大坂夏の陣
「ここからは一兵たりとも通さぬ!」
凄まじい気迫の蓮之助は、鬨の声を上げて押し寄せる、真田軍の槍隊に向かって、渾身の気功自在剣を振るった。すると、槍を揃えて進軍していた数百の兵の先頭が、壁が崩れ落ちるように倒れ込んだ。蓮之助の奥義、“一瞬百人斬り”である。
尚も、気功自在剣を浴びせ続ける蓮之助。真田軍は、徳川の一人の男の不思議な技で、大勢の味方の兵士が、一瞬の内に倒されるのを見て恐れ、進軍の足を止めた。
「それ、押し返せ!!」
蓮之助の、目を見張る戦いに活気づいた徳川軍は、鬨の声を上げて彼の後に続いた。
一方、華は、家康の駕籠を護って、秀忠軍の陣のある方へ疾走していた。
その時、突然林の中から二十数騎の騎馬隊が現れたのである。真っ赤な鎧に身を包んで先頭を走って来るのは、敵の大将、真田幸村だった。
「真田幸村見参! 家康覚悟!」
幸村軍は、刀を抜いて家康の駕籠に迫ろうとしたが、華の気功神剣の一振りで、馬の足を斬られ一瞬で崩れ落ちた。つんのめって放り出された幸村を、一人の忍びが受け止めた。猿飛佐助である。
「我が名は猿飛佐助、名乗れ!」
それは、甲高い女の声であった。
「我は柳生蓮之助の妻、柳生華。今日こそ決着を着ける!」
華と佐助が、睨み合う。
佐助の分身の術から放つ、二十五本の気功剣と、華の気功神剣が激突した。華は、佐助の気功剣の無数の光跡を捉え、二刀流の気功神剣で確実に叩き落す。
一方、佐助の方も、華の気功神剣の威力に戸惑いながらも、変則攻撃を仕掛けて、隙を作ろうとしていた。一瞬の隙が命取りになる、緊迫した戦いが続いた。
華と佐助との戦いが続く中、機会を窺っていた真田幸村と数人の家来が、突然動いた。
彼らは、家康警護の兵たちに斬り込み、家康の駕籠目掛けて突進した。
「家康、覚悟!!」
「?」
それに気付いた華が、咄嗟に、幸村目掛けて気功神剣を放った。神剣は、幸村の利き腕を斬って動きを止めたが、佐助は、その一瞬の隙を見逃さなかった。佐助の気功剣が、華の頭に炸裂すると、鉄兜が真っ二つに割れ飛び散った。
一瞬ふらつき、ガックリと膝をついた華に、息もつかせず、佐助の止めの気功剣が襲った。
その刹那、顔を上げた華は、無敵の修羅の顔になっていた。華は、二刀の気功神剣を駆使して、佐助の気功剣を悉く打ち砕くと、分身化した五人の佐助の足の位置を見切り、渾身の気功神剣で払った。
すると、四人の佐助は姿を消し、本体の佐助が膝をついた。
華は、足を斬られて動けなくなった佐助目掛けて、疾風の如く駆け寄ると、苦し紛れに気功剣を放とうとする彼女の頭に、小太刀を打ち込んだ。
「ウウッ!」
佐助は呻き声を上げ、頭から血を流して後方に倒れ込んだ。
(ふう、危なかった。佐助の気功剣が、鉄兜を割るだけの威力があったとは……)
華が一息吐いて振り返ると、名将真田幸村が、家康警護の者に、あえなく首を落とされた後だった。
華は、額から血を流しながらも、家康を秀忠の陣まで送り届けると、その足で再び戦場に戻り、蓮之助と合流した。
二人は、背を合わせた状態で独楽のように回転し、その速度を上げながら、全方位に気功剣を放った。これは、彼らの最強の技、“蓮華剣”である。
押し寄せる数千の真田軍に、独楽状態の二人が突っ込むと、真田軍の兵士たちは、彼らに触れる間もなく、薙ぎ倒され弾かれていった。その凄まじさに圧倒された真田軍は、総崩れとなって敗走していった。
蓮之助たちは多くの敵を斬ったが、急所は外していた。彼らは、「人を殺さない」という日光との約束を、出来る限り守ろうとしていたのだ。
「華、額から血が出ておるぞ。大事ないのか」
「大丈夫です。佐助との戦いで頭をやられたのですが、家康様から頂いた鉄兜のお陰で、命拾いしました」
心配顔の蓮之助が、華の髪の毛を掻き分け傷を見ると、幸い、大した傷ではなかった。
「それで、佐助は?」
「峰打ちで頭を割りましたから、暫く動けないでしょう。……助けてやりたいのですが駄目でしょうか」
敵である猿飛佐助を、このまま徳川に引き渡せば死罪は免れない。華は、女の身で戦う佐助に、自分と同じ匂いを感じていた。
「よかろう」
蓮之助と華が、幸村を打ち取った所に戻ってみると、意識が戻った佐助が、足が立たずに藻掻いていた。彼女は、夜叉の様な鋭い目を蓮之助たちに向けた。
「幸村は死んだ。戦いは終わったのだ!」
蓮之助は、嫌がる佐助を強引に担いで、秀忠の本陣へと向かった。彼らは、本陣で佐助の怪我の治療をしてから、家康に拝謁した。
丁度そこへ、大三郎と福丸が千姫を救出して帰って来た。彼らは蓮之助の命で千姫救出に奔走していたのだ。
「千、よくぞ無事で戻った。父は嬉しいぞ。爺様もお待ちかねじゃ、ご挨拶申し上げろ」
秀忠が、厳しい顔の千姫を抱きしめて、家康の前に連れて行った。
「お爺様、私は豊臣秀頼の妻。とうに死ぬ覚悟は出来ていましたのに、何故、死なせてくれなかったのです!」
十年余りも秀頼と連れ添った、千姫の胸の内は複雑だった。
「……千よ、お前には辛い思いをさせてしもうた。この爺を許してくれ……」
「……」
家康は、涙を流しながら千姫を抱きしめた。
千姫を見送った家康は、蓮之助達に涙の乾かぬ顔を向けた。
「蓮之助、華、今回もようやってくれた。お前達の働きに報いたいのじゃが、何か欲しいものは無いか?」
蓮之助が何か言おうとした時、華が口を開いた。
「恐れながら申し上げます。夫の今のお役目は旅が多く、家族は寂しい思いをしております。出来ますれば、家族が一緒に暮らせるお役目にしていただければと存じます」
華が無遠慮に言うので、蓮之助が慌てて彼女の袖を引くのを、家康は目を細めて見ていた。
「よいよい、蓮之助、お前は欲がないのう。少し先になるが、倅の頼宣に紀州五十五万石を任せたいと思っておる。剣術指南として盛り立ててやってほしいのじゃが、やってくれるか? これは儂の最後の頼みじゃ」
「ははっ! お引き受けいたします」
蓮之助が承諾すると、家康は、大きな荷物を降ろしたような顔になって、彼らに微笑みかけた。
「皆の者、徳川の勝利じゃ、勝鬨を上げよ!」
家康が立ちあがって、拳を天に突き上げると、徳川軍のあちこちから、歓喜の勝鬨が上がった。
「エイエイオー! エイエイオー! エイエイオー!」
この日、豊臣秀頼と母の淀君は自害。大坂城は炎上し、豊臣の時代は終わった。




