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ばらの匂い
佐伯淡は登校時、ばらの匂いを嗅いだ。
その辺りにばらは見えないが、ばらの匂いのせっけんだの柔軟剤だのは幾らでも存在する。みずみずしい生花の香りだと思ったのだが、勘違いか、と停まっていた脚を動かす。
角を曲がると、ひとのような形をしたばらの木の塊がもぞもぞ動いていた。
ばら? どうして? なんの為に動いてるの?
意味がわからずきょとんとしていると、ばらの木は淡に気付いたのかがさっと音をたてて近くの竹垣を跳び越えた。
下校時、その辺りで、盗まれたばらの木が戻ってきたと嬉しそうに話すおじいさんを見かけた。




