じゃあね
姉小路律は、ネット上でできた友人『さんてぃ』と、よくよなかにやりとりをしていた。
同じようなものが好きで、同じような考えを持っていて、同じくらいの年齢で、成績も同程度らしい。その上、どうやら同じ霧上市に住んでいるらしかった。
『さんてぃ』は映画のレビュー動画を動画サイトに上げている。フォロワーは数万人居るのだが、初期の頃からコメントをつけていた律を友人として扱ってくれていた。
『今日の動画も面白かったよ! わたしもあのシーンは伏線だと思う』
『ありがと』
『毎日投降すごいけど無理しないでね』
『日曜に撮りためてるから大丈夫』
少し間がある。
『変な夢見たよ』
『また?今度はどこへ行ったの』
『チルを見た。ほんとにあえるといいな』
チルというのは律のハンドルだ。律は苦笑いで返信する。『さんてぃ』はたまに、かわった夢の話をしてくれる。『さんてぃ』は夢のなかで宙を飛びまわり、好きなところへ行くそうだ。
『さんてぃが思ってるような美人じゃないよ。がっかりさせちゃう』
『そんなことないと思うな』
『ごめん、もうねる』
『じゃあね』
数日後、昼休みにケータイを確認すると、『さんてぃ』からのメッセージがはいっている。
『夢で見たのと同じだったよ』
『制服も』
『チル』
『じゃあね』
どういう意味だろう?
律は、どうかしたの、と送った。
日曜日、毎日投稿されていた動画がアップされず、月曜日のニュース番組で短く、『さんてぃ』こと北条守という中学生が、体育の授業中に事故で亡くなったと報道された。
最後のメッセージは、意識不明の彼が病院に運ばれた後に送信されたものだった。
それ以降もたまに、彼からのメッセージは届く。




