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やさいのせいずい
姉小路律は、早朝、土手の上を学校へと歩いていた。
そろそろ文化祭があり、その準備ではやくに登校したかったのだ。別に、決まりがあるわけでも示し合わせた訳でもなく、自分のうけもった仕事を先にすませたかったのである。
律は欠伸を嚙み殺し、まるめた方眼紙や油性マーカーのセットがはいったトートバッグをちらっと見る。ちゃんと全部持ってきた……。
なにかが目の端にうつって、律は顔を右手へ向けた。
オレンジのかぼちゃをくりぬいた灯籠が飾ってある。まだはやい時期なのに、と思っていると、それが動いた。
すっと舞いあがり、ふわふわと左右へ揺れながらこちらへやってくる。
律は立ち停まり、それを見ていた。
かぼちゃはふわふわゆらゆらと、宙を移動し続ける。唖然とする律の前を横切って、まだしばらくすすんだかと思うと、ころんと土手へ転がった。
そのまま、かぼちゃは転がって、土手の遥か下にある川へ落ちた。