推しの困った顔を見たいので悪役令嬢?喜んで!!
勢いで書き上げたので軽く楽しく読んでいただけると嬉しいです!
私、エルビア・オーディエ公爵令嬢が前世を思い出したのは6歳の時、2歳上の婚約者ガイル・アルデイン伯爵令息と初の顔合わせの時、ここが「ゲットラブ❤︎学園の花園」という乙女ゲームの世界だと気付いた。ガイルはそのゲームの攻略キャラクターで、燃えるような赤髪に黄金の瞳をしており、厳つめな面持ちをしている。口が悪く無愛想な性格だが、動物には優しいというギャップがある。後半はデレるというツンデレ要員だ。前世の私はこのゲームが大好きで何周もプレイをしてきた。推しは勿論ガイルでしょう。ツンデレ最高!!
そうそう、私はというとヒロインを邪魔する悪役令嬢で、最終的には婚約破棄をされて家から追放されちゃうみたい。だけど、そこはあまり気にしてなくて、前世の私はとにかくポジティブモットーで今その時を楽しむと決めていた。そういえば前世の最後は確か海外の度胸試しで海岸から飛び降りるってやつで失敗したからだったな。やりたくて亡くなったならしょうがない!取り敢えず今世も勿論自分のしたいことをするだけ。
取り敢えず私のやりたいことは決まった。
「悪役令嬢を全うする事」ただ一つだった。
目の前にいるガイルをニヤリと獲物を狙う目で見つめる。
それから10年の月日が流れた。
パーディン王立学園の中庭
「きゃー!シリウス殿下ー!」
「ガイル様もおられるわ!なんて麗しいっ」
中庭を歩く2人の美青年達に黄色い声が上がる。周りには令嬢達が群がり近くに入りそびれた令嬢は2人の姿が見えず悔しい表情をしている。
「ガイル様ぁ、婚約者の私と一緒にご飯食べましょう?うふふ」
金髪の髪に翡翠色のつり目をした化粧の濃い令嬢がポニーテールの髪を揺らしながらその集団に割り込み、シリウス殿下とガイルの間に入り込んだ。
誰もがそこに立ちたいと願う場所に堂々と入り、あまつさえガイルの腕に腕を巻き付かせ身体を密着させている。たとえガイルの婚約者だとしても嫉妬の目が刺さる。
「おい・・・エルビア離れろ」
「嫌ですわ♡」
「たく、毎日毎日、や、め、ろ・・・!」
「またまた〜本当は好きなんでしょう?うふふ」
「・・・勝手にしてくれ」
心底嫌そうな表情のガイルに臆する事なく即否定をし、ガイルの顔を満喫するようにじっと顔を見つめる。そんな私にさらに顔を渋らせた。
(ふふふふ、そんな嫌な表情をしているのに絶対離すわけないじゃない!!!!萌えーーーー!!!!)
前世の私は一癖二癖もあったと自負する。人を突くのがとにかく、、だいっすきなのだ。その人が嫌いでするわけはない。歴とした愛ある虐めで、嫌がる表情を見るのが最高に美味しい。
だからこの悪役令嬢という立場は本当にありがたい。しかし、虐めてばかりだと良くないためやめ時はしっかりと計っている。ガイルの表情を見て、そろそろやめ時だと思いパッと腕から話し近くで会話に混ざる事にした。
「相変わらず仲がいいね2人は」
シリウス殿下が笑いながら私たちに向かって言う。その言葉にガイルはすぐに否定する。が私はすぐに肯定した。
「どこが」
「そうなんですよ♡」
「エルビア!!」
「照れちゃって〜」
本気で頭を抱えるガイルに心の中で萌えと叫ぶ声が聞こえる。
6歳のあの日から私はガイルと会うたびに好き好きアピールをして困らせてきた。ガイルにとってはとんでもない10年だっただろうが私にとっては大変充実した10年であった。しかし、それも今日から終わりに近づいていくこととなる。そう、ヒロインが転入してくる日が今日なのだ。少し寂しさを感じながらも、自分の役割を最後まで全うするべく今日も悪役令嬢として過ごしている。
「ヒロインめちゃくそ可愛いやーーん・・・!!」
おっと、公爵令嬢にも関わらず口汚い言葉が出てしまった。今、私はゲームのシナリオイベントを見に来ている。ヒロインは学園内で迷ってしまう。少し入り組んだ先のテラスで人を見つける。その人物は私の婚約者ガイル・アルデイン伯爵令息。厳つめな顔だが優しい表情をしながら動物達に餌をあげている。そんな彼を見つけたヒロインは道を聞こうと話しかけるために踏み出した←イマココ
(そりゃこんなにふわふわの可愛いが詰まったヒロインに声かけられたら1発ノックアウトでしょ!ていうか私がやられたわ!!)
私はイベントが見れるように近くの木の上に2人が来る前に登り(忍者っぽくて楽しそうだったからつい・・・)盗み見をしていた。
勇気を出して聞いたヒロインちゃんは顔を真っ赤にし、一生懸命さが凄く伝わってくる。
「・・・あのっ、道に迷って教室までの道を教えていただけませんか?」
確か次にガイルは表情を変えず、面倒臭そうにに『・・・俺に関わるな』と言うんだっけか。出会いの場面だしすんごい無愛想なんだよね。頭の中でゲームを再生しているとガイルが口を開いた。しかし、その言葉にびっくりする。
「どこの教室?」
しかも少し笑顔を含ませながらだ。
(え!?え?え?どういうこと?)
