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グリセリン
小山田郁はいとこの家に居た。
いとこは買いものに行っている。郁は課題を終わらせて、TVを見ていた。
「ただいま」
「おかえりー」
いとこがにこにこ顔で戻ってきた。「白菜、ひとたま百円だった」
「やった」
今夜は鍋をするのだ。いとこは嬉しそうに、エコバッグから買ってきたものをとりだしていく。
「あれえ?」
素っ頓狂な声に顔を向けると、いとこが情けない顔で立っていた。
「すまん、間違って買ったみたいだ。かえてもらってくる」
「え?」
「ポン酢がないと……」
いとこはそう云って、グリセリンの壜を抱えて出て行った。
郁は首を傾げる。エコバッグから、ポン酢の壜が顔を出しているのだ。
結局、いとこは手ぶらで戻ってきた。どこかで荷物がまざってしまってグリセリンがバッグへはいったようです、申し訳ありません、と云われたらしい。そんなことがありうるんだろうか。
「万引きはまったく疑われなかった」といとこはほっとしていたが、それもなんだかおかしな気もする。もしかしたら、そのスーパーでは似たようなことが何度も起こっているのではないだろうか?