女王ふたり
佐伯積はうたたねしていた。
「よくないね」
頭上で声がする。
「この子はいろんなものを見過ぎてる」
「聴きすぎてもいるね」
「どんどん見えるようになってるし」
「これ以上聴こえなくてもいいのに」
積は半分目の覚めた状態で、それを聴いている。
「このままだと、とられちゃうね」
「もっていかれちゃうね」
「ねー」
「ねー」
軽く揺すられた。
積は目を開けようとしたが、開けなくても見えることに気付いた。
そこには、女性がふたり居た。ひとりは青いがらすのような質感で、もうひとりは黒い。色が黒い、というレベルではなく、炭のように黒い。年齢は不思議とわからなかった。同じような、古くさいが優雅なドレスを着ている。
「怪我、するからね」
「山へ行っちゃだめだよ」
「友達は大事にね」
「だいじにね」
積が本当に目を開けた時、ふたりとも居なかった。
「それなのに、そんな怪我したの」
「うん」
前日、体育の授業中にはなれたところからとんできた卓球のラケットが目にあたる、という不幸を経験した積は、左目に眼帯をつけていた。そして、見舞に来て彼の目の具合を心配することみに、不思議な女性達の話をした、という訳だ。
ことみは呆れて、溜め息を吐く。積はにやにや笑った。
「しないように気を付けろってことじゃないよ。するのは確定」
「……どういうこと?」
「神さまへの捧げものになってしまうからね」
積は頬杖をつく。「そろそろ、ある程度見えないようにするって、母さんが云ってる」
「そのほうがいいの?」
「当然。普通は見えないものが見えるって云うのは、脳にいい状態じゃないよ。制御できるなら制御したほうが安全」
積の母親は、積がおばけだとかなんだとかを見てしまう能力を制限する為のもの、その材料を集めているらしい。
倉庫になにかあるかもと、虫干しついでにさがしているそうで、庭にはいろんなものが並べられていた。あきらかに古い和綴じの本や、ひな人形、曰くありそうな鎧などなど……どれも綺麗な状態だ。
積の姉も手伝っているようだ。目録を見ながら彼女は云う。
「ことちゃん、気にいったものあるなら持っていきなよ」
「いえ」
「ひいおじいちゃんが趣味で集めてたボードゲームも沢山あるよ。ひいおじいちゃん、物持ちいいひとだったから、まだ遊べると思う」
ことみは整然と並んだもののなかに、青っぽいがらすと黒い石らしいもので出来た、チェスの駒のセットを見付けた。