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後日譚・2




 三好(みよし)景清(かげきよ)は、看護師の先導で、松葉杖をついて歩いていた。

 だいぶ動けるようになったし、一月には手術を予定している。

 最近、師長が別の病棟へ移動したので、気持ち悪いような動物臭からも解放された。


「あ、こんにちは」

「こんにちは」

 今日は、病棟を出て診察室まで行く日だ。景清の靱帯断裂はなかなかに複雑なものだそうで、簡単につながらないし、手術も難しいらしい。別の病院から医師を招いて手術をするそうだ。

 週に一度の診察室への移動で、ほとんど毎回一緒になる男の子が居た。あちらは通院患者で、右腕をギプスで固定している。待合室の椅子に一緒に座り、お互い名前を知らないものの毎度、会話をしている。


「歩けるようになったんですね」

「まあ、少しね。腕、どうなの」

「問題ないと思いますけど……このあいだ、これ、打ち付けちゃって」

「転んだ?」

「ちょっと」

 ぎこちなく笑うのが可愛い。景清はその子を弟のように感じていた。

 ふと、周囲を見る。今週は、やけにひとが多いな。怪我人が……。

 椅子の傍に置いてあるラックから、雑誌が落ちた。入院以来、雑誌や新聞をあまり読んでいない。駅での事故の際に自殺未遂などと書かれたことで、少々苦手意識ができてしまっている。

 ラックへ戻そうと、雑誌を拾い上げた。開いているページに目が行く。「霧上の怪異!! 駅前に現れたものはなんだったのか?!」と書いてあった。


「あ、佐伯(さいき)先輩」

 男の子が嬉しそうな声を出す。

 その眼差しを辿ると、色浅黒い少年が立っていた。似た色の肌の女の子が隣に居る。顔立ちも似ているので、姉弟だろう。

「やあ。また怪我をしたの?」

「ちがいますよ。経過観察で……」

「そう。あ、これあげる」

「え、いいんですか?」

「うん」

「佐伯先輩は……?」

 佐伯、と呼ばれた男の子は、ギプスの子に三十個入りの飴の袋を渡すと、にっこりした。

「ちょっとね。ああ、君のいとこさんに、お礼を云っておいてもらえるかな。この間、来てくれて凄く助かったって」


 佐伯とその姉と覚しい少女は、奥の廊下へと歩いていく。

 景清は雑誌への興味を失い、ラックへ戻した。




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