穏やかな語り口は、微睡みを誘って…05
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大きな溜息を吐いたのは、本日三度目であった。私は殊更に大きく、そしてわざとらしく溜息を吐いたのだけれど、厄介な居候は我が物顔で冷蔵庫を漁るのを止めなかった。バイトから帰ってきたばかりの私の身体に、さらなる疲労が圧し掛かる。
「ただいま」
投げやりな口調で話しかけた。すると居候、三枝サチコは冷蔵庫を漁る手を休めないで、おかえりぃと覇気のない声で言った。その様子はゲームに夢中になって画面から目を逸らさない子供みたいだった。私が母親ならば口うるさく注意してやるのだが、私と彼女との間には血縁関係はなく、そして注意してやるだけの気力もなかった。
「ねえ、プリンが食べたいんだけど」
ようやく冷蔵庫から顔を離したサチコが、私に救いを求めるかのような視線を送ってくる。それを右から左へと受け流し、知らんぷりをした。私は彼女の母でもなければ恋人でもなく、ともすれば友人でもない。ただバイト先が同じだというだけなのだ。特に仲が良いというわけでもなく、最近までろくに話をしたこともなかった。
こうして一緒の部屋で厄介な居候と寝食を共にしているのには、厄介な理由があった。