しかし、私の困惑に関係なく話は進んでいく。
「1年B組なんですが・・・」
「ああ、そこならその道をずっと真っ直ぐいけば着ける」
「っそうなんですね!ありがとうございます!あの、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか・・・」
「ガイル・アルデインだ」
「ガイル様ですね!私はリリア・マクミランと申します!またお礼をさせてください!では」
ヒロインちゃんはゼイルに手を振りながら去っていく。
そのやり取りを茫然と見つめる私。
(えっ・・・ガイルってそんな愛想良くできたの?10年一緒にいたけど知らなかったわ。・・・っていうかシナリオが狂ってる!?気のせいならいいけど・・・)色々謎が深まり珍しく頭を抱えていると下から声が聞こえてくる。
「ティナ、餌だぞ」
どうやら鳥のティナとやらに餌をあげに木の下に来たみたいだが。ガイルの後頭部がよく見える。やばい、私木に登ってるわ。上を向かないでと願うばかりだが、人生そう上手くはいかない。
バタバタバタっとティナが飛び立つと同時にガイルが上を見上げてきた。
バチっとお互いに目が合ってしまう。
「・・・、はぁ!!??」
「お、・・・おほほほ奇遇ですわね!ガイル様とこんな所で出会うなんて、運命ですわね!!ほほほほほ」
「いや、何言ってんだ!降りれんのか!?」
「勿論ですわ!おほほっ・・・ほ?」
「危ねえ!!」
調子に乗り立ち上がった瞬間足を滑らせてしまった。私はどうやら高い所から落ちて死ぬ定めのようだ。
ドスっと鈍い音がする。覚悟を決めて目を瞑っていたが体の痛みはそれほどない。恐る恐る目を開けるとガイルに所謂お姫様抱っこをされていた。無愛想だけど心配そうな表情が目にうつる。
「エルビア、お前は本当に馬鹿だろ・・・」
「今は否定できませんわ・・・」
そっと地面に下ろされる。どう言い訳しようかと考えていると、珍しくガイルから声をかけられた。
「怪我は?」
「え、ええ大丈夫ですわ。あのガイル様、お助けいただきありがとうございます」
「はぁ・・・まったく」
気が抜けたのかガイルは木に背中をドスっと預けて草むらに座り出した。
「もしかして怪我を!?」
急に座り出したガイルに怪我があったのではないかと気になり隣にしゃがみ声をかける。
「してない。心配するぐらいならもう木の上に登るな」
キッと睨まれて咎められる。今回は完全にこちらに非があるため素直に謝る。
「ごめんなさい、もうしないわ・・・」
そんなしおらしい姿にガイルは目を丸くすると無愛想に「分かればいい」と短く答えた。
しーんと静かな空気が流れる。いつもなら好き好きアピールをしまくり静かな時間というものはなかったが、今はそんな空気にするのもダメな気がして黙っている。
しかし、静かな空間の時はどうしても様々な思考が浮かんでくる。
しばらくの静寂の後、ふと思った疑問を口にする。
「ガイル様」
「・・・何だ」
「女の子に笑顔向けれるんですのね」
「見てたのか・・・というか木の上にいたなら見てるはずか・・・」
ガイルは呆れた表情を私に向けてくる。その表情凄く好き・・・ぽーっと見惚れてしまう。
「あのな、毎日毎日エルビアと関わってると」
「ええ」
「他の令嬢が凄くまともに見える」
実際まともだろう。
「そして、令嬢たちに警戒する必要もあまり無いことに気がついた。お前以外はな」
「ええと、つまり私は警戒されていると」
「そうだ」
「ええ〜そんなぁ」
こんなにも好きなのにガイルにはこの変わった愛は伝わらなかったようだ。残念。まあ、悲しいけれど悪役令嬢だからしょうがないけれどね。
そんなことを考えながら外の風景に逸らした視線をまたガイルに戻すと、ガイルは私の顔をじっと見つめていた。
何だろうと言葉を待っているが特に何も喋りかけてこない。推しと見つめ合う形になり自然と顔が火照ってくる。こんなに目が合うことはほとんど無く耐性がついてない。
すると、ガイルの顔が徐々に近づいてきた。何が起きているか分からずしゃがんでいた足がもつれ尻餅をついてしまう。
(ち・・・近っ)
普段自分から至近距離に行くことが多い為、来られるとなるとなんだか身体が後ずさってしまう。ガイルは私の顔にゆっくりと手を伸ばしてくる。ドキドキと鼓動が脈を打ち出す。
「木の枝、頭に刺さってるぞ」
「・・・」
「痛く無いのかコレ、あ、抜けた」
「・・・」
(デスヨネー!!期待しちゃった私のおバカチンッ悪役令嬢だからそんなヒロインみたいなことあるはずないのに!)
火照る顔をどうにかしようと手で顔をあおぐ。ふと、あおぐ指の隙間からガイルの笑った顔が見えた気がした。
きっと見間違えだろう。