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ラップの芯
小山田郁はいとこの家に居た。
「腕、大丈夫なのか」
「だいぶよくなったよ」
郁はにこっとして、左手で匙を持ち、ゼリーをすくって食べる。
いとこの家はそう離れていないし、郁の家族は全員でかけている。右腕を自由にできない郁を見てくれないかと、両親がいとこに頼んだのだ。
苦労してシャワーを浴び、洗面所で寝間着を着ていると、ラップの芯が足許に転がっている。「にいちゃん、これなに?」
「うん? あー、虫退治用。新聞紙よりもうまくいくんだよ。かたいし長さもあるからさ」
「へえー」
いとこは洗面所だけではなく、台所にもラップの芯を立てておいていた。トイレの網棚にものせているという。
「いっぱい出るの?」
「まあまあ。友達に殺虫剤だめなやつが居てさ。アレルギーで。それで焚かなくなった。でも、夏場に二・三回見かけるくらいかな」
翌朝、郁が目を覚ますと、自分といとこのまわりにラップの芯が何十本と立った状態で並べられていた。