1週間の恋
1章 始まり
今の季節は蝉の鳴く、とても暑い夏本番。俺は今、国語の授業を受けている。正直に言おう。凄くダルかった。ただでさえつまらない授業に加わって、考えることも嫌になる程の暑さ。そして金曜日の6時間目というまさに地獄そのものだった。国語なんて将来、漢字以外なんの役に立つのかと国語の授業の度に思っている。社会だってそうだ。生活するのに必要な最低限の知識を学ぶだけで良いと思う。音楽?美術?そんなものは専門大学で教われば良い。最も、俺みたいな、人生つまらないと思ってる人には関係ない事だ。
俺には3年前に交通事故で死んだ幼なじみがいる。名前は谷川真白だ。俺の初恋相手でもある。彼女は俺に、生きる希望を持たせてくれた。そんな幼なじみがこの世から消えてしまった以上、俺は『生きる』ということが嫌になった。何度も彼女の事を忘れたいと思っていた。忘れないとまともに生活できない気がしたからだ。しかし、簡単に忘れる事など出来る訳がない。いつも頭の片隅に『真白』という存在があった。
『生きる』ということが嫌になり、いい加減に生きている俺にも友達はいた。
「た〜くや(拓哉)!いつまでぼーっとしてるんだよw」
そう言って俺の唯一の友達。透が後ろから背中を叩いてきた。どうやら俺がぼーっとしている間に授業は終わっていたらしい。
「いきなり大声で叫ぶなよ、、背中も地味に痛いし」
「わりーわりー。そんなことよりお前、今日暇?」
思ってないような口振りで謝ってきた。慣れてるからムカつかないが、友達になってすぐの時はかなりムカついた。慣れというのは怖いものだと思った。
「暇だけど、、、なんで?」
「新しく出来たスポーツジムに行こうと思って」
よくもまあ、こんなに暑くて動くのもダルい気温だというのにジムに行こうと思えるな、、。と思いながら温度計を見た。34度だった。
「お前、今の気温知ってる?」
「知らないなぁ。温度計見てみるわ」
教室の前にある温度計を見た透が叫んでいた。
「34!?暑すぎだろ!」
こんなにも暑いのに叫べる体力があることに驚いた。いや、透の体力は普通で、俺の体力の方が異常なのか…とも思った。
「んで?どーするの??」
「行かない」
行く訳がない。運動は苦手だ。疲れるし、筋肉痛になる。何よりめんどくさい。
「いつも通り、俺は家に帰って寝るよ。明日は休みだからCDを一気に聞く事にするよ。」
「そうか、、。楽しめよ!」
そう言うと、透は走って帰ってしまった。
気づけば、教室には俺以外誰もいなかった。特に急ぎの用事もなかった為、ゆっくりと階段を降り、自宅へと帰った。
部屋に入ると熱気が一瞬にして身体を包み込んだ。
「あっつ、、、」
独り言をボヤきながらエアコンを付ける。時刻は17:00を過ぎたくらいだった。俺は寝る準備をした。他の人から見たら寝るの早すぎって思うかもしれないが、そんなのは人それぞれだ。テレビを付ける。M-1グランプリで優勝したコンビが漫才をしていたが、これの何が面白いのか分からなかった。テレビを消し、風呂に入る。
俺は、風呂に入っている時は自分に着いている殻を破るような感覚に陥る。風呂は命の洗濯。この言葉を知ってから陥るようになった。慣れた手つきで頭、身体を洗い、浴室を出た。
冷房が効いている部屋は最高だった。エアコンのタイマーをONにして眠りについた。
次の日、朝から自室で音楽を聞いているとインターホンがなった。昨日に引き続き、動くのもダルいくらいの暑さだったが居留守を使う訳にもいかず、ドアを開けた。
ドアを開けた瞬間、時間が止まったかのように感じた。
そこに居たのは、白のワンピースを着た、肌の透き通っている女性だった。髪は比較的長く、足も細い。そして、その容姿はすぐには忘れることの出来ない幼なじみ。谷川真白そのものだった。
2章 隠された事実
俺は今、人生最大の謎に頭を悩ませている。なぜ死んだはずの幼なじみが今、目の前に居るのだろう。本当は死んでなかったとか、、?これは、夢の中、つまり幻なのか、、?俺の頭の中には色々な考えが浮かんでいた。その考えの中で、1番現実味のある事を彼女に言った。
「おまえ、、死んでなかったんだな」
安心して涙が出る……が、その安心感は一気に吹き飛んだ。
