第三十九話 尾張統一戦 〜清洲攻防戦 中編〜
各隊の援護を終えた十六夜隊は正門に戻り、門の攻撃に移った。
「それ、かかれぇ!」
数名の雑兵が丸太に付いている紐を持って、門を攻撃した。
敵も黙って見ているわけもなく、城壁についた雑兵に対して、熱湯、糞尿、投石などの攻撃に加え、門に張り付いている雑兵には、弓矢で応戦していた。
門の攻防を少し離れた後方から見ている霧斎は少し苛立っていた。
「まだか、まだ突破出来ないのか。日が暮れるぞ。」
「殿、城方からの攻勢いきよい良く。まだまだこれからですぞ。」
近くに座っている近習に宥める事をされた霧斎は、表情を少し抑えるようにしたが腹の底では最も苛立っていた。
そして、その苛立ちは腹痛の症状も出てきていた。
そして攻城戦を始めてから日が暮れようとしていた。
攻撃中の前線指揮を執っている霧斎の所に伝令が走ってきた。
「馬上から失礼します。信長様よりの伝令でござる。」
伝令が馬上の上から、「日没のゆえ、攻勢を辞めよ」と信長からの口上を伝えた。
伝令兵は「では、失礼」と言って次の所に向かうのであった。
「使番、命を下す。兵を引かせろ。」
使番が伝令として、各組へ走って行った。
そして、信長のいる本陣から退却の太鼓がなり、一旦攻撃を辞め、城下町を眺める場所に陣を移し警備の者を残し急速に入った。
眺めの良いところに布陣をして、主だった将が信長の幕に集められていた。
「これから、無用な攻撃をせずに包囲することにした。霧斎、何かあるか?」
「いえ、有りませぬ。」
「他、あるか?」
陣幕に集まっていた者達は頷き、解散となった。
食事を取り、各々陣幕で休んでいる時、外で激しい音がした。
霧斎は刀を取って、陣幕を出てみると清洲方の雑兵が斬り掛かってきた。
「お、おのれ!邪魔だ!」
霧斎は刀を抜くと目に止まらぬ速さで、雑兵をバタバタと急所を狙いながら斬り殺していた。
「(やはり、甲冑とか着るよりかは動きやすい。軽量化を最優先で防具開発をしないとな。)イヤァァァ!」
霧斎は急ぎ、信長のいる陣幕に向かい陣幕に近づくと信長と小性が雑兵と戦っていた。
「殿!救援に参りましたぞ!」
霧斎は、まず小性に斬り掛かっている雑兵を背後から斬り捨て、信長を助けた。
「霧斎殿!」
「殿をお頼み申す。」
「霧斎、予定地点で折り合おうぞ。」
「は!では、血路を開きます。」
霧斎はまた目にも止まらぬ太刀速さで、近くの雑兵や足軽らしき者達を斬り殺していた。
「善丸、霧斎の姿が見えぬ時と複数居るように見えるのだが。まるで壇ノ浦の義経みたいじゃ…」
「と、殿。額から血が。」
この時、信長の額から先程受けた傷から血が垂れてきて意識が朦朧としていた。
信長は「姿が見えぬ時と複数居るように見える」と言ったが、あながちこの表現は間違っていなかった。
霧斎は、この時軽装であった。
もし、重装ならこんな動きは出来なかったであろう。
信長は霧斎が斬り開いた脱出道で、近習の小性と共に戦場を脱出した。
霧斎は信長を脱出させると再度戦場に戻り、自部隊への合図として戦場の喧騒中、竹笛を吹き部隊へ合図を出した。
「(これで、自部隊は戦場から逃げるだろ。)」
霧斎はそう思ったが、敵の指揮官は焦っていた。
何故なら、何処からともなく戦場で聞く音以外の音が聞こえ、敵の統制の取れた動きの為の音なのかそれとも違った音なのか焦って迷っていた。
「誰ぞ、この音は何じゃ!」
「分かりませぬ。」
味方でも一部の者達が戦場になっている陣幕から退いて行き、統制の取れた退却の仕方であったが、主にほとんど私兵である十六夜隊が撤退して、多くの武将がまだ残っていた。
十六夜隊にはそういったその中で、動く小隊がおり。
小隊は班に別れて、各武将の元に向かった。
「柴田様でしょうか?」
「何奴!」
本人は刀に手を掛け、近習は血濡れた刀を構えていた。
「十六夜隊の者です。殿は陣幕から脱出しました。殿様から言伝です。柴田様方も脱出せよとのことです。御免!」
十六夜隊からの報告により、出陣していた主だった武将は戦場を、脱出した。
〜尾張国信長領近辺〜
戦場から脱出してきた多くの将兵が、次点の拠点に撤退してきた。
「殿!柴田戻りました。十六夜殿のお陰です。」
「殿、柴田様、丹羽様、前田様、林様、池田様、佐久間様、十六夜様。全員戻りましてございます。」
信長の近習が信長に伝えた。
地面に座っていた信長は顔を上げると、今後の事を話した。
「皆、よく聞け。此度の戦で清洲を落とすことができなかったが、儂は諦めておらん。今から残った者達で城を攻撃しようと思う。どうだ?」
平服していた林が発言した。
「恐れながら申し上げます。今、このままの兵力では清洲は落とせませぬ。」
「そうか。して兵は何人いる?」
「は、申し上げます。柴田様兵七十人(ニ百五十人)、丹羽様兵三十人(六十人)、前田様兵二十(八十人)、林様兵三十五(三百五十人)、池田様兵二十五人(六十八人)、佐久間様兵二十人(八十ニ人)、十六夜様兵六十(百十人)、計二百六十名(千人)にございます。負傷者及び行方不明者、逃亡者(七百三十人も)は含めておりません。」
集計が終わった者が報告した。
「兵2000で城を立って、これだしか残らなかったのか…」
「やはり、夜襲が痛手でしたな。」
「全く持ってその通り、当時の見張りは何をしておった。見張りの当番は誰ぞ!」
「柴田様、見張り当番の者も死亡しております。」
信長の近習の者が再度、声を掛け。
その場は重い雰囲気に包まれていた。
「止む終えない。一時退却する。霧斎、近くに付城を建て次の出陣に備えよ。」
「は!」
こうして、十六夜隊を除く信長軍は本拠地である那古屋に帰還。
一年後に再度出陣するのであった。
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