恩返し?
出海ことみは庭掃除をしていた。
草むしりをし、家族が切り落とした庭木の枝を大きな剪定ばさみで細かく解体していく。流石に太いものはのこぎりでないとつらいので、ことみは手を出さない。
汗を拭きながら立ち上がり、気配を感じて目を遣ると、小さな目が藪の下から覗いていた。「わっ」
びくっとしたが、よく見てみると、たぬきだ。この辺りにはたぬきがたまに出現し、畑などがないのもあって地域住民に可愛がられている。
ことみは狸をおどかさないように、ゆっくり近付いていった。
「どうしたの、そんなとこで……あっ」
息をのむ。狸は前肢が妙な方向に曲がっていた。
慌てて抱え上げ、かかりつけの病院へつれていった。狸はぐったりしている。獣医でないとわからないと云われ、紹介された獣医へ行った。
お金はかかったが、獣医さんが優しく、ことみのお小遣いでもどうにかなった。狸はその後、動物愛護団体にひきとってもらった。元気になったら野生へ戻すそうだ。
しばらくして、ことみがまた、庭掃除をしていると、狸が居た藪の辺りに葉蘭の包みを見付けた。家族を呼んで訊いたが、誰も身に覚えがないという。開いてみると、松茸がはいっている。
その日のお午、狸が脱走してしまったと連絡があった。