「私は死んでるよ」
「は?」
状況が飲み込めなかった。死んでいる?でも目の前にいるじゃないか。これは本当に幻なのか、、?それとも、こいつも暑さで頭がおかしくなったんだなっなどと思っていた。
「君は多分、今こう思ってるんじゃないかな?死んだはずの私がなぜ、目の前にいるのかって」
「・・・・」
「その反応、当たってるな?w」
「当たってるよ。じゃあ質問する。どうして死んだはずのお前が今、俺の前にいる?」
俺は気になった。逆に気にならない人は居ないと思う。
すると彼女は簡潔に言った。
「君の事が好きだから、、かな」
一気に顔が熱くなるのを自分で感じた。
「それ、本当?」
「本当だよ。生前、私は君に思いを伝えることが出来なかった。だから、心残りになったんだよ。1週間だけは自由に行動できるけど、1週間過ぎたら私は消える」
『消える』という言葉を聞いて悲しくなった。1週間でいなくなってしまうのならっと思い、俺も好きだ。と伝えた。
「私ら両思いだね!」
「そうだね」
この瞬間。俺と真白の1週間同棲生活をすることになった。彼女と話せるのは残り6日と半分。お別れは7日目の夜だと言った。この1週間は大学には行かず、大事に使おう。そう思った。
3章 時間の早い1週間
同棲生活1日目。昨日は再会を果たした日だが、7日は昨日から始まっていたため、残り6日となった。真白と両思いとわかった今、俺たちはイチャイチャ、、、は出来ないが、楽しく喋っている。普段は何気ない雑談も、今では一語一句が重みのある言葉へと変わっている。
「それにしても暑いねぇ」
「まぁ、夏だから」
俺は、今日で溜まっていたCDを全て聞こうっと思った。案外、時間が流れるのが早く、気づけば1日目終わりそうだった。俺は後悔した。CDなんて何時でも聞けるというのに、彼女よりもCDを優先してしまったことを。
同棲生活2日目。
真白は霊体となった今、触ることは出来ない。
俺は気になったことを質問した。
「お前、俺に告る以外の心残りないの?」
「無いよ。でも、欲しいものならある」
「なに?」
「たくさんの思い出が欲しい。寂しくなった時に思い出せるように」
「例えば?」
「海に行ったりだとか、花火見たりだとか」
「あー」
季節は夏本番。祭りは明日ある。海だって近くにある。
「明日祭りあるから行こう?明後日は海に」
「うん!」
真白は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねた。
次の日の夜、祭りは予定通り開催され、たくさんの人で賑わっていた。寺で開催されている祭りには境内を眩しい位に明るく照らす程の屋台が並んでた。
「そういえば、お前は俺以外の人には見えてるの?」
「見えてないよ」
「ということは、俺が彼女と喋っていると、周りからは変人に思われるのか」
「そうゆうことになるね」
「ほーん」
正直、周りの人にどう思われるかなんてどうでもよかった。周りの目よりも彼女との時間、会話の方が大切だと思っているからだ。
俺が境内を歩いていると、彼女は立ち止まった。
「どーしたの?」
彼女が見ている先には、生前、彼女の大好物だったチョコバナナの屋台があった。
「食べたいの?」
「うん」
幽霊なんだから味なんて感じないだろうに、、っと思いつつ買ってきてあげた。空いているところを探していると、花火のアナウンスが流れた。それを聞いた俺らは見晴らしの良い高台に来た。
「チョコバナナ、勿体ないから食べちゃうよ?」
「いいよ」
一口食べてびっくりした。
「味が、、、ない」
「そりゃそうでしょ」
「?」
「私が食べちゃったもん」
「???」
頭の中ははてなマークでいっぱいだった。
「幽霊はね、食べ物を直接食べることは出来ない。でも、味は感じることが出来るの。だから味が抜けたんだよ。」
「なるほどね」
俺は納得したようなしてないような表情を浮かべた。
あれこれやってるうちに空が明るくなった。どうやら花火が上がったようだ。遅れて火薬の爆発音が聞こえてくる。
「きれいだぁ」
「久しぶりに花火なんて見たよ」
「えぇーーー!!」
「そんな驚くことじゃなくない?」
「確かにそうだけど、、」
