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見える?
「ことみ、見える?」
佐伯積にそう聴かれ、出海ことみは頭を振る。
おそらく積が云っているのは、普通は見えない筈のもののことだろう。それなら、見えない。
ただ、竹中には見えているらしい、というのはわかった。彼は西を向いて、ぽかんとしているのだ。まるでそこになにかがあるみたいに。
ことみの返答に、積は優しい表情で頷く。だが、彼の落胆は感じられた。
「つみくん」
「うん、いいよ。見えないほうがいい」積は竹中をちらっと見る。「竹中くんがああなったのは、不幸だと思うよ」
それは、自分も不幸だ、という意味だろうか。
ことみはそれを尋ねることができない。
駅前広場は酷いありさまだった。あちこちで悲鳴があがり、なにかをおそれるみたいに頭を抱えてうずくまるひとや、大慌てで走って逃げていくひと、腰をぬかして動けないひとなどがことみから見える。
それから、そういうひと達に驚いている、なにも見えない、聴こえないひと達も。
積が眼帯を外した。




