後日譚・1
「あれってなんだったんだろうな」
「あれ?」
十二月二十九日、松永伊織は先輩の家に居た。冬休みの課題をこたつの上にひろげているが、どちらも手は停まっている。それどころか、伊織はその上に突っ伏していた。
先輩の部屋には、家族写真や親戚との写真が沢山飾られていた。いとこのひとりが少し前に亡くなったそうで、小さな祭壇のようなものもできている。
「ほら、駅前で、なんか変なことがあっただろ」
「変」
「佐伯が、手伝ってくれって」
「ああ。なんかありましたね」
伊織はこたつのなかで脚を伸ばす。先輩の脚を蹴ってしまったが、謝る気力が出なかった。
――しばらくは、大丈夫だと思う。
――でも構造がよくないからね。
――波はひいたら、今度は打ち付けるだろ。
――中心から追いやったら、反対にこちらへ襲いかかる。
「集団ヒステリーですよ」
「俺はなんともなかったけど」
「木下も佐伯も平気だったでしょ。先輩達が平然としてたから、みんな我に返ったんですよ。助かりました」
伊織は呻くみたいに云う。眠たい。佐伯が妙なことを出海と話していた。でも、なんとなく、それを先輩の耳にいれたくない。
足首を掴まれた。くすっと笑う。先輩がめずらしく怒ったらしい。いつもは伊織が適当な受け答えをしても怒らないのに。
「なんですか、先輩」
「うん?」
手が上へと移動する。「くすぐったいです」
「なにが?」
ふと、違和感を覚えた。
伊織はぱっと体を起こし、こたつ布団をめくる。
ちいさな男の子が、伊織の脚を掴んでにこにこしている。
「あんがと」
男の子はサロペットを着ていた。