ、本当のことを言ってる可能性も、ただの煽りの可能性もある。どちらにしても私には分からない。


「禁術。この塔も、その姿も、全て人の命を使い潰し積み上げた忌まわしき業だ。魔術でありながら、魔術では成し得ない、世界を書き換える禁忌の力。どうもあんたはそれに縛られて塔から出られないようだが」


 苦虫を噛みつぶしたような表情を見せる老人だが、なぜかおとなしく聞いている。

 不思議に思って注視してみれば、老人の目にはなんとなく見たことあるような光がある。……ああ、見覚えがあるはずだ。師匠が何かに興味を惹かれた時の目に、表情にそっくりだ。同じタイプの人間だったんだな。わからないことを知らないままにしたくないというか、探求心が強いというか。きっと老人がただの人間のままだったらいい友人になっただろうに。


 でもその好奇心がきっと老人を殺すことになる。持久戦に持ち込めばほとんど勝ち確定の状況なのに、わざわざ師匠の話を聞いている。でもそういうのって、後々後悔するんだよね。


「……本当に逃げ切れると思っているのか? 儂が塔から出られないと、その確証があると?」

「別にそれはどうでもいい。どちらにしても俺たちがやることは変わらないからな」


 ずいぶん変わると思うんですけど……。外に出た後も延々追い回されるのはちょっと嫌かなぁ。みんなの気持ちはたぶん今一つになっている。でもこの人、そういうの全然気にしないんだから。


「禁術の塔。なかなかうまくできている。禁術を身近で見ることなんてまずできないからな。勉強になった。それにしてもだ、禁術の保護がなっていないのはどうかと思うぞ。どうせ余剰な力があるんだ、塔の拡張に合わせて禁術を刻んだ内部も保護しておくべきだったな」

「何が言いたい?」


 そうそれ! 思わず同意してしまったが、師匠は説明を省くことが説明するときに一番大事なことだと思っている節がある。説明しろ説明をよぉ!


「魔術では禁術をどうにもできない。だが、塔自体の壁や床は別だ。こいつでガリガリとやるだけで、面白いくらい塔に構成を刻み付けられたぞ?」


 片手の剣を掲げて見せる。確かに途中で何度か立ち止まってガリガリしてたと思ってたけど、あれ、魔術刻んでたわけ? あの禁術の構成ばかりの通路に? バカなの?? ちょっとでも禁術の構成に触れてたら、どうなってたか。それが分からないわけないのに、あの逃げながらのドキドキ状況でやってたの?

 はぁ…、禁術の暴走とか、怖くなかったのかな、あの人。やっぱりちょっと突き抜けちゃってるよね、私の師匠って。


「……貴様、一体何をした?」

「言わなかったか?、全部ぶち壊しにしてやるんだって」


 いや、言ってなかったと思う。だって老人と話してたのはリーダーと旦那だけで、あなたずっとキョロキョロ周りを見てただけでしょうが。


 師匠がその手のひらを上げる。魔術師らしからぬ、剣だこのある傷だらけの分厚い手のひら。それを、くるりと回す。禁術で拡張された塔に、師匠が仕掛けた魔術が起動する。


「安心していいぞ。俺が刻んだのは石割りの魔術だ。大したことのない、禁術には到底届き得ない簡素な魔術だ。せいぜい、少し塔の床に罅を入れる位のな。だが禁術を刻んだ塔の床はどうだろうな。空間を拡張する禁術の構成が破壊されたとき、一体その中身はどうなるか、気になるだろう?」


 さっきまで顔を真っ赤にしていた老人が、今度は血の気が引いて真っ青だ。ちなみに私たちも似た様なものだ。だってまだ私たちもその空間の中にいるわけで。師匠だけが気分よく演説を続けている。


「お前が心血を注いで作り出した禁術は、たかが初歩の魔術で全てを失う。──ああ、そうだ、その顔が見たかった。醜い魔人にまでなったっていうのに、無様だな? ははっ!」


 うちの師匠がこんなに悪辣に笑うところは見たくなかったかなぁ……。

 禁術はあの塔の至る所に延々と刻まれていて、多分少しくらい傷ついたくらいなら問題なく動作し続けられるような構成になっていたはず。でも禁術を読み解いちゃうような人からすれば、どこを分断すれば効率的にぶち壊せるのかも分かるんだろう。


 構成だけだったら、手を出すことはできなかった。禁術は魔術の上位概念だから。だけど、安定性を求めて塔という、物質に構成を刻んだ時点で手が届くようになってしまったのだ。


