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風牌
小早川星はケータイをいじっている。
小学五年生の彼には瑞という姉が居て、彼女は卓球に夢中だ。今日も、休みなのに部活がどうのと云って、朝ご飯を詰め込むように食べたあと出て行ってしまった。
姉に比べて、星はスポーツが好きでない。
ただ、散歩は好きだ。ついでに、見晴らしのいい坂の上へ行き、手摺から宙へ脚を投げ出すようにして座って、ケータイでゲームをするのも。
星は見晴らしのいい、公園とも広場ともつかないところに居た。背の低い手摺の側に座り、柵のすきまから脚を外へ出して、ぶらぶらさせている。
星が今はまっているのは、麻雀ゲームだった。教えてくれたのはお父さんだ。毎週日曜には一緒にやるのに、今日はお父さんはお仕事がはいってしまった。
星のアバターは可愛い女の子のキャラクターだ。対子の北を切ってタンヤオにするか、でも今は北家だから、とっておいたら得かも。
「風牌切らないの?」
「うん」
反射的に返事をしてから、星ははっと顔を上げた。
周囲を見る。
誰も居ない。
星は走って家まで帰った。