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蓮之助と華  作者: 安田けいじ
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激突、伊賀忍軍②


「蓮之助様! これでは防ぎきれませぬ!」


「華、弱気になるな! 最後の一人迄倒さぬ限り、我らに明日は無いのだぞ!」


 だが、そう言う蓮之助も足は立たず、体力の限界を感じていた。


(最早、これまでか!……)


 蓮之助は、何を思ったのか、傍にいた華の身体を抱き寄せた。


「蓮之助様?」


 驚く華の唇に蓮之助の唇が重なった。そして、彼の大きな手が、彼女の着物の上から乳房をぎゅっと掴むと、彼女はピクンと身体を震わせ、喘ぎそうになるのを必死で堪え、蓮之助にしがみ付いた。


「??」


 遠巻きにしていた忍者軍団が、抱き合う二人を訝し気に見ていた。


「華、お前は、柳生蓮之助の妻だ。運なくあの世に行ったなら閻魔大王に大声で言うのじゃ、よいな!」


 蓮之助は、自分の為に若い命を終わらせねばならぬ華が不憫でならなかった。ならばせめて、妻として死なせてやろうと考えたのである。


「嬉しい、嬉しゅうございます! ……でも、華は死にません。そして、貴方も死なせませぬ!」


 頬を赤く染めて、嬉し涙を浮かべていた華の顔が、見る見る鬼の形相へと変化していく。


 華は立ち上がると、両の袖と膝から下の裾を切り取り、その布を破いて鉢巻とし、長い黒髪を小刀でバッサリと切った。


 彼女の頭脳は、生き残るための、戦闘態勢を弾きだしていた。



「伊賀の衆! 夫、蓮之助に変わり、妻の華がお相手いたす。命の要らぬものは我に挑まれよ!」


 華が声高に叫んで両の剣を構えると、伊賀の忍者軍団が、一斉に彼女に押し寄せた。


 華の身体が、毬のように跳ね、二刀流の剣が月光に煌めくと、彼女に挑んで来る忍び達は、高速で回転する駒に弾かれるように次々と倒れて行った。


 華は、雲と起こって来る忍者軍団を手も折れよと斬りまくり、疾走した。いつしか、彼女の顔も身体も返り血で真っ赤に染まっていた。触れるもの全てを打ち砕く華の修羅の舞に、忍び達は恐怖を感じて後退りし始めた。


「何だ、あやつは!? もはや人ではない化け物だ……」


「ええーい、怯むな! 御庭番としての意地を見せろ! 女一人に何をしておる、さっさと打ち取らぬか!」


 忍びの、頭目がいらだって叫んだ刹那、蓮之助の投げた太刀が頭目の胸に突き刺さった。


 蓮之助は、今までに見た事も無い、修羅となった華の動きに刺激され、闘争心が蘇っていた。

 彼は、立てなかったが、敵は向こうからやって来てくれた。蓮之助は、相手の刀を奪い、腕も折れよと剣を揮った。


 修羅の如き二人の壮絶な戦いに、忍び達は恐れ戦き総崩れとなった。


 その時、「ワーッ」という鬨の声が上がって、十人ほどの侍が乱入してきた。


「我らは、通りがかりの者、義によって柳生殿に助太刀いたす!」


 伊賀軍団は怪我をした仲間を担いで逃げ去り、深夜の長い戦いは終わった。


 蓮之助はそれを見届けると、ドッと倒れて気を失い、華も荒い息をしながら、その上に倒れ込んだ。



 蓮之助が目覚めると、うつぶせに寝かされていて、視界には布団だけしか見えなかった。


「……ここは、何処だ?」


「島崎の家です」


 華の元気な声がして、寝返りを打とうとしたら、背中に痛みが走った。顔を顰める蓮之助を、華と千代が二人がかりで横向きに寝かせてくれた。


「華、怪我はなかったか? 今回はお前に助けられたな、礼を言う」


「この通り大丈夫です。私は貴方の妻、礼など無用です。でも、よかった。もう三日も寝ていたのですよ」


 華が蓮之助の妻と名乗ったので、母の千代は驚き、二人は既に契っていたのかと彼女のの顔を見た。


「そうだったのか。助太刀してくれた方々は?」


「徳島藩の方々と、大三郎様、福丸様です。皆さま、今は山小屋を立て直してくれています」


「何故、藩の方々が? それに、大三郎たちは伊賀の者のはず?」


「大三郎様が、大勢の伊賀者が徳島藩に入って来たことを、蜂須賀の殿さまに伝えたのです。殿様も、恩ある蓮之助様に何かあればと家来を差し向けて下さいました。

 大三郎様と福丸様は、家康様から、貴方を護るようにと密命を受けていたのです。伊賀軍団の襲撃は秀忠様の命によるものなので、大三郎様は、同士討ちを避けるために、徳島藩にお願いしたのだと伺いました」


「そうか、上様に気遣って頂くとは、申し訳ない限りだ」


 蓮之助が華の後ろを見ると、千代の横に一人の僧が笑顔を見せていた。


「千代殿、そのお方は?」


「蓮之助様の怪我の手当てをして頂いた、お坊様の日光様です」


「日光殿か、かたじけない、世話になり申した」


「たまたま通りかかりましてな、もう少し治療が遅れていたら危なかった。修行の為、明に渡った時に医術も学んだのでな。役に立てて何よりです」


 日光は、五十歳くらいで逞しい身体をしていた。法華宗を弘める為に全国行脚をしているとのことであった。



 蓮之助は、一月ほどで起き上がり、動けるようになった。


 そんな折、蓮之助と華は、滞在していた日光から、仏法の話を聞かされた。


「人を斬る地獄道を行く蓮之助殿と華殿は、死すれば地獄行きは免れまい。だが、ここに一つの法がある。この法を唱えれば、我が身が浄化され、生命力が湧き、犯した罪を滅することが出来るのです。例え身は地獄に落ちても、心は救われましょう」


 蓮之助と華は、言われるままに、日夜、法を唱えだした。すると、今までに感じた事も無い、生命の奥底から湧き上がってくる、妙なる力を実感することが出来たのである。

 そして、生きる為に人を殺さねばならぬ自分達の業の深さと、宿命と言うものが見えて来たのだ。


「私達のこの業は、どうしようもない事なのでしょうか?」


 二人は、日光に自分たちの思いをぶつけた。


「いかなる悪業も転換できるのが、この法の力です。とはいえ、これ以上、人を殺さぬ努力も必要です。明で学んだ気の術を教えましょう、役に立つはずです。

 しかし、根本は、この法を生涯唱えきる事です。さすれば、敵までもあなた方を護るようになるでしょう」


「……」


 二人は、半信半疑で聞いていたが、やってみる価値があるに違いないと、日光の弟子となった。


 更に一月が経って怪我が完治した蓮之助は、気の修行の為、華と日光を伴い、再び山に登っていった。


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