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蓮之助と華  作者: 安田けいじ
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気功魔剣③


(何という凄まじさなの!)


 肉を切らせて骨を切るなどという戦法は、この魔剣には通用しない。予想以上の気功魔剣の威力に、華は驚いていた。

 最初の気功魔剣は、彼女の予想通りの間で放たれた為、気功盾で防ぐことが出来た。だが、次は、同じ間で攻撃して来るとは限らない。

 気功盾の効力は一呼吸するほどしか持たず、闇雲に使ったところで体力を消耗するだけである。今の華には、目に見えない気功魔剣を防ぐ手立ては何も無かった。


 華は、高速で動くことで幻鬼を撹乱させながら、頭をフル回転させ対応策を必死で考えていた。

 すると、目を負傷した時、心眼を開いて相手の動きを見極めた事を思い出したのだ。心眼を開くというのは、気功剣を操る状態とほぼ同じである。


(気功剣の光跡ではなく、相手の“気”を探れば、何か見えるかもしれない)


 華は、目を閉じて心眼を開き、幻鬼を見つめた。すると、彼の身体に脈動する“気”の核が鮮明に見えてきたのである。

 幻鬼の“気”の核が微かに揺れた。その瞬間、華が咄嗟に飛び退くと、元居た辺りに気功魔剣が炸裂し、地面に大きな穴が開いた。


(そうか! 気が揺らぐ時は心が動く時、それが、気功魔剣を放つ前兆なのね)


 華は、気功剣の光跡ばかりを追いすぎて、肝心の相手の“気”の核を見ていなかった事に気が付いたのだ。彼女は、幻鬼の“気”の核に集中した。


 次の瞬間、幻鬼の“気”の核が、ゆらりと揺らいだ。

 華は気功盾で身を護ると同時に、右手の太刀で渾身の気功神剣を放った。直後に、気功盾に魔剣が炸裂したが、放たれた神剣は、続けて気功魔剣を打とうとしていた幻鬼の右肩を、バッサリと斬った。


 幻鬼は、自分の身に何が起こったのかという顔をして倒れていた。それを一瞥した華は、顔色一つ変えずに剣を鞘に納めた。


「もはや、この国に華様の敵はおりませんな。いや、感服しました」


 仁助は跪いて頭を垂れ、華の活躍を称えた。



 一行は、荒らされた代官所の片付けを手伝った後、盗賊の残党狩りの為、数日滞在した。

その間に、華と福丸は近くの農家に預けられている静を見舞った。


 彼女は、布団の中から華に挨拶した。


「華様、申し訳ありません。不覚を取ってしまいました」


「仇は取ってあげましたよ。幻鬼の肩を切り裂いてやったから、もう戦えないでしょう。福丸を置いて行きますから、身体をしっかり治して帰って来て下さい」


 華は、世話になる農家の人に丁重に礼を言い、十両ほどの銭を置いて帰っていった。


「あなた、あの人の強さは何なんでしょうね」


「そうさなあ。剣の天才であることは間違いないが、敢えて言えば、夫や家族、そして、民を守ろうとする強き心こそが、奥様の強さの秘密かも知れんな」


 福丸と静は、障子が開け放たれた部屋の中から、段々小さくなってゆく華の後姿をいつまでも見送っていた。



 二か月後、藩主頼宣による藩内の視察は無事行われた。彼は、農家の人々とも気さくに話をするなどして、有意義な視察となった。



 それから、三年の月日が流れた。家法は十四歳、妙は十一歳となっていた。二人の剣の修行も激しさを増していて、身体が大きくなった家法は、蓮之助から柳生流の奥義、無刀取を教わる段階に入っていた。又、気功剣の訓練も始まり、既に一本の気功剣を操り始めていた。


 華が修行を見ていた妹の妙は、剣術よりも気功剣に興味を持ち始め、最近では気功剣の修行ばかりに熱中していた。華が初めて岩を割ったように、彼女もまた日がな一日、岩に向かって木剣を振り下ろした。


 華は、年齢的にもまだ早いと思っていたのだが、妙は両の手を血に染めても、岩を叩く事を止めなかった。こうして、二人の子供は逞しく成長していたのである。


 家来の仁助は、高齢を理由に引退して、故郷の九度山に帰った。静の傷も完治して、福丸と夫婦仲睦まじくやっている。


 平和な日々が続いていたが、徳川幕府を震撼させる新たな事件が起ころうとしているのを、蓮之助達は未だ知らなかった。


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