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逸脱
大友あゆみは自分が働いている店の掃除をしていた。
駅のテナントのひとつで、楽器を売っている。あゆみは楽器にくわしくないが、教えられたことを丸暗記するのは得意なので、それでなんとかなっている。
通路に出て、店の前も軽く掃除した。お隣には迷惑をかけないように、ただしお隣の前まで掃除しないように、とも云われている。
云われなくても、あゆみはお隣のテナントには近付きたくなかった。くつを売っているのだが、なんとなく雰囲気が重たくて、店員もあまり質がいいとは云えない。
ふと顔をそちらへ向けたあゆみは、天井に頭がつきそうなまっくろいひとがたのものがお隣へはいっていくのを見たが、業務から逸脱した行動は慎むことにした。
こわくて見なかったことにした、というのもある。
三日後、お隣から火が出た。まるまる燃えてしまったそうだ。