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 翌日。


 開店前のショッピングモールに行くと行列ができていた。客層は子連れだったり老夫婦だったりと千差万別だ、唯一の共通点は明るい声を発しているところだろう。


 開店と同時に店の自動扉の前で待たされていた待機組がゾロゾロと入っていく。


 真冬は一人でショッピングモールに来た。

 人生初である。


(廃墟になったショッピングモールになら行ったがある。その時は組の抗争だったけど、稼働中はこんなに活気があるのか)


 出発時、心紅が『認識ずらし』を掛けると言ったが真冬はそれを拒否した。レジの人にも気づかれなくなるからだ。


「生きるか死ぬかって時によくそんな悠長なことが言えるわね」と心紅は呆れていたが「自分の撒いた種だ」と真冬は断固拒否した。


 何もそのままで行くわけではない、帽子を目深に被って変装している。効果の程は定かではないが。


 真冬は懐から買い物メモを取り出した。食料と、その他諸々の物品を買うことになった。


 心紅からいくらかの金を渡されたが、自分の金を使うことにした。仕事柄、財布にはいつも札束を入れてあるのだ。


 案内板を確認(さっさと買い物を済ませてしまおう)真冬は食品売り場に向かう。


 ふとフードコートを通り過ぎるとき、横目に見慣れた少女を発見して思考が止まる。


 向こうも誰かに囁かれたようにハッとして真冬の方を向いた。


「あれ? 崩紫さんじゃないですか」

「闇園······」


 四宝組十二幹部。闇園一花がそこにいたのだ。

 一花はあどけない表情で覗き込んでくる。


「何してるんですか? こんなところで?」


 一花は小首を傾げる。


(それはこっちのセリフだ!)


「無視しないでくださいよー、ねー、ねーったらー」

「してないよ、追われてる身だからな、内緒だ」

「へぇ、それはそれは大変ですねぇ」


 なんとも他人事だ。

 一花は襲ってこない。すぐに戦いにはならないようだ。


「闇園のほうこそ、ここで何してるんだ?」

「企業秘密です」


 右手にアイスクリーム、左手にクレープが握られている。


「久乗さんを殺したんですね」

「もう知ってるのか」


(昨日の今日だぞ)


「はい『彼』は何でもお見通しです」


(どこからか見られてるような感じがする。近くに闇園の『彼』がいるのだろう)


「清十郎も驚いていました。崩紫さんと久乗さんが戦ったら、久乗さんが勝つと思っていたみたいです」


(風間さんの予想は正しい。俺一人だったら憑依された時点で負けていた)


「協力者がいるんですよね『魔女』がいたと『彼』が言っていました」


(心紅のこともバレている。闇園は危険すぎる。この子の能力は未だによく分かっていない。ここでやるか。いやまずやれるのか?俺はこんな小さな子を本当にやれるのか)


 真冬が覚悟を決めかねていると。一花は頬をふくらませた。


「無言で悩まないでくださいよー、そんなに戦いたくないんですかぁ? 殺すことに特価した能力のくせして、もしかして不能さんですかぁ?」

「うるさい。やるのか?」

「やりません」

「肩透かしだな。俺を探しに来たんじゃないのか?」

「違いますよ、自意識過剰ですねぇ。今日はオフ日なんです」

「オフ日?」

「はい。休みの日まで仕事するなんて馬鹿げてるじゃないですかー」

「自由だな」

「貴方ほどではないです。私たちはそういう契約の元、雇われているのです、交渉の結果です!」

「何はともあれ、戦わずに済んだのはよかった」

「私もです。戦い(そういうの)は清十郎の役目ですから」


 真冬はその名前を聞いただけで体温が下がったような感覚を覚える。ヒヤリとした嫌な汗が額を伝う。


(風間清十郎。あの日、俺に致命傷を与えた男)


「風間さんは近くにいるのか?」

「ふふ、怯えちゃって、怖いですか?」

「そんなんじゃない」

「どうでしょうかねぇ。いるかなぁ? あ、それとも呼びましょうか?」

「遠慮しておく!」

「あの日のことも、清十郎は頭を傾げていました。あれで生きてるわけがない、と。けどそっちサイドに『魔女』がいるのが分かって謎は解けました」


(呑まれるな。この子は闇のように人を誘う)真冬は話題を変えることにした。


「闇園たちはおかしいと思わないのか?」

「なにがですか?」

「哭龍が後を継いでからのことだ」

「組織は流動的に変化していかなければ、このご時世生き残れませんよ」

「だからってあんなこと!」


 真冬が声を荒げると、周りの客が騒ぎ始めた。


「ちょっと落ち着いてください! 恥ずかしいですねー、ここで騒ぎを起こしたくないのは崩紫さんのはずですけど?」

「あ、ああ、そうだな、すまない」

「まあ確かに?伯龍さんがまだ生きていたのなら、少なくとも久乗さんが死ぬことも無かったですね。今回だって秘密裏に崩紫さんを襲ったようですしぃ」


 真冬は知る由もないが、久乗伝法の本来の戦術は、他幹部の援護だったのだ。心許ない下っ端を一人だけ連れて出かけたりはしなかった。哭龍に課せられたノルマに追い詰められた末の行動だったのだ。


「俺が裏切ることもなかった」

「変化に犠牲はつきものと言いますが、どこまで拡大するのでしょうねぇ」


 一花はアイスクリームとクレープを頬張る。

 ペロリと平らげてしまった。


「もぐもぐ、ごくん。こうやって消えてなくなってしまうかも知れませんね」

「それが伯龍のためになるなら、全部『崩壊』させる」

「死んだ人間を兼ね合いに出すのは言い訳です」

「ああ?」


 真冬は苛立ちを隠せなかった。


「死にました。伯龍さんはもういないんです」

「意志は俺が継いだ。だから俺の意思でもあるんだ。やり方が気に食わねぇ、それだけで考え無しに無茶してんだよ」

「そんなことで伯龍さんの作った四宝組を崩壊させようとしているんですか」

「あんなものは四宝組じゃない」

「はあ男ってバカですよ。実は命って取り返しのつかないものなんですよぉ?」

「そんなこと分かってーー」




 ガラぁン。




 高下駄の音がする。


「何をしている」


 清十郎がその姿を現した。


























______




























 真冬が清十郎たちと出会っているころ、心紅は自室から窓の外を眺めていた。


「遅いわね」

「ご主人様、まだそんなに経ってないぞ」


 クロジカは腕を組み壁に寄り掛かって言う。


「そうだけど······」

「少しは待つことを覚えたほうがいい。毎回ついて行くわけにもいかねぇだろう」

「気になるのよ」


 クロジカは呆れたように尻尾で頭を掻く。


「学校も休んだしよ」

「どうってことないわ。もう完璧に頭に叩き込んであるもの」

「ならば学校に通わなくてもいいんじゃねぇか」

「甘いわね、クロジカ」


 心紅はクロジカに向き直る。


「どういうことだ?」

「学校に通うとね、友達ができるのよ」

「友達だと」

「そう友達」

「言葉の意味は知っている。が、それは戦いに役立つのか」

「違う、そういうベクトルの話しじゃ……戦いに役立つ、ね」


 心紅はクロジカの言葉を反芻する。

 怪訝に思ったクロジカはさらに聞いた。


「ご主人様? 俺何か言ったか」

「ううん。私だっていつまでも無力なままじゃいられないわよね」

「おいおい、何を考えてるんだ」

「ちょっとしたことよ。ヒヒ」


 心紅は魔女らしい笑みを浮かべて言った。



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