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記憶②



『君は……私の側近たちと関係を持っていたのか?』


『なっ、なんでこれ……やだ! やめて! 見ないでルミナス様! こんなの全部嘘だから!』 


書類の束を男から奪い取り、メアリーは床に投げ捨てた。

 


『あら、王家の影を侮辱する気? 王族の妃になろうという女の素性を王家が調べないわけないでしょう? 調査書が気に入らないなら映像もあるわよ?』



そして壁に映し出されたメアリーと側近たちの情事。

色欲に溺れる者たちを見て、吐き気を催した。


あまりにリアルな光景で、夢と現実の境界がわからなくなってくる。目の前にいる私と同じ顔の男は、もはや顔色が紙のように白くなっていた。



『メアリー……』


『違う違う! こんなのインチキよ! 早く止めて! 信じないでルミナス様! これは全部王妃様が私を陥れようとしてるのよ! 私が男爵令嬢なのが気に入らなくて意地悪してるんだわ!』



何を言ってるんだこの女は。

映像記録装置は王家の影が所有する魔道具だ。


魔法大国から取り寄せた最新式モデルで、他国の王族や裁判所でも使用される一級品だぞ。


それをインチキ呼ばわりし、王妃に冤罪までかけるとは……メアリーはこんなに愚かな女だったのか──




『これで私たちがこの女を王家に入れることを反対した理由がわかったかしら? 本来ならこの程度の調査、王太子である貴方がやるべきだったのよ』


『申し訳ありません……』


『しかも今の映像、今日までの二カ月間の映像よ。直近のものは一昨日の映像なの。信じられる? 無料の娼婦を貴方は王家に迎えようとしていたのよ』


母の嘲笑に、目の前の男は項垂れて何も言葉を返さなかった。


 


◇◇◇



また次の場面へと変わる。



国王の執務室で、両親と共に男が騎士団長から報告を受けている光景が見えた。


その後の詳しい取り調べで、メアリーが主張していたオリヴィアによる虐めは、すべて自作自演だったということが判明した。


そして虐めの捏造や自作自演の証拠隠蔽を図ったのは、まさかの側近たちだった。



メアリーと体の関係を結んでいくうちに、廃嫡になりかねない弱みを握られ、オリヴィア排除の手伝いをしたと自供したのだ。


メアリーの本当の恋人は、闇ギルドの者らしい。


平民の時からの付き合いで、男爵に引き取られた後もずっと付き合いを続け、側近たちはメアリーと恋人のカモにされていたと聞いた。


オリヴィアの暗殺依頼の情報もその恋人から得て、側近を通して私に知らせたというのが真相らしい。



オリヴィアは貴族令嬢としての振る舞いを厳しく指導していただけだった。それをメアリーが大袈裟にして虐めに仕立て上げたのだ。


逆にオリヴィアは、メアリーから散々侮辱されていた。


ギャラリーがいる時は周囲に巧妙な手を使って被害者ぶり、誰も見ていないところでは私の寵愛を得ているのは自分だとオリヴィアを挑発し、惨めな女だと嘲笑っていた。


完全に公爵家に対しての不敬罪と侮辱罪が適用されるため、オリヴィアがメアリーを傷つけたとしても、彼女は罰を受けただけで、被害者に該当しないと結論付けられた。



これにより、オリヴィアの釈放が決まった。

だが全くの無罪放免というわけにはいかなかった。


未遂とはいえ、暗殺を依頼したのは事実だ。


オリヴィアはその罪だけは償わなければならず、ザラス男爵領に幽閉という罰が改めて下った。



前代未聞の王家の不祥事に、貴族たちの抗議の声が集まる。実際の罪とは別に冤罪をかけ、筆頭公爵家に過大な罰を与えたのだから当然だ。


私と同じ顔の男のせいで、王家は窮地に立たされていた。





──本当にさっきから、この映像はなんなんだ。  


夢なんだよな? 

私はどれも身に覚えがない。


虐めがすべてメアリーの自作自演?

側近たちも冤罪に協力した?



なんだそれは。

なんなんだ。


そんなことは知らない。



それともこれは予知夢なのか?

これから起こることなのか?



一体この夢はいつ終わるんだ。

 

さっきから喉が乾いて、鼓動がうるさい。

すごく嫌な予感がして冷や汗が出る。



もう嫌だ。

この先は見たくない。


夢なら早く覚めてほしい。



何故かはわからないが、私はこの先の顛末を知っている気がする。



ずっと閉じ込めていた、記憶の欠片——


(……いやだ、やめろ……思い出したくない……!)




思い出すのが怖い。





◇◇◇



『殿下!』


『どういうことだ! なんでオリヴィアがまだ地下牢にいるんだ!? 説明しろ!』


王宮の地下牢——そうだ……このカビ臭くて薄暗い地下牢に、オリヴィアがいた。



ああ……そうだ。


私が地下牢に入れろと命じたのだ。


だが一週間後には貴族牢へと移送する手筈になっていた。

なのに、オリヴィアがまだ地下牢にいる。



信じられなかった。

なぜ情報が回って来なかったんだ。


気づいた時にはもう、投獄から数ヶ月が経っていた。




絶望したあの日の光景が、目の前に広がる。

体が震えてガチガチと歯噛みの音がした。


(ああ……っ、そんな……嘘だ……っ)




『オリヴィア!!』



自分と同じ顔をした男が、半狂乱になりながら見窄らしい身なりの囚人を抱き上げて泣き叫ぶ。


地下牢で再会したオリヴィアは、見る影もなく痩せ細り、既に息を引き取った後だった。






なぜ、忘れていたのか。


自分が人殺しだということを──












✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




「あああああああああっっ!!」


「ルミナス!?」


思い出した。

すべて思い出してしまった。



──いや違う。

過去に戻ったんだ。



あれは一度目の人生で実際に起こったこと。

私のせいでオリヴィアを死なせた。



公爵令嬢を貴族牢ではなく、地下牢に入れたのは私だ。


そしてその後、公務や両親との仲違い、メアリーとうるさい貴族たちのフォローで忙しく、オリヴィアの存在を忘れていた。


とっくに看守が貴族牢に移送しているものだと思い込んでいたのだ。



あんな薄暗いカビだらけの地下牢に数ヶ月も──きっと彼女は絶望し、人生を憂いて生きる気力をなくしてしまったのだろう。


運命だと思ったメアリーは、紛い物だった。そんな紛い物のために、私はオリヴィアの献身と愛を捨ててしまったのだ。


「オリヴィア……すまない、オリヴィア!」


涙が止まらない。


二度目の人生でも、私はオリヴィアを傷つけてしまった。

なぜもっと早く回帰しなかったのか。


オリヴィアが消えてしまった後で回帰しても遅い。

もうオリヴィアはどこにもいない。



罪悪感と喪失感に押しつぶされそうになり、気が狂いそうだ。


「しっかりしなさい、ルミナス!」


母の声にハッとして、目の前の視界が広がる。

いつのまにか自分の寝室に移動していたらしい。



「母上……」


「貴方、学園で突然倒れたのよ。一体何があったの?」 


「──母上……私は、この先の未来で()()()()()


「え?」


「そしてこの時間に回帰しました」


私の言葉を聞いて、母は硬直した。



「回帰……? 貴方まさか…………国宝の短剣を使ったの?」


「──はい」






あの夢の顛末は、私の死で終わる。





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『私の愛する人は、私ではない人を愛しています』

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