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挿絵(By みてみん)



 二つの世界があった。『新世界』と『異世界』だ。

 新世界には異能が、異世界には魔法があった。


 二つの世界は交じることなく歴史を刻んでいた。


 しかし今から数百年前のこと、極めて利己的な理由で二つの世界は繋がることになった。


 新世界の『魔物』の能力者が異世界へ続くゲートを創ってしまったのだ。


 さらにその者は両方の世界に使役していた魔物たちを解き放った。放たれた魔物たちは蔓延った。巣を作り、人を喰らい、繁殖し、驚異的なスピードで独自の生態系を形成した。


 人類は抗った。抗い続けた。

 それでも魔物たちを根絶することは出来なかった。


 しかし過酷な環境の中でも人類は逞しく生きた。各地にコロニーを形成して、その中でだけは平穏な日々を実現させたのだ。


 この物語はそんな生活に適応し人々がなんの疑問も持たなくなった時代を舞台に始まる。













 季節は冬、ここはトウキョウの繁華街。

 太陽が沈んでもこの街は活気を失わない。星空を映す湖のように街が輝き始める。


 そんな華やかな街も路地裏に入ってしまえばその景色は一変する。男がごみ袋をクッションにして倒れていた。


 男の名は崩紫真冬なぎしばまふゆ


 20代後半。金髪(血が混ざりメッシュのようになっている)服装はスーツだが所々破け土埃で汚れている。精悍な顔つきだったが青タンで台無しだ。現在のコンディションは満身創痍だ。


 怒鳴り声が近づく。

 追手だ。真冬は追われているのだ。


(くそ……勝てなかった……ここから離れないと……)


 朦朧とする意識の中で考える。


 立ち上がろうと足に力を入れた、だが立てない。


 蓄積した疲労と激しい痛み、そして失った血の量を考慮すれば当然のことだ。体は鉛のように重くなっている。


 起き上がるのをやめて力を抜く。

 ゴミ袋に沈む。心地いい。


 どうしてこのような事態に陥ったのか、話は数分前に戻る。


 先程まで暴力を生業としている裏組織に所属していた。暴力を振るう仕事だが真冬は汚い仕事は受けず納得して働いていた。あのまま組織に骨を沈めるつもりだった。


 それも捕まっていた少女を見つけるまではの話だった。独房に入れられていた少女を見た真冬は後先考えずに逃がしたのだ。


 『裏切り者には死を』裏社会に属する者なら誰もが知っている暗黙かつ絶対のルールだ。


 真冬もそれに漏れず制裁を受けた、しかし命からがら逃走、現在に至るというわけだ。


 緊迫した状況の中でさえ逃がした少女のことを思い出す。


(俺の命と引き換えに、罪のない人を助けられた)


 真冬は得もいえぬ達成感に浸ると、瞼も重くなってきたので目を瞑る。


 死を覚悟したのもつかの間、今まで誰も居なかったはずの場所に人の気配を感じた。今しがた閉じた瞼を薄っすらと開く。


 いつからそこに居たのか。一人の少女が立っていた。


「誰、だ」


 真冬の意識はそこで途絶えた。



















______



















「……は」


 次に真冬が目を覚ますと、そこは見たことのない部屋だった。

 慌てて上体を起こして周りを見渡す。


 ふかふかのベッドに厚手の羽毛布団。白を基調とした清潔感のある部屋。そして何より女子の部屋特有の甘い匂い。


 部屋には真冬以外に誰もいない。


 状況が飲み込めない。ボーっとしているとドアの向こうから足音が近づいてくる。真冬はベットから飛び出して素早く拳を構えた。


「あら、起きたのね」


 入室してきたのは十代後半くらいの少女だ。髪は黒髪で腰まで伸びており纏めずに自由にさせている。服装は白シャツにジーパンと至ってラフなもの。表情は冷たく冷ややかなイメージを受ける。可愛いと言うよりも美しいタイプの少女だ。


 数秒とはいえ見惚れていた真冬は、ハッとなって状況を思い出す。そして警戒した低い声で言った。


「誰だ」


 その言葉に少女は十分な間をもってから答える。


「そう身構えないでもらえるかしら? 貴方は敵がこんなことをすると思うの?」


 始末しようと思えばいつでもできたはず。と真冬は思い直し構えを解いた。


「ごめん。助けてもらったみたいだな。ありがとう」

「どういたしまして」

「俺の名前は崩紫真冬なぎしばまふゆ、君は」

「私は銀鏡心紅しろみしんくというわ」


 どうやら心紅と名乗るこの少女が真冬を介抱してくれたようだ。


「それでいつまでその格好でいるつもりかしら? それとも見せつけているの?」

「格好?」


 真冬は視線だけを下に向ける。

 肌色だ。肌色一色だ。

 そう、なにを隠そう今の真冬は全裸なのだ。


「な、なんで裸!?」


 慌てて掛け布団を纏う。

 心紅はその一連の動作を見てクスリと笑う。


「お、俺の服は!?」

「介抱の邪魔だったから剥いじゃったわ」

「は、剥い」

「スーツも手入れしておいたわ」

「そ、それはどうもありがとう」

「そんなことより傷の具合はどうかしら?」

「傷って……あれ?」


 真冬は気づいた。痛みがない。体を見ても切傷一つ無くなっている。


「な、なんで?」

「その調子なら大丈夫そうね」

「俺に何をした? 君は一体」


 心紅はやや芝居がかった声色で話した。


「やれやれ、それじゃあ混乱している崩紫くんにもわかりやすく説明してあげるわ」


 テンションの高い銀鏡に戸惑いつつも真冬が頷く。その様子を見た心紅は続けた。


「一つ目は何故助けたか。……そうね、ダンボールに入った動物とか拾って来ちゃうのよね」

「俺は捨て猫かよ!」

「二つ目は傷のことね。ちょっとヤバかったから薬を塗ったわ」


(薬? 薬でここまで治るものなのか、あれは紛れもなく致命傷だった、傷を跡形もなく消せる薬なんて聞いたこともない)


「あと今の時間ね。崩紫くんを拾ってから丸一日が経過しているわ」


 これくらいかしらと、心紅は話終えた。


「助けてもらっておいてなんだけど、銀鏡さんは変わってるな」

「そうかしら、そうかもね、そうじゃなきゃ」

「自己完結した……」


 (得体の知れない男を家に連れ込んだ挙句、手厚く看病してしまうなど正気の沙汰ではない。一体彼女は何者なのだろうか)


「銀鏡さん、俺は追われているんだ。いつ追手が来てもおかしくない状況なんだ。巻き込んでしまって申し訳ないが、お礼はまた今度落ち着いたときにするからーー」


 もう出ていかないと。と、言う前に心紅が遮るように言った。


「そのことなら心配ないわ」


 へ? と、真冬は間の抜けた返事を返した。


「家全体に結界が張ってあるから。外からじゃこの家を見つけられないわ」

「け、結界?」

「そう結界よ。まあ私のは意識できないようにさせる『認識ずらし』という、結界を応用した小ネタなんだけれどね」

「えーと、聞いていいか」

「あら、まだ質問があるの?」

「おおありだ。俺は致命傷を癒す薬なんて知らないし、結界とやらも聞いたことがない。銀鏡さんは一体何者なんだ?」

「あら以外ね。この手の人間には出会ったことがないのかしら」


 心紅は掌を胸に当て誇らしげに言った。


「私は魔女よ」


 清々しいほどのドヤ顔だった。



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