階段
出海ことみは放課後、霧上中の三階に居た。教師に頼まれて、書類運びを手伝った後だ。
ことみは階段をゆっくりおりていく。教室にあるかばんをピックアップして、そのまま帰るつもりだ。黒板清掃係の佐伯積が教室で待っているので、急ぎたいのだが、霧上中の階段は妙に急で、ついついあしが遅くなる。
ずっと足許を見ていたことみは、顔を上げて立ち停まった。
三階からおりて、踊り場を通り、二階に着いた筈だ。
しかし、最初と同じ景色が見えている。
ちょっと後ろにさがって廊下の奥を見ると、廊下に出した机に置いた書類をとりあげ、選り分けている教師が目にはいった。
「ことみ、大丈夫?」
「つみくん……」
おりてもおりても終わらない階段に疲れ、ことみは座りこんでいた。
積がことみのかばんも持って、立っている。
「眼帯」
「ああ、さっきとれちゃったんだよね」
積は苦笑いする。日に焼けていない左目付近がぎゅっと動いた。見たことはなかったから知らなかったが、積の左目は目尻辺りの白目がまっかになっている。まだ損傷が治りきっていないのだろう。
どうして眼帯がとれたのか、積は教えてくれなかったが、彼と一緒だと階段はいつも通りに終わった。