 文字通り、あと一押し。わずかな傷で禁術は崩壊する。

 さりげないハンドサイン。2秒後に全力で離脱。師匠の言葉に思考が止まっている老人には、何が起きたか分からないだろう。


 私たち五人が塔を飛び出した瞬間に師匠が魔術を発動する。石割りの魔術。多分一箇所二箇所ではない。そしてどれもが禁術にとって致命的な位置に発生した。

 あるべき姿を断絶された禁術は、何もかもの意味をなくす。ありえないような空想を実現する力も、大本を断たれれば消えるのが定め。バカでかく拡張された塔。その拡張を担う禁術が崩壊する。当然、拡張された塔を前提としていた、ありとあらゆる禁術だって崩壊する。


 今日一番の必死さで塔を飛び出した私たちが、お互いの無事を確認し合う。師匠も脱出に間に合っている。間に合わなかったのは老人だけ。そもそも外に出られなかったみたいだけど、まあ仕方ないよね。

 塔を振り返る私たちには、塔が一瞬バカでかく、そして指先ほどにも見えた。拡張されているのは内部だけだから、外見は変わらない。だけど、今中身はとんでもないことになっているんだろうな。そう、塔が揺れ始めたのはその証だ。


「……ちょっと離れるか」

「なるべくだな」

「出来る限り太い木とかの影に行こう」

「絶対ヤバいことになりますよね」

「もう、こんなのばっかりじゃない!」


 初めは早歩きで、塔を気にしながら。だんだん小走りに、そして最後には全力で逃げ出す。だってもう塔から聞こえる音はやばいことになっているし、外観は罅割れすぎて見る影もない!崩壊寸前だってこれぇ!!


 遠ざかる距離にも限界がある。みんなして森の木々を盾に伏せる。


 とうとう崩壊が始まる。塔からあふれ出す膨大なまでの、禁じられた力。それが塔を一瞬にして全て吹き飛ばした。今まで聞いたことのないような目がチカチカするような轟音。遅れて、塔が崩れる崩壊音。あたり一体に衝撃と土埃が溢れ出す。質量という力が森の木々を押しつぶす。早めに逃げておいてよかった。あれに巻き込まれたらただじゃすまないもの。


***


 土埃が薄れるのを待って、木の陰から這い出す。私だけではなく、誰もが埃まみれだ。それでも依頼を完遂した達成感がある。


「やりましたね! いやぁ、宿でさっさと埃を落として眠っちゃいたいですよ、私は」

「ああ。甚だ同意だが、達成感を覚えるのにはまだ早い。塔だけだぞ、崩したのは」


 え?


 私の間の抜けた声に反応したわけでもあるまいが、塔の残骸が僅かに震える。途端に私は先輩の手によって再び木陰に放り込まれる。私が声をあげる間もなく、小さな震えはすぐに大きくなり、ガラガラと瓦礫が押しのけられる。現れたのは無論、老人だ。

 魔人であり、下半身はドラゴンゴーレム。全くそんな風に色々混ざってるからか? そんなに生命力が有り余ってるのは。


「やってくれたものだな…、こうもしてやられるとは思わなかったぞ……!」


 そういう老人の目は怒りに燃え、師匠を捉えて離さない。

 おお、ようやくうちのパーティで一番やばい人に気が付いたのか。師匠は睨みつけられても一切動じない。むしろ冷ややかに笑っている。ようやく俺を見たなと、魔術師としての矜持を覗かせる。

 師匠の左右にリーダーと旦那が立つ。少し後ろに先輩が。さあ、ここからが本当の戦いだとばかりにみんなが戦いに備える。


 ……ええっと、私はまた例のヤツですか??


 ***


 さっきもちょっと言ったけど、老人はやっぱり戦い慣れしていない。いや、同格の相手との戦いに慣れてないというべきか。ドラゴンゴーレムやら禁術やら扱ってれば格下ばかりになるから仕方ないかもしれないけど、師匠たちみたいに高度な連携で戦うパーティの恐ろしさを知らない様子。

 だってもう完全に師匠しか警戒していない。

 リーダーの流麗な抜き打ちも、岩をも砕く旦那の剛剣、先輩の刹那を穿つ槍術だって意識の外だ。確かに一番ヤバいのは師匠だけど、だからと言って師匠だけ抑えれば何とかなるほど静かなる狼は甘くない。塔の中で自分を見事に足止めしていたのが誰か、もう忘れちゃったのかな?


