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精霊の愛し子

作者: 桜井 妃

無意識に傷つける表現があるかもしれません。

ご了承ください。

 あるところに1人の少女がいた。


 少女の名前はエリミア。


 エリミアは普通の人間や一般の精霊使いには見えない、精霊の姿を見ることと精霊と話すことができる力を持っていた。


 しかしそれを知る者は誰もいなかった…。




 『おはようエリミア』


 森の中で枝拾いをしていたエリミアに挨拶をしたのは木の精霊。


 エリミアは木の精霊をサクヤと呼んだ。


 「おはようサクヤ」


 いつも楽しそうなサクヤは何故かご機嫌斜めのようだ。


 「どうしたの?」


 顔を伺いながら聞くエリミアにサクヤは言う。


 『またあのお転婆王女様が来てるの』


 エリミアはまたか、と呆れため息をつく。


 お転婆王女とは文字通り、エリミア達が暮らしている国のお姫様の事だ。


 ある日を切欠に城を黙って抜け出しては森の中にある川のほとりに訪れていた。


 精霊たちは煩いのが嫌いなのか、王女を毛嫌いして王女と親しいエリミアのところに知らせに来るのだ。


 『うるさすぎて日課の日向ぼっこもできなければ、水の精霊たちも遊べなくて嘆いているわ』


 腰に手を当てて怒る姿は可愛らしいが、精霊の怒りを買うと後に何が起こるか分からない。


 「分かった。知らせてくれてありがとうサクヤ」


 エリミアは指の腹でサクヤの頭を優しく撫でる。


 それが嬉しかったのかサクヤの怒りは少しおさまった。


 「そうだサクヤ」


 エリミアは去ろうとしていたサクヤを呼び止める。


 『なあに、エリミア』


 「フラウに、このことを王室の精霊使いに伝えてくれるようお願いできるかな」


 『風の精霊ね。分かったわ』


 サクヤは二つ返事で羽を羽ばたかせ飛んで行った。


 「私も行かなきゃ」


 一旦、枝拾いをやめてエリミアは川のほとりに向かった。




 「あーっ!もうっ」


 川のほとりで川に石を投げ入れながら声を荒げて叫んでいるのはこの国の王女、モルティナ。


 もう一度言う、国の王女である。


 「モルティナ」


 川のほとりに来たエリミアは彼女の名前を呼ぶ。


 「エリミア!」


 フィリミナは勢いよく後ろにいるエリミアの方を向いた。


 「また脱走してきたの?」


 「うっ…。またとか言わないでよ」


 「常習犯でしょ。はぁ、…次また脱走したら王室の精霊使いに頼んで入ってこれないように結界を張ってもらうって前回言ったの、忘れてないよね?」


 呆れ気味に息を吐きながら言う。


 モルティナがここに来たのは一度や二度といった生ぬるいものではない。


 今や常習犯である。


 しかもエリミアと出会ってからは来る回数が以前と比べて格段に増えた。


 「友達とお話しするのに許可が必要なのかしら?」


 仮にも王女だろ、と言ったセリフは普通の人なら飲み込むだろうがエリミアはハッキリと言葉にする。


 「一国の王女が城を黙って抜け出すのはどうかと思うよ。それに友達になった覚えは私にはないよ」


 勝手に話して勝手に吐いて勝手に出て行く女。


 まさに嵐のような女としかエリミアは認識していなかった。


 「大体、貴方には自分が王族であるという自覚が…」


 「ない、とでも言うのでしょう?城の皆からも客人たちからも何度も言われてることよ。耳にタコができるほどね」


 「分かってるなら、どうして軽率な行動をとるの?」


 モルティナは黙り込んだ。


 エリミアは息をつくばかり。


 「森の入り口まで送るから、お城に帰りな。きっと心配…」


 「…!っ誰が心配してるっていうのよ!!」


 モルティナは目に涙を浮かべ叫ぶ。


 「城に戻ったところでまた叱られるだけ。兄様達みたいに褒められたことなんて一度も…っ」


 涙を流すモルティナを励ますでもなくエリミアは言う。


 「当たり前じゃない。今とってる行動が褒められることだとは思えない」


 エリミアは首を横に振った。


 「エリミア…」


 「何も言わずに城からいなくなれば心配はするでしょう。それは王族であれど一般家庭と変わりはないのでは?嫌なことから逃げてるのは別に褒められたことではないよ。賢い貴方なら分かるはずでしょう?」