俺たちは集中して花火を見た。フィナーレを飾るスターマインが終わったあとそそくさと家に帰り、寝る準備をした。
「海楽しみだなぁ」
「それは良かった」
残りの4日間は思い出作り兼デートをすることにした。
明日は海に行く予定。どんどん真白と居られる時間が少なくなっていくのに少し悲しい気持ちになった。
次の日は雨で海は行けなかった。真白の安全な成仏を願って千羽鶴を折った。その次の日も、雨だった。天気って意地悪だ。
結局、残りの3日しか残されなかった。
彼女は風邪をひいた。幽霊も風邪ひくんだなぁっと思った。
「海行くぅ!!」
「ちゃんと治してからな」
足元もおぼつかない状態で連れて行けるわけが無い。
「明日、治ったら連れてってくれる?」
「当たり前じゃん」
「わかった!」
彼女の顔が瞬く間に明るくなった。そして、迷うことなくベットに横たわった。どうやら早く寝て治そうとしているらしかった。
次の日、彼女は体調を崩した後とは思えない程、元気だった。
その日は快晴だったため、迷わず海に行った。連日の雨で泳ぐことは出来なかったが、海を眺めてるだけで心が落ち着いた。心地よい風と波の音。砂浜にビーチ傘をさしているので、魔の日差しからは身を守ることが出来た。そのせいで俺は深い眠りについてしまった。
目が覚めたのは夕方だった。真白は起こさずに俺を寝かせてくれた。こうゆう時くらい起こせっと言いたくなったが、彼女なりに気を使ってくれたのだろうと思い、喉まで来た言葉を飲み込んだ。お別れは明日の夜。今日は遅くまで雑談していた。
「もうすぐだね、、」
「1週間、はえーなぁ」
元はと言えば、自分が寝てばかりだったのだが、、。
最終日。昨日は明け方まで話していたせいもあり、起きたのはお昼過ぎだった。
「おはよう」
「起きるの遅いって」
おまえは眠くないのかよ。そう思った。
昨日は最終日ということもあり、近所に星空が綺麗な湖があるのでそこに行った。
「星空、、綺麗だね」
「ほんとに綺麗だ、、」
「あっという間だったね」
「そうだな、、」
「ちゃんと生きてた?」
「どーゆうこと?」
「天界から少し見てたけど、人生どうでもいいって感じしてた」
「どうでも良かったよ」
嘘をつく理由がなかったので正直に言った。
「お願いごと。いい?」
「なに?」
「私の分もしっかりと生きて」
彼女の手が俺の手に触れた。おかしい。幽霊なのに触れることが出来ている。
「おまえ、、手、、」
「幽霊でもね、力を入れれば触ることができるんだよ。だからインターフォンを押せた。そして、この前熱を出した。熱を出した理由は、長時間何かに触れるために力を込めていたから。家に帰ればわかるよ」
抱きしめた。何故かわからないけど身体が無意識に動いた。
すると、真白の身体が光始めた。
「お別れの時が来たみたい」
真白は泣きながら言った。
「この1週間、凄く楽しかった。ありがとうね!」
「俺の方こそ楽しかったよ。やばい、、泣く」
「泣け泣けーw」
「お前のこと忘れないから」
「忘れないでね」
うん。っと言おうとしたが遅かった。彼女は消えた。この現実を突きつけられる瞬間が1番嫌いだ。俺はそこにしゃがみ、嗚咽をしながら泣いた。まるで、産まれたての赤ちゃんのように、、、。
4章 真白からの手紙
家に帰ると、テーブルの上に手紙が置いてあった。これは、生前の彼女の字そっくりだった。恐る恐る開けて読むと彼女の手紙だった。やっぱり泣いた。こんなのを泣かないで読むなんて無理だ。そう思った。
「これを読んでるってことは私はもう、この世には居ないね。寂しい、、。今まで思い出作りありがとう。天気のせいで外には全然出れなかったし、熱を出したから外に出る時間は少なかったけど、いい思い出ができたと思う。君は気づいてたかな、、?なぜ私が君のことを名前で呼ばなかったのか。それはね、君が私のことを名前で呼んでくれなかったからだよ。だから私も意地になって呼んでなかったの、、。熱を出した時、心配してくれて嬉しかった。好きって言ってくれて嬉しかった。たくさんの思い出作ってくれて嬉しかった。ありがとう!!私の分まで長生きすることを願ってる。
真白」
彼女と別れた日。俺は、『彼女……真白の分まで強く生きよう』
そう、固く決心した。湖でのお願いごとを叶えるために。
[完]