 ありとあらゆる状況に対応する柔軟性と経験値、そしていかなる状況からも勝ち筋を見出す知恵がある。しかも、ちょっと足りてなかった火力を私が埋めているのだ。リーダーの号令が雄々しく響き、旦那と先輩が剛と柔を織り交ぜた連携攻撃を見せる。おまけとばかりに師匠の雷がきらめく。もう負ける気がしない。


 そんな中、私はこそこそと木の陰に潜んでいる。もちろん手には火の魔術、その構成だ。先輩が私を隠した理由なんて明らかだ。みんながただの一度も振り返ることなく、そして決して私が潜んでいる方に攻撃を向けさせないのも、──全ては勝利のため。


 幸いなことにまだ師匠のつけたマーカーはいきている。ボロボロのドラゴンゴーレム、老人のすぐそばに残ってる。なら、いつぞやのゴーレムと同じ目に合わせてやろう。初めは私を狙ってたくせに、今は完全に私のことなんて忘れている失礼な老人に、私の本気を見せてやろう。あらかた全部吹き飛ばしてやるから覚悟してろよ?


***


 地上での戦闘では狼の群れを彷彿とさせる連携攻撃が老人を襲う。どれだけ優れた魔術師であっても、魔術を使う隙がなければただのローブを着た魔術師っぽい人に過ぎない。さすがの一言だ。いつかは私もあそこに入っていければいいんだけど。まだちょっと自信はないかな。


 魔人ゆえの再生能力でみんなの攻撃を耐えているけど、やっぱりしんどいみたい。いたるところに剣や槍が向けられるし、隙を見せればゴーレム部分すら両断する剣士と老人部分を穿つ槍使いがいるんだもの。ちなみに師匠は大体剣で戦っているね。あの人はもう仕方ないから仕方ない。

 とうとう耐えかねて、老人はドラゴンゴーレムの翼を広げ、一気に大空へと飛び上がった。へえ、飛べるんだ。ゴーレム部分はドラゴンの姿しているもんねって思うけど、石の翼で飛ぶってそれどうなってるんだろう。どうせ禁術とかなんだろうけど。

 にしても、空を飛ばれると対抗する手段がほとんどなくなってしまう。剣も槍も届かない。なので早速スリングに持ち替えてみんなして礫を飛ばしている。うーん、ちょっと面白い姿だ。でも威力は侮れるものではないのである。旦那が一撃でオオトカゲをしとめるのを見たことがある。空に向けてだから威力が落ちるのは仕方ないけど、低空なら十分な威力を保っている。だから老人が魔術を組むにはもっと高く上がる必要がある。投石が届かなくなれば、今度は師匠が雷を飛ばし始めるものだから、老人はどんどん高空へと追いやられていく。

 にしても、なんか今日の師匠は調子がいいな? 私(魔力タンク)なしなのに、こんなに魔術使って大丈夫かしら? ちょっと心配。


 さて、それはそうとチャンスである。

 

 取るに足らないと無視されている私だけど、さすがに魔力を込め始めたら気づかれてしまうだろう。というかあっちからすると姿がずっと見えないから死んでた判定だったかもね。出来ればそのままその勘違いを続けてもらいたいところだけど、期待できないよね。だから自分から遠くに離れてくれたのは大変都合がいい。

 上空から何をするつもりかは知らないけど、私を止められるかな?


 火の魔術、師匠直伝の構成に全力で魔力を注ぎ入れる。一発勝負でいい。どうせ外さないし、少し避けられても焼き尽くせばいいんだからね。

 それに、もし駄目でも師匠たちが追撃で仕留めてくれる。それを考えれば緊張なんてするはずもない。いつも通り、そしていつも以上に気合を入れるだけだ。

 

 が、なんか様子がおかしい。いや、老人じゃなくて私の方ね。……あ、あれ? なんかちょっとおかしいな。いつもの通り、上限をとっぱらった構成を3段目に入れた火の魔術なんですよ? マーカーを起点に発動するだけの単純な構成に、魔力を入れている。入れているんだけど、なんでか一向に満たされる気配がない。いつもならもっとドバドバ入っているなって感覚があるのに、居れれば入れるほど手ごたえが薄くなっていく。どこからも漏れてはいないし、魔力が溜まっていくのは分かるんだけど。たとえるなら、バケツに水を汲んでると思ったら、実は湯舟だった。ちがうな。でもなんかおかしいの!


