かんぬき
竹中草太朗は霧上市内にある、父方の祖父母の家を訪れていた。
親戚での集まりだ。祖母の還暦祝いである。祖母は好物のチョコレートケーキとバウムクーヘンに笑顔になり、祖父もお相伴にあずかって嬉しそうにしている。甘党が多いのである。
甘党とまでは云えない草太朗は、なんとなく疎外感を覚えて、大広間から脱出した。
祖父母宅は古めかしい西洋風のつくりの家で、草太朗はあまりその家が好きではなかった。だから、訪れた時は大広間や客室に居るのがほとんどだ。
しかし、なんとなく庭へ出てみた。
庭の隅に蔵がある。扉にはかんぬきがかかっていて、草太朗はそれをぬいてなかへ這入った。かんぬきは持ったままだ。いたずらでとじこめられたりしたらかなわない、と思った。
蔵のなかはすっきりと片付いていて、つづらがふたつと、仏壇らしいもの、箪笥がひとさおあるだけだった。二階もあるのだが、はしごがないので行けない。天窓から日光がはいるので、意外に明るかった。
かたんと軽い音がして、草太朗ははっと振り返る。
扉がしまっている。
慌てて駈け寄り、開けようとしたが、外からおさえられているのか開かない。「おい、誰だよ! 開けろ!」
いとこやはとこだろうと思ってそう怒鳴ったが、反応はない。草太朗は扉を蹴る。開く気配はない。
背後に気配を感じた。
振り返ると、白っぽいなにかが近付いてきていて、草太朗はそれを持っていたかんぬきで殴った。
草太朗が居ないことにいとこが気付いて、蔵のなかで意識を失っていた草太朗はすぐに発見された。
蔵の扉は、近場の槇の枝を折ってかんぬきがわりにつかい、閉じられていたらしい。
草太朗の傍に転がっていたかんぬきは不自然に濡れていたそうだ。




