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試験と幼馴染の告白



試験当日。


箒で飛び、リレーのスタート地点まで到着する。


「フィオちゃん、乗って!」


「うん!」


私が飛び乗ると、ディオールは走り出し、今度はそれを合図に私は杖を構える。

そして、自分の体力を使い切るつもりでダミー人形を片っ端から打ち抜く。






「12分08秒。お見事。ダミーも150体破壊していますね。素晴らしい。」


箒訓練のいつも厳しい眼鏡の女教師が、感心したようにつぶやく。

この試験の制限時間は15分で、大体14分くらいの人が多いらしいから、大成功だ。


私は下りた後、ディオールとハイタッチを交わす。


「やったわ!ディオールすごく早い!!」


陸上部よりも早いんじゃないかというスピードで、まるで乗り物に乗っているみたいだった。


「全力で走ってたのに魔法のコントロール凄かった…君、きっとすごい魔法使いになるよ!」


一緒に練習しているうちに、私達の間には熱い友情が芽生えていた。

クラスは違うけれど、また機会があったら協力しようと伝えあい、私達は解散した。



--



「おおー!」


「すごっ…!あんた達3位よ」


試験結果が廊下に張り出されている。

試験はクリアタイムや破壊数で数値化されていて、私達は3位で95点だった。


ちなみにシェルとクラウスは1位の99点。

でも、クリアタイムは12秒と書かれているから、破壊数が相当多いのだと思う。


「それにしても完璧な分業だったし、走り込みなんていらなかったわ……」


来年のことを考えるなら、必要なことだとわかっているけれど。


「まあいいじゃない。それよりディオールとどうなのよ。彼氏になってくれそう?」


「ちょっと、そんなの失礼よ…」


「でもあれのこともあるし、正直に伝えても手伝ってくれそうじゃない?」


確かに、ディオールなら彼氏のふりを快くやってくれるかもしれない。

けれど、彼にメリットもないし、巻き込むのはちょっと申し訳ない。


「何の話だ?」


クラウスが現れる。

彼も張り出しを見に来たらしい。


「1位おめでとう」


私が話を逸らすと、クラウスはエレーナに笑いかける。


「さっきディオールがどうとか、言ってなかったか?」


エレーナは照れながら白状する。


「フィオ、彼氏を作ろうとしているのよ。それでディオールはどうなの?って聞いたところ。」


「えっなになに、フィオちゃん彼氏作ろうとしてるの?クラウス子離れの時じゃん!?」


クラウスの後ろから、シェルが現れる。

そんなに大声で恋人が居ないことを発表しないで欲しい。


「ほら、フィオ、変な噂されてるから、止めるために作った方がいいでしょ」


「ああ…あれね…」


シェルは気まずそうに笑う。

流石にクラウスの前でその話をするのは憚られる。


「でも、私にも好みがあるもの。誰彼構わずってわけじゃないわ」


「たとえば?」


クラウスが余計なツッコミを入れる。

たとえばって言われてもすぐには思いつかない。


「……えっと………優しくて…頭が良くて…笑顔に含みが無くて…爽やかで……えーーと…生徒会長で…」


途中から適当にゲームキャラの特徴になってしまったけれど、それっぽく言ってみせる。


「うわ、クラウス、顔…っていうか、フィオちゃん、それって要するにリオン先輩だよね?」


私はぽかんとする。

そういうわけじゃないんだけど。


「…やっぱり気づいてなかったんだ。堂々と言ったもんね。」


「そりゃフィオに彼氏ができないわけだわ。あの人には並みの相手じゃ勝てないもの。」


勝手に納得されている。


でも私の伝えた特徴が悪すぎた。

何しろこの学校の生徒会長といったら、リオン先輩になってしまう。


私が好きなのは格闘ゲームに出てくるステファン会長閣下のことなんだけど。


「…リオン先輩に声を掛けるのかよ?」


「掛けないわよ。今のは理想の話でしょ。」


「でもリオン先輩みたいな人なんてそんな滅多に……いや居るのか?」


「居るかそんなの…?」


シェルに視線が集まる。


「ほら、ユーリだよ。」


「ハッ。あれのどこが含みのない笑顔だよ」


クラウスは期待して損した、といった風に鼻で笑う。