 いや、それだけじゃない。構成に流れ込んでいる魔力も明らかにおかしい。おかしいっていうか、私が注ぎ入れている以上の魔力が入ってってる。何、何なのこれぇ?? いくら私だってこんな量の魔力はないよぅ! 私の想像をはるかに超える何かが起きている。

 でも何が起きていようと止めるわけにはいかない。もう私の全部をつぎ込んでいるのだ。ここまで大規模に魔力を注ぎ込んでるんだから、後戻りはできない。第一、私にはみんなの期待がかかっているのだ。それに応えたいんだよ、私は!


 内心ビクビクしながら、それでも腹を据えてひたすら魔力を注ぐ。もう、なるようにしかならない。それでもはみ出た不安が私を動かし、視線が師匠を探す。何かあるとつい師匠を見る癖がついてしまっているのだ。生まれたての小鳥と私を呼んでもいい。なにせわからないことは大体答えてくれるから、子供にとっての毛布というか、なんか安心なのだ。

 そして師匠も私の習性を把握している。だから、私の視線に師匠も気が付く。気が付いて、目が合って、そして、にやりと笑った。


 こ、これ! 絶対師匠の仕込みだ! あのしてやったり顔は完全になんか知ってる顔っ!


 はっ! 嫌なことに気づいてしまった。禁術は魔術の大体上位互換。禁術に使われている力は死ぬ寸前の変質した魔力って師匠は言ってた。魔力が変質したのが禁術、その力。なら、魔力に近い性質を持っててもおかしくない。

 塔が崩壊して、その中に大量に使われていた禁術の力がこの辺りにとんでもない量でばら撒かれている。何もなければただ拡散して消えていっただろうその力。なのに、私が思いっきり魔力を構成に注ぎ始めてしまった。師匠は言ってた。浮遊魔力は近くの魔力移動に誘導されるって。そして同じ特性を持つ禁術の力も多分同じ。


 自慢じゃないけど、私の全力は結構な勢いがある。だから拡散するはずの力が、私の魔力に引き寄せられた。アホほど濃いその力は、一度勢いがつけば雪だるま式(雪を見たことはないけど)に膨れ上がって、自動的に流れ続ける。その先はもちろん私の火の魔術、その構成だ。


 そんなことを考えている今でさえ、周囲の魔力も禁術の力もまとめてどばどばと構成に流れ込んでいる。本当ならとっくに私の限界なんて超えている。師匠が一際頑丈に作ってくれた構成ではあるけど、ここまで規格外の力を入れるようには出来てないのだ!

 なのに、禁術自体が私の構成に入り込んで、魔術そのものを強化しているみたい。そのせいで全然構成が揺るがないんだけど! むしろすでに禁術の力の方が魔力より多く入ってない?!?!


 えっ、これ全部が火に変わるんですか?? だとしたらとんでもない事になるんだけど!! こんなの気軽にぶっ放していい物じゃないでしょ!

 

 青ざめる私に、駆け寄ってきた師匠は冷たい。老人が高く飛んで行ったから、みんなが集まってきてくれたのだ。なのに師匠は私の戸惑いを一切斟酌してくれないのだ。酷くない?!


 私の文句も聞かずに師匠が何をしてたかっていうと、付近にある土砂を再び巻き上げて煙幕を作っていた。老人としても何かとんでもないことが起きていることは分かるだろうけど、全部見せる必要はない。ただでさえ私は木の陰に隠れてたから、詳しいことは分からないはず。


 これが師匠の仕込みなら、どうすればいいかって考えもあるはずだ。多分そのために煙幕を作った。何でもいいから早くこの魔術から私を解放してほしい。今だって私何にもしてないのに付近の魔力もろもろを吸い込み続けているんだよ? 怖すぎるでしょ……。


「いいか。そいつは俺の合図でぶちかませ。それまでは絶対に撃つなよ。絶対にだぞ?」

「これ、やばいやつですよね?? うっかりしたら、酷いことになる奴ですよね??」

「なる。だから俺たちも直前に避難する必要がある。結界で防げる類の威力じゃないからな。幸い丁度いい穴が近くにあるだろう?」

「穴? あー、ありましたね。穴」


 私がこないだゴーレムを倒した時に開けた穴だ。すでに埋まり始めていたけれど、木の根っこが壁みたいになっていたから避難所として期待できそうだ。じゃああれか、みんなで穴のところまで逃げて、魔術を起こすのと同時に隠れると。で、師匠が穴をふさぐように結界を張るのね。うん、流れは分かった! 泣いても笑ってもこの一撃が全部を決める。いやぁ、笑ってたいものだね。


***


 煙幕が薄れていく。でも私たちはすでに穴に向かって走っている。というか、この魔術を保ちながら走るの怖すぎるんですけど! 誤爆したら終わりなんですよ??


