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「座れ」

「なんでこうなるんだよ」

「清十郎が座れって言ってます。早く座りましょう!」


 真冬は清十郎に言われるがままにファミリーレストランに連れてこられていた。

 

 強引な誘いに流されてしまい。連れてこられてしまった。真冬は逃げるタイミングを完全に失った。


「わかったよ」


 真冬にしては珍しく戦闘を最終手段にして素直に従うことにした。しかし警戒は解かない油断は死を意味する。


 メニューを見ている一花があーでもないこーでもないと悩んでいる。それを待ってから注文する。


 清十郎は一花に任せているようでメニュー表は一切見なかった。真冬は適当なセットメニューを頼んだ。


(舌戦は苦手分野だがそうも言っていられない)


 真冬は探りを入れることにした。


「風間さんもオフなのか?」

「一花と同じシフトだ」

「崩紫さんもついこの間まで四宝組の幹部だったんですから、もっと内情に詳しくてもいいと思うんですけど?」


 一花に言われたことも頷ける。

 戦いに明け暮れていたため内情には疎いのだ。


「なんにも知らないな、ほんと」


 (伝法の能力の発動条件すら知らなかったからな)


 真冬は知らないが伝法は味方にすら発動条件を隠していた。


(勉強不足。どこに行ってもこれにぶつからないことはないな)


 清十郎が唸るように真冬を呼んだ。


「崩紫」

「なんだよ」


 清十郎の放つプレッシャーのせいで自然と固い声になる。


「あはは、ガチガチじゃないですかぁ」

「う、うるせー」


(風間さんが来てから、闇園がさらに元気になりやがった)


 清十郎は構わずに続けた。


「お前が逃がした少女のことだが」

「清十郎!?」


 一花が静止に入る。しかしもう遅い。放たれたワードは戻らない。清十郎が言い放った聞き捨てならないワードに真冬は両手を机について上半身を乗り出した。


「ナナ・トランスがどうした」

「鮫島が追っている」


 鮫島水葵さめしまみずき

 四宝組十二幹部の一人。『最速』の能力者。


 能力だけ見れば追跡者として適役だ。ただし能力だけ見ればの話だ。


(あのキザ野郎は何を考えているのかサッパリわからない)



「もう! なんで言っちゃうんですか!」

「ギブアンドテイクだ。崩紫、あの時お前に与えた傷は致命傷だった。なぜ生きている?」


(なんて強制的なギブアンドテイクだ!)


(それにキザ野郎がナナを追っているのならここで時間を無駄にしている場合じゃない)


 真冬は頭の中でツッコミ。そして考えを整理する。まずはここを切り抜けなければならない。


(心紅のことはバレている。なら治癒水薬ヒーリングポーションのことを言ってしまっても構わないんじゃないか?)


 真冬は慎重に言葉を選んだ。


「ペラペラ喋っていいのかよ。組織に対する裏切り行為なんじゃないか?」

「ならん」

「ならないみたいです!」


 一花はセーフとポーズをとる。


「俺たちは伯龍に金で雇われた用心棒に過ぎん。他の者のように組織に対する忠誠心なんぞ持ち合わせてはいない。契約期間が満了し、追加の料金が支払わなければ、それで契約終了となる。それよりもだ崩紫、教えてくれないか」


(話を戻された。つまり風間は裏切り者である俺のことよりも、利己的な理由で『治癒手段』を知りたがっているようだ)


「そんなこと聞いてどうするんだ、どこか怪我してるのか?」


(とてもそうは見えないが、……あの時も傷一つ付けられなかったしな)


「俺のじゃない、一花だ」


 真冬は一花を見る。元気そうだ。

 清十郎が続けた。


「一花の能力のことは知っているか?」

「『魔物使い』だろ。どんな能力かまでは知らないけど」

「名前の通り魔物を使役する。それ自体はただの能力だ。問題はその経緯だ」

「経緯か」


(ちょっと分かってきたぞ)


「俺の目的は一花の目を治すことだ」


(目?)


 真冬は一花の眼帯を見る。眼帯で保護されているから左目が見えるはずもないのに一花は慌てて手で左目を隠す仕草をする。


「もういいですってば!これでいいんですよ、これで!」


 一花は清十郎を連れて行こうとして袖をグイグイと引っ張るが微動だにしない。


(怪我が原因で左目に眼帯を付けていたのか。能力者の中には目を使った能力があり、制御できない場合においては眼帯で隠すことがある。一花もそうなんだと勝手に思っていた)


「その左目と能力は関係あるのか?」

「対価だ」


(『対価』か)