「でも爽やかではあるだろ?頭良いし優しいし、生徒会長じゃないけど副会長だから再来年には生徒会長になるんじゃない?それに…」


ユーリのことを生徒会長として考えたことはないけれど、再来年にそうなりそうな地位にいると言うのは驚きだ。

全然知らなかった。


「ユーリかあ…考えたことなかったな…確かに頭良いよね。相当な進学校に行ったし。」


「クラウス父さんも認めてくれそうな相手だし。変な奴連れてきたらきっとうるさいよ~、っていだだだだ!おい髪を抜こうとするな!」


シェルはクラウスに髪を引っ張られている。


「…そもそも無理に作るものでもないだろ。そういうのって自然にどうこうするものじゃないか?そもそも噂なんてどうだっていいだろ。」


クラウスらしい言葉に、私達は目を合わせる。


「おい、何なんだお前ら。そもそも噂ってなんだよ…」


私は、返事の代わりに首を振った。

クラウスにだけは、言うつもりはない。


--


その夜、いつもの如く寝袋を持ってきた見慣れたクラウスが、呆れた顔で現れる。


「昼間の話、聞いたぞ。お前が男漁りをしているって噂だってな。でもそれを嘘だと証明するために漁ってたら本末転倒だろ。」


誰が口を滑らせたのかは知らないが、クラウスに気がある女の子だろうか。


「色々あるのよ、事情が」


放っておけば、エスカレートするのは目に見えている。

だから、やめさせるにはとっ捕まえるか恋人を作るか。

その辺りしかない。


「何でそう突き放すんだ。俺にはもっと相談してくれてもいいだろ」


クラウスにだからできない話なだけだし、相談ならエレーナに十分している。


「とにかくクラウスに話せることは無いわ。貴方には関係ないことよ。」


余計な心配を掛けても仕方ない。

私はいつもの如く寝る支度を整えると、頭上に影がかぶさる。


「クラウス…?」


「……俺に関係ない…か…。お前はいつもそうだな…」


絞りだしたような声が、頭上から落ちてくる。

顔を上げると、クラウスは悲しそうな表情で、こちらを見下ろしていた。


「試験だって何故最初から俺に頼らない?おぶって走るくらい俺にもできるって知ってるだろ。」


そんなことをしたら、普通にいじめられそう。

王子様になんてことさせるの、って女子たちは発狂するだろう。

そもそもクラウスなら自分で走れと言うとばかり思っていた。


「リオン先輩に聞きに行って、しかもよりによって…あのディオールと組むなんて…あいつの誇らしそうな顔を見て、全部察したよ。」


「ディオールの何が不満なの?」


「うるさいな。あいつは君のそばに居ちゃいけない奴だろ。ああ…むかつく。」


その憎悪の目で見られると、私のことではないとしても傷つく。


「どうしてそんなこと言うの?居ちゃいけないって何よ。良い人じゃない。」


「あいつは君に気があるから。安全じゃないだろ。いやあいつだけじゃない、あの先輩だって…。」


まるでディオールが何かするみたいな言い方は、失礼すぎる。

でも、ディオールが私に気があるというのは、言われてみれば少しだけ心当たりはある。

リオン先輩のことはクラウスの気のせいだと思うけれど。


「…俺にはなんにも伝えずに、何もかも勝手に決めて、俺には関係無いってそんなのばっかり。なんなんだ?」


「クラウスこそただの幼馴染なのになによ?過干渉よ。」


「…俺がフィオのことを好きなのは知ってるだろ?約束は忘れたのか?」


全然知らないし、約束って何のことだろうか。

私が何も言わないのに誤解したのか、クラウスは落胆したような表情をする。


「……フィオは本当に俺に興味ないんだな……」


尚も表情は笑っていないクラウスが、薄ら笑いを声だけで浮かべる。


「君がもし誰かと付き合うなら、俺は絶対に邪魔してやるからな。」


どうしてそういう話になるのか全然わからない。


幼馴染として好きだからって、何でもしていいと思っているなら大間違いだ。

もしかしたら、クラウスは私をオモチャのように思っていて、誰かの物になるのが気に食わないのかもしれない。


自分はアンナって彼女が居るくせに、気に食わないから人の人生を邪魔しようだなんて腹立たしい。



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