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 三時間後。


 少年が部屋に来た。脊髄反射で立ち上がり詰め寄ろうとする。


「心紅はーー」


 バシン!


 心紅は生きているか、そう聞く前に真冬の頬に痛みが走った。少年が尻尾を鞭のようにしならせて叩いたのだ。


「まあ一命は取り留めた」

「ありがとう」

「気にするな」


 あることに気づく。


(この感じ、昨日この部屋にいる時に感じた違和感の正体はこの少年だったのか。姿を消してそばにいたんだな)


「その傷、心紅が目覚める前に治しておけよ」


 そう言うと、塗り薬を投げ渡した。


「これは」

「お前を癒した治癒水薬ヒーリングポーションの出来損ないの絞りカスだ。傷に直接塗れ。折れてる所にも皮膚の上から塗れ。塗ったらこれを貼れ」


 ポイポイと脱脂綿と包帯を放り投げる。


「ありがとう」

「気にするなって言ったろ。めんどくせぇな」


 もう言うことはないといった感じで、スタスタと出て行ってしまった。真冬は言われるままに傷の手当をした。


 二時間後。


 薬を塗った左手と頭が熱い。痛みは幾分か和らいだ。

 心紅と少年はどういう関係なのだろうか。真冬が悩んでいると。


「昼飯だ、食べろ」


 少年はズカズカと入ってくるとパンを投げた。

 キャッチして礼を言った。


「なあ……」

「『黒曜石蜥蜴オプシディアンリザード』の魔人。クロジカだ」


(おぷし……? 魔人? 人じゃないのか?)


混乱しながらも名乗る。


「よろしく、クロジカ。俺は崩紫真冬」

「知ってる。見ていたからな」

「やっぱり昨日部屋にいたんだな、姿を消して」

「おーよくわかったな。その通りだ」

「どうして隠れてたんだ?」

「ご主人様がな、そうしろって言うもんでよ」


(ご主人様ってのは心紅のことか)


「二人はどういう関係なんだ?」

「別にどうってことねぇよ。呼んだ呼ばれたの関係だ」

「呼ばれた?」

「なんだ? 召喚魔法サモンマジックも知らねぇのか?」

「うん」

「はぁ、まあそうだな『こっち』の人間は知らねぇわな。時間もあることだろうし。少し世間話でもしてやるか」


 クロジカは壁にもたれる。

 腕を組んでこちらを睨み付けているようにも見えるが目つきが悪いだけのようだ。


「俺から話しかけといて言うのもなんだが、心紅を看てなくていいのか?」

「大丈夫だ、ここからでもわかる」

「そうなのか。なら聞かせてくれ」

「大層なもんはないわな。俺はお前らが異世界と呼ぶ世界から召喚された」


(異世界の魔人か、そんなものを呼び出して心紅はどうしようとしたのだろう?)


「魔人って魔物だよな。魔人は皆そうやって話せるのか?」

「魔物なんかと一緒にすんじゃねぇよ。誰もが皆ってわけじゃねぇ、この世界の言葉は心紅に教えてもらったんだ」


 そりゃそうか、異世界には異世界の言葉がある。


「魔物と魔人は何が違うんだ?」

「魔物が進化すると魔人になる」

「進化するのか、どう変わるんだ?」

「強さが違う。魔人のほうが圧倒的に強い。思考領域も大幅拡張される。それで話せるようになったりするんだが、まあ、魔物は千差万別だ、例外もあらぁな」

「どうしたら魔人になれるんだ?」


(強くなれるのなら俺も魔人になりたいな)


 素直にそう思った。


「おい烏滸がましいぞ。人は人だ、魔人になんてなれねぇよ。俺らがどこまで進化しても人になれねぇようにな」


(そりゃそうか)


「脱線させやがって、ついでに教えてやるが魔物が魔人になるには、魔物を喰らうことだ。これが一番手っ取り早い」

「共食いかよ」


 クロジカはここで初めて口角を上げた、下卑た笑い方だ。嬉しそうに続けた。


「ああ、それも何千何万とな」



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