 穴の直前まできたものの、相手は魔人でドラゴンでゴーレムだ。当然すでに見つかってしまっている。あっちはあっちで何やら物騒な魔術を組んでいるっぽい。いや、結界も組んでる? そりゃこっちの火力を警戒するよね。さっきよりさらに高く上がっている。どうせ雷か火の玉が飛んでくるって思ってるんでしょうね。


「魔術の同時使用か。確かに俺たちよりも高位の魔術師だな。技術は素晴らしい。だが状況判断が甘すぎるな。うちのひよっこの最大火力が、そんな片手間の薄っぺらい結界で防げると思うなよ? まあ、本気で組んだところで大差はないか」


 師匠ってばこの期に及んでまだ煽るの? 聞こえてるとは思えない師匠の煽りだけど、聞こえていたらしい。老人が組んでいた謎の魔術を止めて、私たち、というか師匠を見下ろしている。


 その一瞬を見逃さず、師匠が雷の魔術を発動する。いつもより数段派手で威力のある雷が空を辿って老人の結界へとぶち当たる。魔人は今更ながらにぎょっとしている。なにせさっきまでの魔術とは威力が段違い。片手間の結界が揺らいでいる。これは師匠、完全に三味線引いてたな。なんかさっきから妙に連発できているなと思っていたら、これ師匠も禁術の影響受けてるんだね。


 今の雷以上の一撃を食らわせてやると師匠は宣言しているわけだ。実際私のもとに流れ続ける力の流れも老人に見えているだろう。


 ”だからこそ”老人にはその挑発を堪えられない。魔術の知識、禁術の扱い、崩された塔、あふれ出した禁術の力。積み上げてきた全てが崩壊し、破壊した張本人から魔術で上回ると宣言されているのだから。 


 これだから師匠は厄介なんだよな。なんて訳知り顔をしてみる。人の気持ちを全力で逆なでして、相手の行動を縛るのだから。

 老人は、老魔術師としての全てを賭けるように、巨大で緻密な結界の魔術を編む。流石に地上に近づくのを危険と感じたか、上空にとどまったままで、老人の前方に結界が現出する。


 光さえ遮断する、不透明で白い結界の壁。確かにあれを打ち破るのは大変そうだ。


 ──老人はいくつもの失敗を重ねている。馬鹿正直に攻撃を受け止めようなんて、決闘にでも出ているつもりだろうか? それに、火の玉を飛ばすだけが私の、師匠の魔術ではない。塔の中でドラゴンゴーレムの右足を砕いた一撃を忘れているに違いない。視認できる位置なら多少の距離を問題にしない。師匠のマーカーはねちっこいのだ。


 でも反省する時間はあげない。だってもう合図が出ているんだから。


 私の指が、上空を羽ばたくドラゴンゴーレム、そして老人を示す。マーカーへと、微かな魔力が伸びて、魔術の発現すべき位置が定められる。魔術の本質は省略することにある。なら、距離を省くことなどたやすいのだ。


 さあ、あとは一言だけ。


「弾けろ」


 言うや否や師匠に思いっきり引っ張られて穴に引き込まれる。意外と深い穴の底で旦那とリーダーが私たちを受け止めてくれた。師匠は全力で穴の入り口に結界を張っている。禁術の力を取り込んで、かつてない強度の結界が三重に張り巡らされる。


「来るぞ!」


 きた。


***


 月のない深い夜に、突如として現れた巨大な火球は、まるで太陽が現れたように森を光に染め上げた。その眩い輝きは全ての影を許さない。夜の冷えた空気すら一瞬で溶け去るような熱が、老人と一体化したドラゴンゴーレム、その首元に発生した。


 炎の煌めきは、世界を狂わすほどの熱波を生み出し、深き魔の森はなすすべもなく焼き尽くされる。老人が最後に生み出した結界は、ほんの僅かだけ光をとどめる偉業を成し、そして消えた。

光と熱、次いで音。天井知らずの熱量は、ただの空気を巨大な爆風に変えてみせた。幾重にも束ねた雷鳴のような轟音が響き渡り、広大な森や遥か先の山々にまで火球の破壊力を伝えていく。空気中に漂う塵すら焼き尽くし、全てが吹き飛ばされる。


──それは街のみならず、この辺境全てを揺るがすほどの衝撃だったという。



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