武者鎧
朝倉しずくは社会の授業に同行していた。
市内にある美術館へ、生徒達をつれてきている。美術教師のしずくが同行しているのは、美術館だからだ。
生徒達は、霧上市でかつて盛んにつくられていたという、日本刀や陶器を見ていた。
日本刀に関しては古い時代の話で、遅くとも戦国時代辺りには廃れてしまっていたらしい。その後、山から良質な粘土がとれることがわかり、しばらくは陶器がつくられていたが、それも江戸時代なかごろに途絶えた。最近の話だが、製法は口伝だった為に細かい部分はわかっていないそうだ。
「どうしてつくらなくなったんですか?」
「土がとれなくなったとされています」
学芸員が説明している。このひとが居るんだから、わたしは必要ないんじゃあ……。
男子生徒の佐伯が片手を上げた。
「されているって? 実際は違うんですか?」
「近年、調査がはいったところ、陶器制作につかえる土はまだ沢山あることがわかりました」学芸員は苦笑いになる。「昔のひとの日記に、山にはいりすぎたので悪いことが起こったと書いてあります。昔のひとは、天災や、病気の蔓延を、神さまや鬼の所為だと考えていたんです。お米があまりとれなかった年に、土をとるのを辞めたと推測されているんですよ」
学芸員が居なくなり、生徒達は自由に見たいものを見て、授業の初めに配られた紙にメモしている。しずくはなんとなく、パーティションで区切られたほうへと歩いていった。「うん。へえ。そりゃあいいね」
佐伯の声がする。誰かと喋っているようだ。いつも一緒にいつ出海さんかしら。
「じゃあ、君は別のとこへ? そっちでもよくしてもらえるよ、きっと」
なにか、唸るような声がした。大人の男性の声に似ている。
しずくがパーティションの向こうへ行くと、佐伯は武者鎧の展示ケースの前に立っていた。
ケースのなかの武者鎧が、上げていた腕をすうっとおろした。