 そのワードで真冬が思い出すのは無能力者がよく使う方法の一つ。対価を支払い能力を後天的に得る方法だ。


 一花が微動打にしない清十郎を両手で押しながら(まるでパントマイムのようだ)補足した。


「なんだかんだあってですね。生まれた後から魔物使いになったんですよ」

「アバウトだな」

「企業秘密です」

「儀式だ」

「もう! なんで言っちゃうんですか!」

「構わないだろう」

「構いますよ! もう! もう! なんなんですか! 今日の清十郎変ですよ!」


 一花はプンプンと頬を膨らませ、怒りを示す。

 そんな愛らしい仕草でも清十郎は取り合うことはしない。


「闇園が嫌がってるぞ、掻い摘んで話してくれればいい。そもそも力になれるかもわからないんだ」


(自分で言っておいてなんだが流されてないか)


「一花は望んで能力者になったわけでは無い。一族の風習により強制的に能力者にさせられたのだ。その成り行きで俺は闇園一族を滅ぼしたわけだが」


(なにさりげなくとんでもないこと言ってんのこの人?)


 真冬の沈黙を勘違いしたのか一花が付け加えた。


「清十郎を恨んだりしていません。一族と言っても私の扱いは物と一緒で、清十郎と会うまではずっと地下に閉じ込められていました、両親の顔すらわかりません」


 真冬は何も返す言葉が見つからなかった。


「『魔物使い』となった一花と、創り出された魔物の繋がりは強くてな。魔物を倒しても左目を依代に復活するのだ」

「清十郎、やめてください。意外と便利なんですよ。『彼』は」

「崩紫よ」


 一花を無視して真冬に話しかける。


「能力を得るために体の一部を失えるか?」

「度合いによる」

「自分の意思に関係なくそれが行われたら」

「ふざんけなって思うな」


 真冬はふと疑問に思う。


「対価なら治らないんじゃないか。あれって怪我じゃないだろ」

「アプローチの方法の一つと見てもらっていい。もしかしたら治るかもしれないというだけだ。お前の言う通り望みは薄いがな」

「……左目どうなっているんだ?」


 一花が俯き、あからさまに嫌がる素振りを見せる。


「これを見たら後には引けんぞ」

「待ってくれ、考えさせてほしい」


 真冬は考える。心紅のこと、目の前の少女のことを、

 返答次第では戦闘になり殺される可能性があるにも関わらず、自分の命なんて一切考慮せずに答えを出した。


(よし決めた、ここは言おう。殺されてもいい)


「やっぱり、魔女のことは教えられない。あの人は命の恩人なんだ」


(心紅の不利になるようなことは何一つとして教えられない。命を賭して人を救える人間を裏切るなんて真似は出来ない。そんなことは絶対にしてはいけない)


「そうか」


 空気が重くなる。ここだけ別の気体に入れ替わったかのような。これが清十郎の能力ではなく単純に清十郎から放たれている重圧プレッシャーのせいだと真冬は理解している。


 清十郎は規格外の化物なのだ。しかし真冬は引かなかった。


「やるならやってやる!」

「えぇ。やるんですかぁ。ここで? 私たち二人を相手に?」


 一花も戦闘態勢に移る。しかし特に構えたりはしていない。だが意識が切り替わったのを真冬は感じた。


 数秒後には凄惨な殺し合いが始まる。そんな予感が漂っている。


 その刹那。


「お待たせ致しました〜」


 想定外だ。ウエイトレスが横槍を入れたのだ。トレーの上には注文した料理が乗っている。


 常人でも分かるあからさまな修羅場に入ってきたのだ。鉄のハートを持っているのか?とも思えたが、トレーはカタカタと音を立てている。恐怖で手が震えているのだ。しかしそれでもこの場に立ったのはプロ魂だろう。名札を見れば名前の他に店長と書いてある。


「ふふ、あはは」


 一花が吹き出す。

 三人の戦意が失せ。場の雰囲気が緩むのを感じる。凝り固まった空気が流れていく。


「まあ戦いなどいつでもできる。飯にしよう」

「はい、いただきまーす」


(あの店長は俺の命の恩人かも知れない。俺は命の恩人を何人作るつもりなのだろうか)


 二十分後。

 時折、会話を交わしつつ三人とも食べ終わる。沢山食べた一花は苦しそうにお腹の帯を緩めている。真冬と目が合い頬を赤らめて視線を逸らした。


 そして別れ側、一花はこんなことを言い出した。


「崩紫さん。最後に一つ聞いてもいいですか」

「ん?」

「能力者の能力って、呪いみたいですよね」


 一花の境遇を思い出す。そして自身の能力も。


(触れるだけで全てボロボロになっていった)


「そうかもな」


 (そうかもしれない。この手が無かったら、別の人生を歩んでいたかもしれない)真冬は素直にそう思った。


 先を歩く清十郎が振り向かずに言った。


「悲観するな。俺たちはただ生きていく。それだけの事だ」

「じゃあまたね、崩紫さん」


(生きていくか、というか俺を殺そうとした張本人に言われても何の説得力もねーよ……)



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