 モルティナは苦虫を潰したような表情をし俯く。


 「お城の皆さまが貴方を叱るのは貴方に期待してるから。気にかけもしてなかったら叱られもしないよ」


 エリミアはモルティナの後ろ姿を真っ直ぐに見据える。


 「王子様方は嫌なことからも逃げずに努力して結果を出した。だけれど貴方は褒められる努力もせず逃げてるだけ。最初から諦めてるように見える…違う?」


 エリミアがそこまで言うとモルティナは振り返って叫ぶ。


 「うるさいっ!!」


 図星をつかれてモルティナの中で何かが爆発した。


 「何が分かるというの!?知ったふうなこと言わないで!王族でもない、家族もいない貴方に何が分かるというの!?」


 空気は静まり吹く風が音を立てる。


 「分からないよ…」


 そう呟くエリミアの表情はとても辛そうで悲しそうだった。


 「エリミアッ」


 エリミアは冷たく言い放つ。


 「帰って。…二度とここには来ないで」


 エリミアはモルティナをおいてその場から立ち去る。


 


 『姫、あの女を始末するか?』


 エリミアを姫と呼び、姿を現したのは水の精霊。


 「それはダメだよミラ。一応王女様だからね」


 微笑むその表情はどこか暗く、顔色もいいとは言えない。


 「でも、結界は張ろうか」


 エリミアは精霊たちにお願いする。


 精霊が張る結界は人間が張るものよりも強力であり、簡単には破れない。


 それに加えてもう一つ。


 「入って来た人が奥に来れないように、入り口に戻る術もいいかな」


 エリミアを心配し現れた精霊たちは頷く。


 「あ、フラウ」


 エリミアは空中に向かって声をかける。


 先程風を吹かせたのは間違いなく風の精霊だ。


 『どうした、お嬢』


 「結界のこと、王室の精霊使いにも伝えて欲しいの」


 王室の精霊使いは姿は見えないが精霊の声を聞くことはできる。


 エリミアのことは知らなくても危険があった、ということだけを察してはくれるだろう。


 『分かったぜ!…しかしお嬢、大丈夫か?顔色が良くないぜ?』


 「今日はもう、家に帰って休むことにするよ。心配してくれてありがとうフラウ」


 『おう!じゃあオレは行ってくるな』


 フラウは風の渦で体を纏い飛んで行った。


 『じゃあ、私がエリミアと一緒に帰るわ』


 サクヤはエリミアに寄り添う。


 「ありがとうサクヤ」


 『ふふふ』


 『不本意ではあるが、我はあの女の監視でもしておこう』


 「ミラもありがとう」


 『うむ』


 ミラは川に戻って行った。




 『では行きましょう、エリミア』


 「うん」


 サクヤはエリミアの肩に座る。


 『後で闇と光の精霊を呼んでくるわ。少しは楽になると思うから』


 サクヤはどの精霊よりもエリミアのことを大切に思っていた。


 エリミアがまだ赤子の頃。


 目を覚まし一番最初に出会ったのがサクヤだった。


 色んな精霊の力をかりてサクヤはエリミアを育てた。


 まさに家族であり愛しい子でもある。


 家に戻ったエリミアはベッドに潜るなり眠った。


 サクヤはエリミアが眠りにつくと本来の姿に戻った。


 「人間は愚かよ。…私達の愛し子を傷つけてただで済むと思っているのかしら」


 モルティナがエリミアに依存しているのには気が付いていた精霊たち。


 既に精霊たちの怒りは限界を超えていた。


 しかし、傷つけることはエリミア自身が望んでおらずサクヤたちは我慢するのみだ。


 サクヤはエリミアの傍らに座って頭を優しく撫でる。


 『失礼する』


 窓からミラが入って来た。


 『女は帰ったようだ』


 ミラがそう言うとサクヤは目を閉じて森の中にいないことを確認した。


 『王女が城に戻っていくのを視認した。精霊使いにも報せは出した。後は頼んだぜ、木の精霊』


 サクヤはふふ、と笑いゆっくりと立ち上がる。


 「任せて」


 そう言って森全体に結界を展開していく。


 「私達の平穏を乱すものは誰であろうと許さない」


 サクヤの言葉にフラウもミラも頷く。


 そうでしょう…精霊の愛し子(エリミア)――。

頭の中で描いたキャラと正反対になっていくのは何ででしょうか。

元々、モルティナは主人公と親友にするつもりでした。

でも書いていくにつれて変になりました。

設定も一応書いたはずなのに可笑しいです(笑)

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