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栗拾い




 竹中(たけなか)草太朗(そうたろう)は家族で栗拾いに来ていた。

「あ、竹中先輩」

「小山田。お前のとこも栗拾いか?」

「はい、いとこと……」

 一年の小山田(おやまだ)(かおる)はそう云って、はにかんで笑う。指さすほうを見ると、小山田とは似ても似つかない立派な体格の二十歳前後の男が、いがぐりを踏みつけては中身を拾い上げていた。


 栗園は、霧上でも南部に住んでいる人間なら、子どもの頃に一度は訪れるような場所だ。今日も、幼稚園児くらいの子どもを含んだ家族づれが目立つ。

 草太朗は小山田に、栗の甘露煮がのったソフトクリームをおごり、自分も食べた。ふたりの見える範囲では、草太朗の家族と小山田のいとこが熱心に栗を拾っている。竹中家は、今夜は栗ご飯の予定である。

「ありがとうございます」

「火傷、大丈夫か?」

 小山田は左手に包帯をまいている。随分物々しいので、部の後輩に訊いたところ、不注意で火傷したのだと教えてもらった。

 小山田は苦笑して、頷き、ソフトクリームを食べる。

「あっちのほう、誰も行ってないな。俺らもちょっとは栗拾わないとなあ」

「はい」

 ソフトクリームを食べながら、ふたりは栗園の北西へ向けて歩いていった。

 少し傾斜があり、ふたりはそこをのぼっていく。途中でどちらもソフトクリームを食べ終え、包装紙をポケットへ仕舞いこんだ。「栗、ないですね」

「そうだな」

 いがは落ちているのだが、栗はない。この辺りのものはとりつくされたのだろうか、と草太朗が考えた時、小山田が転んだ。


 びくっとしてそちらを見ると、小山田は立ち上がろうとあがいていた。だが、右脚が動いていない。

 草太朗はジャケットを脱ぎ、小山田の右脚を叩いた。小山田が立ち上がったが、また転ぶ。「なに」

「みるな」

 草太朗は短くそう命じて、もう一度小山田の脚をジャケットで叩く。はなれたのを確認して、水球で鍛えられた腕で小山田を引っ張り上げた。そのまま肩に担ぎ、来た道を走って戻る。

「竹中先輩」

「うしろはみるな」


 走っても走ってももとの場所へ戻れないような気がした。脚になにかが絡みついてくる気がする。

 息が切れて視野が白っぽくなってきた頃、脚の違和感が消え、目の前にはソフトクリームや栗ようかんを売っている売店があった。「郁?」

 小山田のいとこが困惑した表情でやってきたので、草太朗は肩に担いだ小山田をそのひとへおしつけた。なにも云わず、自分の家族の許へ走る。

「草太朗」

「もう帰ろう」

「まだ来たばかりじゃないの」

「アイスくったらおなか痛くなった」

 草太朗は強引に、家族を駐車場へとひっぱっていった。自分が見たものを覚えていたくはなかったから、忘れようとした。自分があの場所へ小山田をつれていってしまったことも忘れたかった。


 ふつか後、学校で会った小山田は右腕を吊っていた。転んで折ったそうだ。思わず死ななかったのかと口走って、草太朗は反省文を書かされた。




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