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ただ君に会いたかった



「回帰……?貴方まさか…………国宝の短剣を使ったの?」


「──はい」



王族に代々受け継がれる国宝『守護の短剣』。


建国時から存在すると言われ、数百年経った今も朽ちることなく、厳重な管理の元に保管されている。


どういう加工が施されているのか、剣身は信じられないほど綺麗なままだ。そして短剣に纏わる伝承──時戻りの守護が付与されていると言われている。


ただこれが眉唾だと言われる所以は、


『剣に声が届いた時、時の扉は開かれん』


これ以上の情報が全くないからである。

過去に使用した記録も何もない。


なぜなら代償が王族の命だから。


国が滅亡の危機にでも晒されない限り、試しようもない。



そんな眉唾な短剣で、前世の私は心臓を刺した。

夜着の前ボタンを開け、左胸を確認する。



やはり刺し傷があった。

戒めのように十字の傷跡になっている。


「その傷……時戻りの伝承は真実だったということ?」


「私がこうしてこの場にいるので、事実なのでしょう」


「お伽話だと思っていたわ。陛下に報告しなければいけないわね。ところで貴方、死んだ……のよね? どうして? 未来で何があったの?」



私は、母に前世のことを話した。

自分の愚かな所業もすべて、包み隠さず。


そして話が進むにつれ、母の表情が険しいものに変わっていく。



「オリヴィアを地下牢に入れて、衰弱死させたですって……?」


「……はい」


「なんてことを……っ。ザラス公爵家はどうなったの?」


「ザラス公爵家は……オリヴィアの亡き骸を引き渡したすぐ後に、爵位を返上して国を出て行ってしまいました」



ザラス公爵家は、オリヴィアの投獄時に多額の賠償金を支払った後、当主交代で男爵家へと降格していた。



だが真相が明らかになったことで、王家の出した沙汰は不当であることが証明されてしまった。


オリヴィアの獄中死と真相を元公爵に知らせた時、『王族には殺人罪は適用されないのですね』と言われたことが今も耳に残っている。  



「王族派筆頭の公爵家を国外追放したようなものじゃない。傘下の貴族たちが黙っているわけないわ」


「そうですね……私は貴族たちの支持を失いました」



オリヴィアは確かに罪を犯したが、ことの発端は私の愚かな行動が原因だと議会で咎められた。


お粗末な裏取りで筆頭公爵家に過大な処罰を与え、女のハニートラップに弱い王子と嘲笑された。


事実なので何も言い返せなかった。


オリヴィアを捨ててメアリーを選んだことで、以前から貴族たちの風当たりが強かったが、私がザラス公爵家にした仕打ちがすべて明らかになったことで激化した。


そんな王太子に忠義は尽くせないと多数の貴族に見限られ、私はついに王太子の地位を失った。



メアリーと関係を持ち、一緒になってオリヴィアを貶めた側近たちは全員が廃嫡され、メアリーは監獄と呼ばれる最も厳しい北の修道院へと送られた。


そこに入れられた女性は二度と出ることなく生涯を終えると言われている。


私は幼い異母弟が立太子するまで、外交を除いた公務を肩代わりすることになった。公の場には一切立たず、ひたすら執務室で書類仕事に従事し、異母弟の立太子後は王族籍を抜ける——要はしばらく王宮に監禁、役目が終わったら廃嫡だ。



ここまで話し終えて、母が深いため息を溢す。


「──自業自得としか言えないわね」


「……はい」


「それは私たちにも言えることだわ。貴方を過信しすぎていた。そしてオリヴィアにも甘えていた。貴方たちはまだ子供なのだから、もっと口を出して導くべきだったわ」


「違いますよ、母上……何もかも、私が至らなかっただけです。すべて私が悪いんです」


 父と母には、何度もオリヴィアと向き合え、大事にしろと言われてきた。それを私はずっと無視していたのだ。


『両陛下や殿下の前では良い子を演じている』というサミュエル侯爵夫人の言葉を信じて、自分だけは騙されるものかと意地を張り続けていた。


それで前世は誰も幸せにならなかったのだから、本当に愚かとしか言いようがない。



「違うわ、ルミナス。これは王家全体の問題よ。今回のサミュエル侯爵夫人の件も含めて、私たちにも非がある。周りの警戒を怠っていた。きっとその結果が貴方とオリヴィアを死なせてしまったんだわ」


母が瞳に涙を浮かべ、私の頬を撫でた。

そして悲し気に笑う。


「本当に馬鹿な子。やっぱり貴方は……オリヴィアが好きだったんじゃない。だから彼女を死なせて、耐えられなかったんでしょう?」


「!?」


「だからお伽話と化していた国宝の伝承に、一縷の望みをかけて自害したんじゃないの? 万が一望みが叶わなかったとしても、オリヴィアのいない世界にもう未練はなかった——違う?」



堪えきれずに、嗚咽が零れた。



そうだ。


私はオリヴィアのいない世界を受け入れられず、死を選んだ。伝承なんか本当は信じてなかった。



ただ彼女の元に行きたかった。


オリヴィアがいないことに耐えられなかったんだ。

自分の犯した罪にも耐えられなかった。



悪夢でも死後の世界でも、なんでもいい。

彼女になら、憎まれても、殺されてもいい。




オリヴィア。


ただ君に会いたかった。


会いたかったんだよ。





なのに君はここにいない。





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