幼馴染の提言
幼馴染。
ヒロインレースでは大体にして負けフラグ。
毎朝起こしに行ったり、誰よりも昔から好きなのに、報われないのが幼馴染ヒロインの宿命だ。
私、フィオ・アストラヴァにも、幼馴染が居る。
名前はクラウス・セーヴィラスと言い、銀の髪に赤い瞳をした外見の良い青年だ。
容姿から大変モテるし、友人には羨ましいと言われることも多い。
「フィオはクラウスくんと結婚したらいいのに」
母親の言葉に顔が引き攣る。
両親ですら、そう茶化すことは珍しくない。
「お母さん、縁起でもないこと言うのやめて。」
小さい頃から一緒に居ると、そう言う目で見ないのが当たり前になっている。
今更そう言う目で見る日も、来ないと思う。
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サイラス魔法学校。
お城のような外観とは裏腹に、私にとっては早く解放されたい、刑務所のような場所だ。
何しろ、魔法学校での生活は、すごく大変だった。
朝から箒の訓練のために受け身の練習を何度もやらされる。
やっと終わったかと思えば、今度は実技訓練として魔法の打ち込みを何度もさせられる。
昼明けはぐったりしながら、眠い目を擦って座学。
魔法の歴史だの理論だの、聞いているだけで眠くなる内容ばかりが続く。
けれど、眠ることは許されない。
何故なら魔法も薬学の授業も、うっかりすると危険な失敗をする。
授業中に眠るということは、最悪大怪我するということである。
「もうねむい…」
「まだ午前中よ?」
ペアを組んでいるエレーナが笑う。
今は3限から2コマある実技訓練の授業。
その前の箒訓練の2コマで既に体力を使い果たした。
毎日ヘトヘトだ。
「でも流石のサイラス魔法学校よね。軍隊学校のあだ名は本当だわ。」
エレーナの言う通り、この学校は近所でも有名なスパルタ学校だ。
それでも一流の魔法使いをたくさん輩出しているから、通わせたがる親が後を絶たない。
「はあ…」
杖を適当に振って、的を狙う。
適当すぎて、魔法がダミー人形の足に当たる。
「もっとやる気出さないと終わらないわよ?…フィオさん!ほら顔を上げて!はい、ワンツッ!」
エレーナが渾身のモノマネを披露する。
実技訓練の先生に結構似てる。
皆どうしてそんなに体力があるのだろうか。
私のように項垂れている生徒は他には居ない。
居残り何てしたくないから、さらにヘトヘトになるべく杖を構えた。
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「腕が重い体が重い魔力も無い……」
「うわあ、酷い表情だな…。ほら、笑え。」
教科書を貸して欲しいらしく、教室にクラウスが現れる。
クラウスは私のげっそりした顔を見て、私のほっぺを横に引っ張った。
「いひゃい……」
私は文句を言う体力もなく、そのまま遠くを見る。
「どこ見てんだよこえーな。そんな体力でやっていけるのか…?稽古つけてやろうか?」
「早朝ランニングはしない……」
クラウスは毎朝ランニングしたり、色々やっているらしいと前に聞いた。
確かエレーナも授業についていくために運動部に入ったとか。
けれど、私はランニングや朝練までやったら倒れる自信しかない。
「このままだと進級できないだろ?単位認定の試験はもっとドギツイらしいぞ。早く相談に来い。」
教科書を借りて、クラウスが去っていく。
その姿をみて、先ほどの話を思い返す。
そうだ、もう少しで試験がある。
箒訓練と実技訓練は必修で、3年までⅡやⅢがある。
つまり前期後期の試験が取れないと、1年目にして留年してしまう。
確かに、早く誰かに相談した方がいい。
でも、クラウスは駄目だ。
クラウスに相談したら、絶対に体力を付けろと言われるだけだ。
私は他の相談相手を探すことにした。