やきゅうはたのしい
小早川星は塾の帰り、バス停でうとうとしていた。
すぐ隣には丸刈りの男子高校生が五人座っていて、ばか話をして笑い合っている。騒がしいのだが、この時間にこのバス停に居ると聴く音なので、星はもう慣れていた。
ふと気配を感じて目を遣ると、男子高校生達の向こう、バス停の脇に、日に焼けて皺の目立つ顔がある。白髪頭のおじいさんだ。男子高校生達を見てにこにこしていたおじいさんは、星に気付いて更に笑み崩れた。あのひと、はじめて見たな。どうして楽しそうなのかな……。
バスが来て、男子高校生がベンチから立ち上がった。ひとりが、背凭れに体を預けてぼんやりしている星の肩を揺さぶる。
「バス来たぞ。お前もこのバスだろ」
いつも同じバスなので、あちらも覚えてくれていたらしい。星は目をこすりながら立ったが、欠伸がとまらない。男子高校生が笑って、星を抱え上げてくれた。星はそれに甘えて、ぎゅっとしがみついた。やけに眠たい。
「誰か、俺のバッグ持って」
「おう」
バスにのろうとしていたひとりがひきかえして、大きな黒いバッグを持ち上げた。星は男子高校生の肩越しに、バス停を見る。
おじいさんはこちらを見てにこにこしていた。体はバス停の日除けの裏側にあるのに、首がぐにゃりと伸びてベンチの辺りまで移動していた。「やきゅうはたのしいぞお」