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二度と過ちを繰り返さない 





あれほどに、誰かに殺意を抱いたことはなかった。


七歳でルミナス様と婚約してから十年間、彼に相応しくあるために、辛い妃教育をずっと耐えてきたのだ。


寝る間も惜しんで努力してきた。その努力を無残に踏みつけられた気がした。



だから私は、メアリーを処分することにした。



でも失敗に終わり、私は投獄されることになる。


そのせいで私を愛してくれた家族も連座で処罰され、多額の賠償金と共に男爵家へと降格されたと聞いた。


そして私を断罪したルミナス様も、結局無事ではすまなかった。私を罰したことで、私の犯行の動機が明らかになったのだ。


婚約者がいながら元平民の男爵令嬢と不貞を犯した彼のことを、誰もが王太子の資格なしと責め立てたらしい。


恐らく、メアリーを王族の妃に据えたくない高位貴族たちが動いたのだろう。



彼らにとっては、もはや不穏分子でしかないルミナス様と、筆頭公爵家をまとめて排除できる絶好の機会だ。


息子を庇いきれなかった国王陛下はルミナス様を廃太子とし、側妃が産んだ第二王子が立太子することになったと聞いた。


ルミナス様が国王になるために、どれほど努力していたか私は知っていたのに、私の愚かな行いのせいで政争が起こり、彼の国王への道を閉ざしてしまった。


彼がメアリーを愛しているというなら、愛妾にするか、どこかの家に養子入りさせて側妃に迎える道もあったのに、前回の私はそれを許せなかった。



そして私のせいで、誰も幸せになれなかった。


なら今回は、メアリーを娶ることを許す——?



「……いいえ、無理だわ。きっと私は耐えられない」


仲睦まじい二人が脳裏に浮かぶだけで、酷く胸が痛んで涙が出る。きっとまた悋気を起して、彼女の存在が許せなくなるだろう。


子供でも出来れば、私は憎しみで母子共に殺してしまうかもしれない。それほどに、私は彼を愛し過ぎている。


そして私はまた、愛する彼に憎まれるのだ。



「そんな人生……もうイヤ」


「何がイヤなんだ?」


突然かけられた声に振り向くと、ルミナス様が立っていた。


「──また、泣いていたのか」


「あ……いえ、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」


慌てて涙をぬぐい、殿下から視線をそらすように俯いた。


(どうして殿下がここに?今は授業中のはずなのに)



「なぜ、泣いている?」


「え?」


「お前がそのように感情を見せるのは、小さな子供の時以来だな」


「………」



だって……感情をコントロールできなければ、貴方の妻にはなれないと散々言われてきたから。


「もし今日のことが王宮の教師たちに知られれば、私は王太子妃に相応しくないと怒られるでしょう」


「泣いたくらいでそこまで言わないだろう」


「いいえ。妃教育では厳しく感情のコントロール方法を教えられます。それを完璧にこなせなければ貴族や他国の者たちに侮られ、殿下の顔に泥を塗るのだと散々叩き込まれてきました」


「……妃教育とは、そんなに厳しいものだったのか」



一体殿下は何の用で来たのだろうか。

彼の思惑がわからない。



「あの……殿下、なにか私に話があったのでは?」


「あ……いや、特には……ただ、お前が泣いていたから気になって——」


「それは、お気を使わせてしまい申し訳ありません。今の私の状況はただの自業自得ですので、このような愚か者のことは捨て置いていただいて結構です。殿下が気にされる必要はございません」


「オリヴィア、先程からその他人行儀な言葉使いはなんなのだ?」



ああ、ダメだ。


結局私は何をしても、ルミナス様を不快にさせてしまう。


もういい。


今世はもう、消えよう。



この人の前から消えて、誰も自分のことを知らない場所で生きていきたい。もう誰かを憎むのも、憎まれるのもたくさんだ。


二度目の人生は、誰も不幸にしたくない。


穏やかに暮らしたい。



「殿下は——メアリー様のことだけをお考え下さいませ」


「オリヴィア……な、何を言っているのだ」



明らかに動揺した彼の様子に、思わず笑みがこぼれてしまう。愛する女性のことになると、優秀な王太子も年相応の反応を見せるらしい。


「申し訳ありません、殿下。もう馬車が来ていると思うので、御前失礼します」 


「あ、ああ……」



臣下の礼を取り、そのまま視線を合わせず彼に背を向ける。図書室を出る時にまた名を呼ばれた気がしたけれど、聞こえないふりをして立ち去った。


胸が、とても痛い。


それでも私は、その痛みを笑顔で隠す。

もう二度と過ちを繰り返さないように。




私という存在を跡形もなく、



消すことができるように——



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