かぞく
小早川星は寝坊してしまった。
今日は塾の試験の日だ。彼が最近通い始めた塾は、土曜日になると朝はやくから試験を行う。
試験で塾内でのランクが決まるのだが、ランクが高くなると授業料が減っていくというシステムが採用されていた。基本料金-実際の授業料がそのまま星のお小遣いになる為、遅刻は絶対にできない。
星は、仕事に出た母が用意してくれていたさめたご飯をかきこむと、慌てて家を飛び出した。
しばらく走ってから、昨夜試験前の詰め込み勉強をしていて、筆箱をかばんから出していたことを思い出した。引き返す。
彼の部屋は二階、玄関の左斜め上にある。折角閉めた玄関の錠を開けて家に這入って階段をのぼって、よりも、今頃起きてきただろう姉に頼んだほうがはやい。
「ねえちゃん、筆箱忘れた! 投げて!」
数秒経って、起きていないのか、と星が玄関へ向かおうとした瞬間、星の部屋の窓ががらりと音をたててあいた。ぽいと筆箱が振ってくる。星は両腕でそれをキャッチした。「ありがと!」
かばんに筆箱をいれ、星は走る。塾は駅前にあるので、走ってバスに間に合えばなんとかなる。
さいわい、星はバスにのることができた。塾へ通う時のいつもの席に腰掛け、ほっと一息ついて、星は、姉の瑞が部活の合宿で昨日の夜から家に居ないことを思いだした。