ダイアモンドの指環
小早川星は祖母から変な話を聴いた。
「星が幼稚園児の頃、ダイアモンドの指輪をあげた」というのだ。
星が幼稚園児の頃、訪ねてきた祖母がしていた、ごく小さなダイアモンドをあしらった指環をほしがった。
あまりにもほしがり、最後には激しく泣いてひきつけを起こしかねなかったので、渡すと、満足そうに握りしめていた。
あれだけほしがっていたんだから大事にしているんだろう、という文脈だったが、星にはそんな記憶はない。たまたま、祖母が最近勘違いや覚え違いをしていたので、姉の瑞と間違っているのだろうと思い、宿題で忙しかったのもあって適当にあしらった。
ところが、姉や両親もそのエピソードに覚えがあるという。姉に至っては、自分も同じくらいのものがほしいと祖母に詰め寄り、当時ほしかったゲーム機を買ってもらったと云う。
星はそれから指環をさがしたが、見付からなかった。記憶もないし、家族も星が指環をどうしたかを覚えていない。
「あっ!」
それを忘れかけていた頃、天袋を掃除していた母が大声を上げた。「星、あったよ! 指環!」
指環は埃を被り、リング部分は黒ずんでいた。姉がなんとか綺麗にしてくれて、星はそれを手にした。
指環は天袋の奥のほうに、ぽつんと置いてあったという。
そこは、幼稚園児だった星では踏み台をつかっても手が届かない場所だ。その時には姉でも無理だっただろう。今もできないかもしれない。姉は小柄だ。
かといって、両親がそんな場所へ指環を置く理由もないし、もしそんなことをしたならこの間話題になっている筈だ。
見付かりはしたが、なんとなくもやもやして、星は指環を祖母へ返した。