風魔の里へ
「柳生様、徳島での戦いで、あなた方は我らに止めを刺さなかった。お陰で多くの命が救われました。今度は、我らがあなた方を護ります。……しかし、その身体で風魔と戦おうというのは、無茶というものです」
伊賀忍者の小頭が、膝をつき頭を下げながら、無謀を訴えた。
「かたじけない。だが、こんな姿だが儂たちは十分戦える。我らが攻め入る故、それに乗じて秀忠様を探してもらいたいのだ。頼めるか?」
将軍秀忠を、何としても救って見せるとの、蓮之助の気迫が伊賀の衆に響いた。
「……承知!」
蓮之助たち四人は、決死の覚悟で一気に山を駆け下り、麓に着いた。
そこには、五十人程の弓隊と五門の大筒隊が、里を背に防御の体形を取っていた。夜中ではあるが、満月のお陰で人の動きはよく見える。
「福丸、煙幕を!」
蓮之助の合図に、福丸は、用意していた煙幕弾を次々と敵陣目掛けて打ち込んだ。
それを察知した敵陣から一斉に矢が放たれ、五門の大筒が火を噴いた。だが、煙幕効果で、蓮之助たちの居場所が分からぬ彼らの攻撃は、見当はずれの所を狙うばかりだった。
白い煙幕が辺りを包む中、蓮之助達は音も立てずに敵陣の背後に回り、一気に斬り込んでいった。
煙幕で視界が遮られてはいたが、心眼を開いた華と蓮之助には、敵の動きが手に取るように分かった。華が、気功剣を駆使して、弓隊の腕や足を斬りまくると、大三郎に背負われた蓮之助も、負けじと、大筒隊の砲手や警護の風魔忍者を蹴散らしていった。
暫くして煙幕が晴れてみると、弓隊は総崩れで、大筒の周りにも、立っている砲手は一人もいなかった。この煙幕作戦は、心眼を開く事が出来る蓮之助と華が居なければ、成功しなかったに違いない。
蓮之助達が残った敵を蹴散らす中、伊賀の軍団は風魔の里へと進攻していった。
そこへ、息せき切って姿を現したのは、軽めの鎧に身を包んだ徳島藩の精鋭百名だった。彼らは、蓮之助たちが心配で先発隊に志願し、壁を越えて来たのだ。
「おお、徳島藩の方々か、よくぞ来てくれた。この先はいよいよ風魔の本陣だ。秀忠様奪還の為、共に力を合わそうぞ!」
「「承知仕った!!」」
負傷しても尚、戦おうとする蓮之助たちの気迫に、徳島藩の精鋭たちの闘志は、いやが上にも燃え上がった。
徳島藩の精鋭に護られて、蓮之助達が風魔の館まで来ると、伊賀軍団と風魔軍団が激戦を繰り広げている最中だった。
そして、館の二階からは、首領の風魔神太郎が紫の装束に身を包み、鋭い目を蓮之助に向けていた。
蓮之助たちと徳島藩の精鋭が加勢に入ると、風魔軍団は逃げ散ってしまったが、頭領である神太郎は、不敵な笑いを浮かべて動こうとはしなかった。
「お前が柳生蓮之助か? もはや、お前の命などどうでもいいのだが、せっかくここまで来てくれたのだ、最大の礼を持って歓迎させて頂こう。出でよ! 我が風魔の最強軍団、鉄化巨兵!!」
ズン! ズズン! ズン! ズズン! ズズン! ズズン! ズズン!
神太郎の叫びに呼応して地響きと共に現れたのは、全身に鋼鉄の鎧を纏った、五十体もの巨人軍団だった。
月夜に照らされた鋼鉄の鎧が不気味に光る。七尺【二百十センチ】はあろうかというその大きさと異様さに、徳川勢はズズッと後退りした。
「な、何なんだこいつらは? ……怯むな! かかれ!!」
徳川勢が鬨の声を上げて巨人たちに挑んだが、彼らの刀や手裏剣は、巨人の硬い装甲に悉く跳ね返され用をなさなかった。更に、蓮之助の気功剣までも、彼らに傷一つ付けることは出来なかったのである。
「くそっ! あの鋼鉄の鎧は、気功剣では斬れないのか!?」
蓮之助は、大三郎の背中で歯噛みした。
遠くのものを斬る気功剣は、威力に欠けるのだ。華の、石をも割く気功王剣でも、近距離に限られるため、接近戦に持ち込む必要があった。
巨兵軍団は、右手に青龍刀を左手には機関銃を持っていた。その機関銃が一斉に火を吹くと、徳川勢はなす術もなく、弾丸の餌食となってバタバタと倒れていった。
「はっはっはっ、どうじゃ鉄化巨兵の威力は? 巨兵達よ、徳川の雑魚どもを踏み潰せ!!」
勝ち誇ったような神太郎の合図で、巨兵軍団は、五十丁の凄まじい機関銃音と銃弾の赤い光跡を発しながら、一斉に進撃を始めた。
「全員一旦引け!! 無駄に命を落とすな!」
蓮之助の叫びに、徳川勢は必死に後退して物陰に飛び込んだ。振り返ると、目の前には多くの仲間の骸が転がっていた。




