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お寿司
出海ことみはエコバッグを持って、とぼとぼ歩いていた。
今日は誰も、調理をしたくないとのことで、じゃんけんで負けたことみが買い出しに出たのだ。ことみの家からすぐ近くのスーパーには、十貫いりのおいしいお寿司のパックが売られていて、出海家では週に二回くらい夕飯をそれにしていた。今回はそれだけでなく、スーパーのプライヴェートブランドのハムや、安売りになっていたバナナ、明日の朝食用の子持ちししゃもなども買った。
「ことみちゃん、お買いもの?」
「あ、はい。こんにちは」
近所の奥さんだ。ことみは礼儀正しくお辞儀し、奥さんはエコバッグ片手ににこにこしている。「ことみちゃん、お買いもの?」
「はい」
「ことみちゃん、お買いもの?」
ことみは口を開けたが喋れず、奥さんはにこにこしている。
「ことみちゃん、お買いもの?」
ことみはこわくなって、お辞儀して家へと走った。
家へ帰ってたしかめると、エコバッグのなかのお寿司のパックには、たまごとあなごの二貫しか残っていなかった。