鳥居
斉藤史人は欠伸をしながら歩いていた。
幡多神社の裏手だ。ここは史人の散歩コースである。教員になってから、運動量が減ってかなりふとってしまったので、彼は毎朝このあたりを歩いていた。
幡多神社の裏手には、石の鳥居が幾つも続く道がある。そこをあがっていくと、古めかしいけれどきちんと手入れされているらしいほこらがある。史人はそこへよく、お菓子やペットボトルのジュースをお供えしていた。散歩の途中で誘惑に負けて買ってしまい、我慢できたらそこにお供えしていくのだ。コンビニや自販機は減量の敵である。
史人はふと、別の方角を向いた鳥居があるのに気付いた。今まで何度も通っているのに、こんなのあったっけ?
材質は見慣れた鳥居とかわらない。灰色っぽい石だ。史人はそれをくぐり、初めて気付いた道へと這入っていった。
ゆるくカーヴする道を通ると、やはり古めかしいがきちんと手入れされたほこらがあった。朱塗りの杯と、白い徳利がある。ふみひとは手を合わせ、ジャージのポケットからとりだしたお菓子を供えた。
それから何度も、散歩でその道を通るが、方向の違う鳥居は消えてしまっていた。あの、ゆるくカーヴした道もだ。
あとから思い出すと、あの奇妙な鳥居は寄進した人物の名前が「斉藤史人」だったような気がする、と、史人は散歩をしているとたまに首をひねる。




