沢山
宇喜多みどりは、学校の仲間達と一緒に駅前に居た。
家族と遊びに来たところで、たまたまクラスメイトと会い、更に先輩や後輩も集まってきたのだ。
霧上市には、外れにある栗園やゲームセンター、それに隣市の遊園地くらいしか「遊びに行く」ような場所がなかったのだが、駅ビルがあたらしくなってそれがかわった。テナントが沢山はいり、映画館やゲームセンターもできたので、土・日にひとが多く集まるようになったのだ。クラスメイトとばったり顔を合わせることも、めずらしくはない。
みどり自身は、けれど、あまり駅ビルが好きではなかった。買いものに便利だから、来ることは来るのだが、なんとなくいやな感じがする。不安がある。
実際、駅前で交通事故が起こることは多かった。ロータリーの構造に問題があるのではないかと市議会で指摘され、市内にある霧上大の偉い先生のチームが調べたらしいが、原因はいまいちはっきりしない。
さいわい、今日は事故を見ていないが、この間は実況見分を見た。佐伯くんも、ひかれそうになったひとを助けたって聴いたし……それに、さっきは変なものを見ちゃった……。
出海ことみが、ぼんやりしている佐伯積の袖を引く。「つみくん?」
「ああごめん。今日は沢山居るからさ。これはあんまりよくないね」
積はそう云って、不意にみどりを振り返る。「宇喜多さん、大丈夫だよ。あいつは君らとは無関係だから」
みどりはその言葉にぞっとした。